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第2話

「真雪、見ないで、お願い!」

私は真雪の後を追いながら、彼女が別荘の中に入っていくのを見ていた。

ここは佑斗と私の小さな家だ。

正確に言うと、彼が私を隠しておくための場所だった。

だが、彼は長い間ここに来ていなかった。

真雪は部屋を見回し、ようやくテーブルの上にある黒い箱を発見した。

彼女が箱に近づこうとしたその時、外から足音が聞こえた。

振り返ると、そこには佑斗が立っていた。

「真雪、ずいぶん大胆だな!」

床に散らばったガラスの破片を見て、佑斗の顔は怒りに染まった。

私はすぐに彼のそばへ駆け寄り、「佑斗、私……」と叫んだ。

「晴子が俺のデータを盗んで隠れているんだ。とぼけるのもいい加減にしろ!」

「早く戻ってきて謝罪するなら、寛大に処理してやるさ。でも、もし俺が先に見つけたら、その時は覚悟しろ!」

私は驚愕した。

「佑斗、違うよ。私じゃない!」

後ろを振り向き、真雪に向かって言った。

「真雪、私じゃない!」

真雪は冷笑して言った。

「さすがは中野社長ね。初恋相手を見つけることはできても、自分の妻の行方すら掴めないなんて!」

「佑斗、あなたの頭はどうかしてるわ!晴子はあなたの奥さんなのよ。彼女があなたを裏切る理由がある?」

佑斗は冷ややかに答えた。

「それなら彼女に聞けばいい。どうして維人と会っていたのかをな」

「お前から彼女に伝えろ。今すぐ戻ってこい。さもなければ、俺も手加減しないぞ!」

真雪がどんなに説明しても、佑斗は耳を貸さず、彼女をボディガードに引きずり出させた。

真雪は叫んだ。

「佑斗、私は絶対に晴子を見つけて、証明してみせるから!」

私は焦りながら佑斗に訴えた。

「佑斗、維人はあんたを倒すために私を拉致したの。データが漏れた理由なんて、私も知らないわ!」

「そうだ、あの日はあなたの誕生日で、会いに行ったんだった!」

思い出した私は、必死に佑斗に手を伸ばしたが、触れることはできなかった。

佑斗は部屋を見回し、その目は黒い箱に止まった。

私は息を飲んだ。

「見ないで!お願いだから見ないで!」

佑斗がその箱に近づき、手を伸ばして触れようとした瞬間、甲高いベル音が鳴り響いた。

それは、柚月からの電話だった。

スマートフォンの画面に映る「柚月」という文字がやけに目立って見えた。

それに比べ、彼の携帯に登録されている私の名前は、まるで見知らぬ他人のように冷たかった。

「佑斗、忙しいの?怖いの……外に黒い服を着た人がいるの……」

「すぐ戻る!」

電話を切った佑斗は、一度も振り返らずにその場を去っていき、私の魂も彼に引き寄せられてついていった。

半山の別荘に着くと、私は思わず笑いがこみ上げた。

五歩ごとに見張りがいて、十歩ごとに警備員が立っている。

厳重な警備だった。

これでは、維人が私を狙うのも無理はない。

柚月と比べれば、私の方が圧倒的に簡単に近づけるのだから。

維人のことを思い出し、私は身震いした。

死んでしまった今でも、彼のやり口を思い出すだけで恐怖で体が震えた。

彼は私を吊り上げ、一刀一刀体を切り裂きながら、溢れる血を「美人花」と称して眺めていた。

私は腕で身体を抱きしめ、その痛みに耐えようとした。

手の指に残る跡は今でも鮮明で、指だけでなく脚も一本一本折られた。

維人は、「生きた人間で操り人形を作るとリアルになる」と言って、私の関節をすべて折り曲げ、自分の思うままに操った。

風が吹き抜け、ふらふらと目眩がした時、真っ白な服を纏った柚月が、小鳥のように佑斗の胸に飛び込んできた。

「佑斗、怖かったわ!」

彼女の目はわずかに赤みを帯びており、佑斗は肩を軽く叩いて言った。

「大丈夫、俺がいるから」

「佑斗、晴子は見つかったの?お願い、彼女を責めないで。きっと、何か事情があるのよ」

私は驚いて、彼女を見上げた。

すると、柚月の目に一瞬、冷ややかな笑みが浮かぶのが見えた。

佑斗の表情は曇り、「そうであることを祈るよ」と言い、すぐ側のアシスタントに向かって尋ねた。

「どうだ、進展は?」

「まだ消息はありませんが、彼女が最後に姿を消したのは城南区です」

「惠谷さん、本当に城西区で彼女を見かけたんですか?」

柚月は瞬時に緊張し、「私、見間違えたのかもしれない」と答えた。

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