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第501話

 文彦はすぐに「申し訳ない」と言った。

香織は恵美が圭介に対して見せた態度から、圭介が文彦を困らせたことをなんとなく察した。

そうでなければ、恵美がこんなに圭介を嫌うはずがない。

圭介がどんな人間か、香織はよく分かっているので、「気にしないでください。圭介があなたを困らせたんですよね」と言った。

お茶を運んできた恵美は香織の言葉を聞いて、「困らせただけじゃないわよ」と言った。

「恵美」と文彦は彼女を遮った。

恵美は不満そうに口を閉じ、お茶を香織に差し出し、「お茶でも飲んで」と言った。

彼女はまだ、文彦が圭介に捕まったのが香織に関係しているとは知らない。もし知っていたら、さっき香織を家に入れることも、お茶を出すこともなかっただろう。

文彦は普段から妻に自分のことを話さない。

このような件については、なおさら知らない方がいいと考えていた。

妻に迷惑をかけないためである。

恵美は悪い人ではない。

ただ、夫をいじめられるのが許せないのだ。

彼女は文彦を心から思いやっている。それだけだった。

「お名前は?」と恵美は香織に尋ねた。

「私は矢崎香織と言います。香織と呼んでください」香織は微笑んで答えた。

話しながら、彼女は無意識に髪をかき上げ、恵美に自分の傷跡を見られないように気を使った。

「香織さんね、あの圭介って男とどんな関係なの?」と恵美は続けた。「あの人には近づかない方がいいわよ。あの人は良い人じゃないわ。うちの文彦を早期退職に追い込み、人命に関わる失態の汚名まで着せたんだから」

「恵美、矢崎先生と話したいことがあるんだ。二人だけにしてくれるか?」

文彦がまた妻を遮った。

恵美は立ち上がり、「分かったわ。どうぞ話して」と言って部屋を出て、ドアを閉めた。

文彦はため息をつき、「お見苦しいところをお見せしてしまったね。彼女はただおしゃべりなだけなんだよ」と言った。

「どうして教えてくれなかったんですか?」香織は恵美の言葉を聞き、心に少し罪悪感を抱いた。

文彦は自分のために圭介に報復されたのだと思ったからだ。

彼女の心は晴れなかった。

文彦は笑って、「ああ、どうせいつかは退職する身だからね」と言った。

「でも、あなたのキャリアはもっと満足のいく形で終わるべきでした……」

「そんなことは重要じゃないよ」と文彦は言った。「君が俺
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