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第587話

林特別補佐員はほっと息をついて、「ありがとう、由佳さん」

由佳は車を運転して家に戻り、まず書斎に入り、写真講座のライブ配信を開いた。

賢太郎の声がスピーカーから穏やかに広がった。

彼の声は少し枯れていて、ゆったりとした語り口で、すぐに専門的な写真の知識に引き込まれていった。

由佳は真剣にノートを取りながら授業を受けた。

ある箇所で賢太郎が少し止まり、軽く咳をしてから水を飲み、授業を続けた。

由佳は、賢太郎が少し疲れているように感じたが、それは気のせいかもしれなかったと思った。

講義が終わると、自動的にリプレイが生成され、由佳は前半部分を見逃していたので、ビデオを再生して補った。

その時、携帯が「ピンポン」と鳴り、Lineのメッセージが届いた。

賢太郎「今日はちゃんと授業受けた?」

由佳「前半は間に合わなかったけど、今リプレイを見てるよ」

賢太郎「わからないことがあったら聞いて」

由佳「ありがとう、慶太。あなたの声、少し不調じゃない? 風邪引いたの? ちゃんと暖かくして、喉を休めてね」

賢太郎は「ありがとう」と短く返した。

実は、彼は風邪を引いたわけではなく、声を酷使しすぎていたから。

もちろん、週に一度の写真講座だけでは、彼の声がこんなに疲れることはなかった。

原因は、最近の会社の買収プロジェクトで問題が発生していたからだった。買収が成功しなかったばかりか、会社の資金の一部を失う結果となってしまった。

その上、賢太郎に不満を抱いていた者たちがこの機に乗じて行動を起こし、彼に対する圧力をかけた。

ここ数日、賢太郎はこの問題の処理に追われ、ほとんど休む時間が取れていなかった。

清次はプロテクノスに興味を示すふりをし、賢太郎を競争に引き込み、賢太郎がプロテクノスの株を買い集め始めた後で、背調会社の問題を明らかにし、プロテクノス内部が買収に反対していることを突きつけた。そして、株の希薄化を図る方針を取ったのだ。

さらに、プロテクノスの広報担当者は、「もし中村家が強制的に買収を進めるなら、収益が出る前に会社の資産を売却する」とまで公言した。

賢太郎は進退窮まっていた。この段階に至って、彼はプロテクノスを手に入れなければ、取締役会に顔向けできない状況に追い込まれていた。

もちろん、中村家の財力をもってすれば、プロテクノスの買収は時間の
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