Masuk注文を済ませると、桜は黒介に向かって言う。「とわこの会社、今かなり大変なんでしょ。きっと今はいちばんお金が必要な時よ。黒介、あんた今は常盤グループの社長なんだから、社長らしくちょっと援助してあげなさいよ」「いいよ。どうすればいい?」黒介は素直に答える。「一郎に電話して、三千院グループに投資したいって言えばいいの。もしくは、はっきりと、とわこにお金を渡したいって言ってもいいわ。そう言えば、あの人なら察するでしょ。あんたは今社長なんだし、きっと言うこと聞くわよ。それに、一郎だって助けたいはず」黒介はうなずく。「でも、番号を知らない」「私が持ってる」桜はスマホを取り出し、ブラックリストから一郎の番号を探し出して読み上げる。「さっき言ったこと、覚えてる?」「とわこにお金をあげたい」黒介はそう答える。「そう。それをそのまま言えばいいの」桜はそう言って、黒介の代わりに電話をかける。少しして、電話がつながる。「もしもし」電話から、一郎の低い声が聞こえる。声が聞こえた瞬間、桜は黒介に目配せして、話すよう促す。だが黒介は、桜の大げさな表情につられて、頭が真っ白になる。一郎がもう一度声を出したところで、桜が怒鳴る。「ほんとに鈍いんだから」桜の声を聞き、一郎は一瞬戸惑う。「何で怒ってるんだ。これ新しい番号か?」「違うわよ。あなたの社長の番号」桜は不機嫌そうに言う。一郎はさらに混乱する。「それって奏の新しい番号か?君はアメリカにいるはずだろ。まさかY国に行ったのか」「今の社長が誰か、ちゃんと理解してる?そんな頭でよく財務部長やってるわね」桜は容赦なく皮肉る。一郎は顔を赤くする。「黒介のことか。これは黒介の番号なのか」「社長の番号すら登録してないなんて、社長をなめてるの」「もうからかわないでくれ。で、今日は何の用だ」一郎はため息まじりに言う。「黒介、あんたが言いなさい」桜はスマホを黒介に渡す。黒介は受け取り、丁寧に口を開く。「こんにちは。とわこを助けたい」「何だって?」一郎は聞き返す。一郎の戸惑った声を聞き、桜はすぐにスマホを取り上げる。「黒介はとわこを助けたいの。今は常盤グループの社長だから、会社が稼いだお金はある程度自由に使えるでしょ。黒介はとわこにお金を渡したいのよ。あなたは財務を見てるんだから、こ
とわこは違和感を覚える。あの時、俊平に尋ねたことがある。俊平の答えは、投与した麻酔量は全身麻酔に達していないというものだった。彼のことを心から信頼していたため、具体的な量までは確認しなかった。二度目の検査をすると言われた時も不思議に思ったが、検査結果を見せてほしいとは頼まなかった。今になって真に疑問を投げかけられ、何も答えられない自分がいる。「俊平は一体何をしていたんだ。あの専門性なら、無茶をするとは思えない」真は腑に落ちない様子で口にする。だが俊平はすでに亡くなっており、確かめる術はない。「真さん、まさか陰謀論じゃないよね」とわこはそう言いながら、自分の体に意識を向け、違和感がないか確かめる。今いちばんつらいのは頭の傷だけだ。手術前には、体のどこにも不調は感じていなかった。俊平がわざと全身麻酔をして、何か悪いことをするとは思えない。ただ、手術前日に全身麻酔をしたという事実は、やはり不可解だ。「真さん、もう理由はわからないと思う。それに体も特におかしくない。きっと大丈夫」とわこはそう言う。「念のため全身検査を受けよう」真は安心できない様子だ。「体調が問題ないなら、今すぐ行こう」とわこは蓮と桜、黒介に視線を向ける。「彼らのことは気にしなくていい。まずは自分の体だ」真が言う。「検査には行く。ボディーガードが彼らを送る」「真さん、最近の私に厳しすぎない」とわこは少し不満そうに言い、彼と一緒に検査へ向かう。「奏から電話があった」真は歩きながら説明する。「今の君は相当わがままだってな。病気が見つかっても手術を先延ばしにして、手術後は入院を嫌がるって」「どうして私のいないところで悪口を言うの」とわこは眉をひそめ、むっとする。「彼がY国に行かなければ、私だってこんなことにならなかった。自分のことを反省すればいいのに」「彼のことはどうでもいい」真はきっぱり言う。「問題は、君が手術の後一週間で退院しようと騒いだことだ。無茶にもほどがある。もし先生が生きていたら、間違いなく叱られている」教授の名を出され、とわこは一気におとなしくなる。二人が病室を離れたあと、蓮は桜と黒介を連れて病院を出る。「お腹すいてない?私はちょっと空いた」桜が口を開く。「じゃあご飯にしよう。あとでママの分も買って持っていく」蓮が言う
