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第31話

「よい…よい」上原太公は涙で霞んだ目で、目の前の少女の姿はよく見えなかったが、彼女の意気揚々とした様子を感じ取り、心から喜んだ。「ここにはもう長居は無用じゃ。縁起が悪い。このじいはもう行くが、お前もすぐに立ち去るんだぞ」

「はい!」さくらは立ち上がり、太公と上原世平を恭しく見送った。

次男家の老夫人もこの機会に立ち去った。本来なら一言二言かけるつもりだったが、先ほどさくらが難詰されていた時に何も言えなかったので、今さら顔向けできず、今日は来なかったことにしようと思った。

北條家の全員がその場に立ち尽くしていた。彼らにはこの結果を受け入れることがさらに難しいようだった。さくらが一転して太政大臣家の嫡女となり、しかも彼女の夫が太政大臣の位を世襲できるというのだ。

前代未聞のことではないか?どうして他姓の者に爵位を継がせることができるのか?

しかし、陛下の勅旨ははっきりとそう述べている。もし守が彼女と離縁していなければ、守が爵位を継ぐことができたはずだ。

この破格の富貴が、彼らのすぐそばを通り過ぎていった。

一騒動あったが、何も得られず、彼女の持参金さえ一文も手に入れられなかった。

さくらは彼らが呆然としている間に部屋に戻った。梅田ばあやと黄瀬ばあやが四人の侍女と四人の下男、それにお珠を連れて、すでにすべての荷物をきちんと梱包していた。

さくらが先ほど彼らを外に出さなかったのは、部屋で荷物をまとめさせるためだった。

「お嫁入りの品の中には、テーブルや椅子、箪笥などがあって、すぐには運べないものもあります。明日また人を寄越して運びましょう」と黄瀬ばあやが言った。

「そうね、痰壺一つだって持ち去るわ。あの人たちに恵んでやる必要はないわ」と梅田ばあやが恨めしげに言った。

さくらはうなずいた。「行きましょう、私たちの屋敷に帰るのよ!」

嫁入りの際に持ってきた二台の馬車に荷物を積みんだ後、下男が走って行ってさらに二台の馬車を雇ってきた。一行は堂々と将軍邸を後にした。

将軍家の者たちはもはや引き留める面目もなく、皆座敷に引きこもって姿を見せなかった。離縁状はすでに下りており、さくらと北條家にはもう何の関係もない。しかも彼女は太政大臣家の令嬢で、爵位を継ぐこともできる身分だ。太后の庇護もあり、北條家には彼女を敵に回す余裕はなかった。

しばらくして、北條守の
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