ログイン今日花は首を横に振った。「ただ眠くて仕方ないの」「じゃあ、もう少し寝てて。元気そうで安心したわ」夕奈は立ち上がり、それ以上は何も聞かずに部屋を出て行った。彼女は階下に降りて朝食を作り、テーブルに並べてから尚年を呼んだ。これまで何かと助けてもらっていたのだから、そのくらいの礼は尽くさなければと思っていた。食事を済ませると、尚年は仕事へ出かけていった。夕奈はソファに腰を下ろし、テレビをつけたままのんびり過ごした。今日花が自然に目を覚ましたのはかなり遅い時間だった。時計を見て、慌てて身支度を整えると階下へ駆け下りた。「夕奈、ごめん、寝坊しちゃった。今から病院に行かないと」「ちょっと
今日花は一人ベッドに横たわったまま、涙が止まらなかった。すぐに枕がびっしょりと濡れてしまった。自分がいつまで泣いていたのか分からなかった。体力を使い果たして、ようやく深い眠りに落ちたのだった。その頃、尚年もまた、一晩中ほとんど眠れなかった。彼は書斎に戻り、冷たい水でシャワーを浴びると、机の前に座って引き出しを開けた。中から取り出したのは、かつてのツーショット写真だった。その写真だけはどうしても捨てられなかった。写真の中の二人は互いに寄り添い、目には相手への愛しさだけが映っていた。だが今――彼は今日花を憎んでいた。今日花もまた、彼のことを心の底から嫌っていた。お互い顔を合わせるのも
「逃げようとしたんじゃない、ドアを閉めに行こうとしただけよ」今日花は慌てて弁解した。今の彼女に逃げるなんて勇気はなかった。もともと尚年は彼女のせいで夕奈に八つ当たりしている。もし今ここで逃げ出したら、それは夕奈を火の上にくくりつけるようなものだった。そんなこと、絶対にできなかった。「俺がドアを閉めていいって言ったか?」尚年は相変わらず不機嫌だった。彼の長い指が今日花の襟元に伸び、一気に引き裂いた。布が破れる音が静寂の中に響いた。「歩いていいとも言ってねぇよ。忘れたのか?前に飼ってた犬だって、四本足で這ってたろ」彼は一瞬だけ間を置き、そして鼻で笑った。「でもお前、もう忘れちま
尚年は「今夜は行く」と言っていた。だから、彼はきっと来るのだ。ついに、外でノックの音が響いた。今日花は一瞬だけためらった。ドアにはすでに鍵をかけてあった。今ここで起き上がって開ける代わりに、そのままベッドに横になって眠ったふりをしたら……今夜だけは逃げ切れるのではないか?明日、尚年に会ったときどうなるか――それは明日考えればいい。次の瞬間、スマホの着信音が鳴り響いた。静まり返った部屋の中で、その音はあまりにも唐突だった。外のノック音もどんどん激しくなっていった。今日花がスマホを手に取って画面を見ると、尚年からのメッセージだった。【どうせまだ寝てないだろ。いい子にしてさっさとドアを
「夕奈……ありがとう」今日花は笑おうとした。けれど唇の端が引きつり、どうしても自然にはならなかった。彼女は背筋を伸ばし、妹と並んで階段を上がる。だが、足を一歩踏み出した瞬間、腰に鋭い痛みが走った。――さっきの尚年の仕打ち。彼はただ、鬱屈した怒りをぶつけるように彼女を乱暴に扱い、彼女の痛みなど少しも気にかけなかった。「お姉ちゃん、また腰、痛むの?」夕奈がすぐに気づき、支えるように腕を取った。「え、ええ」今日花はごまかすように答える。「やっぱり……あの頃、何年も無理して働いてたからね。バイトも掛け持ちして。そりゃ腰も悪くなるわよ。もう無理しなくていいの。今は私と景吾がいるんだから
ダイヤという言葉を聞くだけで、尚年の胸の奥には鋭い痛みが走る。それを見るたびに思い出してしまう――今日花との、あのどうしようもなく愚かな愛の日々と自分を。「ありがとう、景吾!」夕奈は心から嬉しそうに笑った。だが、尚年は何も返さなかった。その代わり、彼はゆっくりと今日花の耳元に顔を寄せ、わざと心をえぐるように囁いた。「お前の妹と婚約指輪を買いに行った時な、彼女は金は工賃が安いものでいいって言って、ダイヤは中古で十分って言った。あの時は不思議だったよ。どうしてあんなに節約に必死なんだろうってな。……でも今なら分かる。全部、お前に渡すためだったんだな」――中古のダイヤ。今日花の涙が、堰