「うん、好き嫌いはないよ。適当に買ってきて。買いすぎないでね」「わかった」真が出ていくと、とわこは宙に浮いていた心が少しずつ落ち着いていくのを感じる。ベッドに横になり、スマホを開いてマイクに電話をかける。コール音はすぐに途切れる。「今、アメリカで入院してるの。退院まで十日から半月くらいかかりそう」自分の状況をそのまま伝える。「やっと抜け出せたんだな」「でも、奏はまだあっちにいる」とわこは視線を落とし、彼の身を案じる。「それでも二人そろって向こうにいるよりはいいさ。それに奏はもともとあの連中とやり合ってきた人だ。簡単にやられるとは思えない」マイクはそう言ってから、声色を変える。「とわこ、俺、君の会社を倒産させるかもしれない」以前から聞いていた話なので、心の準備はできている。「今の会社の状況はどうなってるの?」とわこは尋ねる。具体的な話を聞いていなかったため、不安が残っていた。マイクが包み隠さず説明すると、とわこは思ったほど悲観しなかった。「まだ最新モデルの製品があるよね。まずは耐えよう。どうしても無理なら、生産ラインを一部整理すればいい。トカゲは尻尾を切って生き延びる。今の私たちも、生き残る方法を考えないと」そう言うと、マイクの声が少し震える。「昨夜、レラがどこからか会社の危機を聞きつけたみたいでさ。カードを一枚渡してきたんだ。自分が稼いだお金だから、君の会社を救ってって」とわこの胸が締めつけられる。「今日そのカードの残高を確認したら、四億円近く入ってた。どうしてあの子があんな大金を持ってるんだ?」マイクは首をかしげる。「それはレラのお金じゃない」とわこはかすれた声で言う。「レラのカードはずっと私が預かってる。昨夜あなたに渡したのは、たぶん涼太が持たせたもの」「なるほど。だからレラが会社のことを知ってたんだな」「涼太は、私が困ってる時にいつも黙って助けてくれる」「今度、飯でも奢らせてもらうよ」「うん。会社のことは、もう少し整理してから考える。今、ちょっと頭が痛いから少し休むね」とわこはベッドに身を沈める。「わかった。今は社内も落ち着かなくて、俺は動けない。しっかり療養して。帰国を待ってる」「うん」三時間後。とわこは目を覚ます。病室には、蓮と桜、黒介がいる。三人の
「彼女は俺が手配して出国させる。帰国したら、病院に連れて行く」奏は医師に説明した。医師はそれを聞くと、すぐに退院証明書を作成した。とわこは、自分の生活が他人に干渉されることに、眉をひそめる。彼女は奏の腕をつかみ、外へ歩き出した。二人は事務室を出て、隣の通路へ向かう。「奏、私、今は帰国しない」「もう航空券は手配済みだ。今日出発だ」奏は彼女の言葉を聞いていないようだった。「行かない」「行かなければならない」奏の口調は厳しくはない。彼女はまだ病人だ。激しい口論になるつもりはない。「出発すれば、俺が必ず復讐を助ける」とわこの胸には、言いたいことが溢れていた。でも口に出すと理性を失いそうだ。言いたいのは、剛を自分の手で殺して、俊平の復讐を果たしたいということ。しかし、今の病み上がりの体で、どうやって剛を殺せるというのか。失敗すれば、剛の手に落ち、奏に迷惑をかけるだけだ。「どこの航空券を手配するつもり?」しばらく沈黙した後、とわこは尋ねた。「まだ買っていない。君はアメリカに行くと言っていたから、日本かアメリカか迷っていた」奏は答える。「アメリカに行く」とわこはかすれ声で言った。「俊平の両親に会いに行って、謝りたい」「元気になってからでいい。もし責められたらどうする?」奏は言う。「俺の用事が片付いたら、一緒に行こう」とわこは答えない。しばらくして医師が退院証明書を手渡す。奏は受け取り、彼女を病室へ連れて行く。とわこは荷物をすでにまとめており、ボディーガードが荷物を持って待機している。「行くぞ」奏が声をかける。ボディーガードは聞いた。「ホテルに戻りますか、それとも……」「空港へ行く」奏はとわこの手を握り、選択の余地を与えない。ボディーガードは荷物を持ち、後ろに従う。心の中で安堵する。奏がいなければ、とわこはきっと剛を探しに行っていた。命知らずなとわこだが、ボディーガードはさすがに恐れていた。飛行機はY国を離陸し、数時間後にアメリカへ到着。真が空港で出迎える。真はすぐ病院へとわこを連れて行った。とわこ「???」「まだ一週間しか入院していない。これでは全然足りない」真は説明する。「おとなしく入院して、何も考えないことだ」「真さん、せめて結菜と黒介に会わせてよ!
