第235話

完全には聞こえなかったが、彼の言いたいことは明確に理解できた。

体の中で、長い間静かだった場所が、再び陥りそうになった。

爪が手のひらを滑った。

微妙な痛みがわずかな理性を呼び起こして、尋ねた。「乾かした？」

江川宏は指先で髪の中を真剣に2回通した。「うん、だいたい終わったよ」

ドライヤーの音が消え、部屋は静かになった。

私は頷いた。「うん......ありがとう」

彼が突然後ろから私を抱きしめ、唇を私の耳たぶに寄せて、慎重かつ曖昧に試しに口を開いた。「俺の言ったこと、少しでも聞こえた？」

彼のような天才が、こんなふうに人に謝るのは、きっと初めてのことだろう。

いつもの軽い「ごめんなさい」とは違い、今回は本当に自分のプライドを捨てた。

私はこのまま陥りたいと思ったが、あまりにも怖かった。再び痛むのが怖くて、同じ過ちを繰り返すのが怖かった。

心の奥の苦しみを押さえ、理性に促されて口を開いた。「聞こえたよ。でも、江川宏、選択したことは一度したらもう取り返しがつかないよ」

私は彼を8年間愛してきたけれど、今は自分をもっと愛したいと思っていた。

男の生まれ持ったプライドが、私の言葉と共に一寸一寸と消えていくようだった。

彼は一瞬呆然とし、喉仏が上下に動き、声はひどくかすれて、ただ「うん」と呟いた。

「今日のこと......」

心臓がぎゅっと締め付けられるような痛みを無視して、私は彼の拘束から軽く逃れ、振り向いて彼を見た。「ありがとう。私は、大丈夫だから、もう行って」

彼は不満そうに私を見つめた。「使い終わったら捨てるの？」

私は彼の視線に気圧され、聞いた。「それで、どうしたいの？」

「南に夕食を作りたい。それをもって謝罪したい」

「わかった、作って！」

私がそう言うと、彼は私を越えて直接トイレから出て、仕事に集中しようと頭を突っ込んだ。

江川宏が料理を作っている時、机の上の書類を一瞥した。「家を売るのは？会社を開くつもり？」

「うん」

このことは遅かれ早かれ彼の知ることになるので、隠す必要はなかった。「でも、家が売れないみたい。仲介業者によれば、見るたびに相手は満足するけれど、再度電話すると何も進展がないって」

これについては、私も少し理解できなかった。

その家の立地と間取りは非常に良く、あまり住んでいなくて、大事にしていた