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第588話

清次は今朝、太一から陽翔が逃げたという知らせを受け取った。

その瞬間、彼は由佳の気持ちと彼女が警察に通報した理由を理解した。だからこそ、彼が歩美と一緒にいるのを見た時、彼女は清次に怒りをぶつけたのだ......

清次は自分を責めた。

由佳がようやく歩美の弱みを手に入れた直後に陽翔が失踪したのは、きっと歩美と関係があるに違いなかった。

歩美は自らその残酷な拷問を経験し、犯人と向き合うことを拒んでいたため、彼は彼女に時間を与えた。

もし彼が直接、歩美に証言を迫っていれば、陽翔は逃げられなかったかもしれない......

あの誘拐事件があって以来、清次は歩美に対して多くのことを許容してきた。

彼女が由佳を嫌い、証言を拒んでいたことも理解できた。

しかし、彼はまさか、彼女が自分を傷つけた犯人を逃がす選択をするとは夢にも思わなかった。

歩美の行動によって、清次が彼女に抱いていた最後のわずかな同情も消え去った。

今の彼女の状況は、自業自得だった。

それでも、清次の気持ちは晴れなかった。

昨夜の由佳の言葉を思い出すたびに、胸の中に重苦しいものが広がって、吐き出せない怒りが喉にまで詰まって、酸っぱい気持ちがこみ上げてきた。

彼女はなんと、自分を「気持ち悪い」とまで言ったのだ。

由佳の心の中で、自分は何の価値もない存在にされてしまったのだろうか。

清次はただ、仕事に没頭して自分を紛らわせるしかなかった。

由佳からの着信を見ると、清次は驚いた。胸の奥底から、ほんの少しの喜びが湧き上がってきたのは自分でも気づかないほどだった。

彼は携帯を取り上げ、震える親指が通話ボタンの上に浮かんだ。危うくすぐに押しそうになったが、思いとどまった。

駄目だ!

彼女はあんなことを言ったのに、どうして今さら電話をかけてくるんだ?

もしすぐに電話に出たら、自分の立場はどうなる?

自分だってプライドがあるんだ!

清次は少しの間躊躇してから、携帯を机の上に戻し、再び書類に目を移した。

さっき、どこまで読んでいたんだっけ?

清次は書類を見つめたが、頭の中は混乱し、そこに書かれた文字は見慣れたものなのに、全く内容が入ってこなかった。

彼女は一体、何のために電話してきたんだろう?

集中できない!

再び携帯が鳴っていたのを横目で見ながら、清次はそれを取り上げた。

出よ
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