会議後、マイクの気分はひどく沈む。幹部たちが責め立ててくれたほうが、まだ気が楽だったかもしれない。彼は子遠に電話をかけ、昼食に誘う。「誰一人として俺を責めなかった。それどころか、俺のせいじゃないって慰めてきた」マイクは缶ビールを手に取り、一気にあおる。「あの人たちは本気で会社が潰れるのを望んでいない。昔、三千院太郎と一緒に働いていた人も多いからだ。そう思うと、申し訳なくてたまらない」子遠は、すっかり意気消沈した彼を見て、胸が痛む。ここ数日、この突発的な出来事のせいで、彼はまともに眠れていない。原因は元恋人にあるのに、すべてを自分の責任だと背負い込んでいる。「とわこに電話して、どうするつもりなのか聞いたほうがいい」子遠は言う。「倒産するか、このまま踏ん張るか、彼女の判断を仰ぐべきだ」「手術したばかりなのに、こんな話で煩わせられるわけないだろ」マイクは首を横に振る。「それに、倒産しても構わないって言ってた。つまり、もう覚悟はできてる。でも俺は無理だ」「彼女が受け入れられるのに、どうしてお前は無理なんだ」「原因が俺だからだ」マイクは残ったビールを飲み干す。「この数日で思ったのは一つだけだ。俺の青春は、全部無駄だったってことだ。あいつは一度傷つけただけじゃ足りなくて、今度は致命的な一撃を入れてきやがった。くそ、殺してやりたい」「もうやめろ。飲もう」子遠は缶ビールを開け、黙って付き合う。「会社を潰したくない」マイクは歯を食いしばる。「奏がいたら、絶対にとわこの会社を見殺しになんてしない。俺は奏が戻るまで耐える」子遠は彼を見る。「そこまで持つと思うか」「もしかしたら、すぐ帰ってくるかもしれない」子遠は何も言わない。水を差したくなかった。希望があるなら、それでいい。もしかしたら、奏が本当に早く戻ってくるかもしれないのだから。あっという間に一週間が過ぎる。とわこは病院にい続けるのがつらくなり、退院を希望する。医師は検査を行い、結果を見たうえで入院継続を告げる。「とわこさん、退院後すぐに帰国して薬物治療を受けるのでなければ、退院は認められません」医師は言う。「この手術なら、少なくとも一か月は入院したほうが安全です」「もう、だいぶ回復している感じがします」「とわこさんも医師でしょう」医師は困
剛は激昂し、まるで奏が何か裏切りでもしたかのような態度だ。「兄貴、今は病気なんだから、ゆっくり休んで。あまり考えすぎないほうがいい」奏は足を止めて言う。「真帆が体調不良だと言っていた。様子を見に戻る」その淡々とした口調に、剛は力いっぱい拳を振り下ろしたのに、綿に当たったような気分になる。奏が去ったあと、剛の胸の内は苛立ちでいっぱいになる。「ますます感情を隠すのが上手くなったな」剛はボディーガードに言う。「さっきはあんなに俺を立てていたが、腹の中では俺を憎んでいる」「俊平っていう医者のことでですか。それだけで、あそこまでにはならない気がしますが」「俊平のためじゃない」剛は眉をひそめる。「とわこのためだ。さっきも言っていただろう、とわこの調子が良くないと。俊平が死んで、あいつは気持ちをやられている」「恨ませておけばいいじゃないですか」ボディーガードは嘲るように言う。「彼女は非力です。どれだけ恨まれても、何もできません。奏だって同じです。ここは兄貴の世界。使ってやっているから価値があるだけで、使わなければ取るに足らない存在です」「それでも、あいつはポリーより使える」剛の声が低くなる。「俺には、まだ必要だ。だが心配はいらない。真帆が必ずあいつを引き留める」……日本。三千院グループ。マイクは幹部会議を開き、会社が直面している問題を包み隠さず共有する。「会社をここまで追い込んだのは、俺の責任です」マイクは言う。「とわこは今、国内にいませんし、経営に関わる余裕もありません。しかも、今の状況では彼女にも打つ手がありません」「つまり、うちで無事なのは最新モデルだけということですか」ある幹部は目を見開く。「その通りです」マイクはうなずく。「旧モデルを作り続けても、売れません。金芝テックは研究開発に金をかけていない分、低価格で出せます。こちらは原価が高く、価格競争になりません」「では、どうすれば?」副社長は苦悩の表情を浮かべる。「生産ラインを止めて、大規模な人員削減をするしかないんでしょうか」マイクは答えない。会社を生かす道は、それしかない。「金城技術は、海外で高額報酬を払って研究チームを雇ったと聞いています」別の幹部が口を開く。「これから新製品を次々に出してくるはずです」「急に、会社が袋小路に追い込まれた気