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第598話

翔は低くつぶやいた。「お前はただの私生児だ。それなのに、祖父は何かにつけてお前を優遇し、挙げ句の果てには会社をお前に譲ろうとまでしていた!なぜだ?僕こそが山口家の正統な後継者だ!」

「じゃあ、お前は僕のことを兄弟だと思ったことは一度もなく、親を殺した仇敵、山口グループの座を奪い合う敵だと思っていたのか?」清次は翔を見下ろしながら、静かに問いかけた。

翔は冷笑を浮かべ、冷たい目で清次を見返した。「そうじゃないか?」

どんな場面でも、翔は常に温厚で優雅なイメージを持たれていた。まるで春の陽気のように穏やかな男だと思われていた。

清次は、そんな冷たく敵意に満ちた目を翔がもう一度見せるとは思っていなかった。

最後に翔がこんな目をしたのは、小学生の頃のことだった。翔が清次のランドセルを川に投げ入れ、清次が木の棒でランドセルを引き上げようとしたとき、彼を川に突き落とした。そして、清次が水をたっぷり飲んで這い上がってきたところで、翔は「祖父に言うなよ」と脅したのだ。

家に戻った後、びしょ濡れの服を見た祖父に対して、清次は「自分で川に落ちた」と説明した。

だが、祖父はすぐに事実を察し、翔と何か話した後、翔は清次に謝った。

その後、二人の関係は改善し、次第に兄弟のような絆を感じるようになっていった。

少なくとも、清次はそう信じていた。

だが、今になってみれば、それはただの彼の一方的な思い込みに過ぎなかった。

翔はただ、自分の憎しみを巧妙に隠し、祖父や清次さえも欺いていたのだ。

「お前がそう考えていたとはな。でも言っておくが、僕はお前と争うつもりはなかった。山口グループの社長の座を決めたのは祖父の判断だ」と清次は言った。

翔は皮肉な笑みを浮かべた。「そんな綺麗事を言っても、僕がその座を欲しがっていたことを知らなかったとは思えない。昔は気づかなかったとしても、今では知ってるだろう?それでもお前は社長の椅子に座ってるじゃないか」

清次は軽く眉を上げた。「それは祖父の遺志だ。お前にその座を譲るつもりはあったが、祖父ほど信頼できる人間は他にいない。僕はお前にチャンスを与えたんだ」

清次は山口グループを2ヶ月半の間離れていた。その間、取締役たちからの再三の要請を断っていたのだ。

もし翔がその間に山口グループを安定させていたなら、清次は戻ることはなかっただろう。

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