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第449話

奏は驚いた表情で隣にいる女性を見つめた。

彼は先ほど別荘に入る時、遠くから彼女を一目見た。

その時、彼女の顔には笑顔があったのに、彼が視界に入った瞬間、その笑顔は跡形もなく消えてしまった。

彼がソファに近づく頃には、彼女はすでに黙って彼の視界に入らない隅に退いていた。

しかし今、彼女は彼の隣に座っており、彼は彼女の痩せた顔と、困惑した瞳をはっきりと目にすることができた。

彼女は随分痩せていた。

そのせいで彼女の鋭い気迫も失われていた。

彼女の雰囲気は打たれ弱くなっていて、まるで彼が片手で彼女を潰せてしまいそうなほどだった。

彼女は彼と一瞬だけ視線を交わした後、立ち上がろうとした。

しかし、彼の大きな手は彼女の手首をしっかりと掴み、彼女を行かせなかった。

その場にいた全員が、目の前のこのドラマチックな展開を面白そうに見ていた。

実は、奏ととわこが交際していたことは、裕之の友人や瞳の友人の間でも噂になっていた。

今、二人がこうして引っ張り合う姿を目の当たりにして、彼らの心の中の好奇心が燃え上がった。

おそらく彼らの念が強かったからだろう、その後の展開は彼らの期待通りに、制御不能な方向へ進んでいった。

「ピン!」という音が響いた。

奏の手首に装着されている心拍計が、警報を発したのだ。

彼の心拍数は、80から一気に120に跳ね上がっていた。

美人を見ても、イケメンを見ても、子供やキスシーンやラブシーンを見ても全く反応しない彼が、とわこが隣に座ってからわずか2分も経たないうちに、心拍が乱れてしまった。

なんという奇跡だろう!

この展開は、誰も予想していなかった。

警報の音は、まるで重いハンマーのように、奏ととわこに降りかかった。

とわこは恥ずかしそうに顔を赤らめ、手で顔を覆って周囲を見ようとしなかった。

一方、奏は素早く手首から心拍計を外し、「パチン!」と音を立てて放り投げた。

「このクソが!」と彼は思った。

奏の表情は厳しく、しかしどこか困惑していた。

その光景に笑いをこらえようとしたものの、隣に座っていた一郎が先に声をあげて笑い出した。

彼が笑うと、他の人たちも自然に笑い出し、瞬く間にリビングには爆笑がこだました。
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