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第171話

松本若子は手に持ったスマホをぎゅっと握りしめ、胸が痛むのを感じた。おばあちゃんが涙にくれている姿を思い浮かべると、心が締めつけられるようだった。

自分はずっとおばあちゃんのそばにいたのに、そんなことに気づかなかった。けれど、藤沢修はそれを見抜いていた。彼に対して誤解していたのかもしれない。彼はおばあちゃんを気にかけていないわけではなかった。ただ、彼のやり方は自分のように表立って見えるものではなかったのだ。

藤沢修は、感情を表に出すタイプではない。

「ずっとこんな風に引き延ばしていくつもりなの?」と松本若子は、手のひらに汗を感じながら言った。

「雅子とは、距離を保つと約束する」

松本若子は笑ってしまった。「距離を保つ?今さらそんなことを言われても、もう既にあったことを見て見ぬふりなんて、私にはできない」

「俺と雅子の間に、お前が想像しているようなことは起きていない!」

「説明しなくていい。私は自分の目で見たんだから」リゾートで見たあの光景を思い出すと、松本若子は胸が痛んだ。

「お前が見たものが、必ずしも真実とは限らない」

「じゃあ、どういうものが真実なの?」松本若子は問いかけた。

「お前と桜井雅子が抱き合っていたのは真実じゃないの?同じベッドにいたのも真実じゃない?藤沢修、私を三歳児だと思っているの?」

彼女の声は冷静だったが、言葉を重ねるたびに、心が重くなっていった。

......

藤沢修はしばらく黙っていた。

十字路に差し掛かったとき、彼は直進する予定だったのに、突然ハンドルを右に切って進んでいった。

「どこへ行くの?」松本若子は尋ねた。

藤沢修は答えず、そのまま車を進めて、最終的にある洋館の前で車を止めた。

彼はシートベルトを外し、車から降りると、助手席側に回ってきてドアを開け、「降りろ」と言った。

「ここはどこ?」松本若子は尋ねたが、

藤沢修は答えず、「降りろ」とだけ繰り返した。

松本若子は仕方なく車を降りた。

バタンという音とともに、藤沢修は車のドアを閉め、彼女の手を引いて洋館の中に連れて行った。

彼は鍵のパスワードを知っていて、それを入力すると、扉が自動的に開いた。

中に入ると、中年の家政婦がすぐに出迎えた。「藤沢先生、お帰りなさいませ」

「雅子は帰ってきているか?」

「桜井さんはまだお戻りではありません」
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