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第170話

車内。

松本若子は副座に座り、藤沢修は無言で車を運転していた。

松本若子は何度か話そうとしたが、沈黙を守る藤沢修を見て、彼女も口をつぐんだ。

まるで誰が先に話し始めるかで勝敗が決まるかのような、静かな戦いが続いていた。

しかし、彼女がそんなことを考え始めた頃、藤沢修が先に口を開いた。「今日のこと、もうこれ以上考えないでほしい」

松本若子は眉をひそめ、「それなら、どうしてまたその話を持ち出すの?」

「ただ、事実をきちんと説明したかっただけだ。手術の件に関して、ちゃんと真相を調べるつもりだ」

松本若子は軽く鼻で笑った。「つまり、最初は何も調べずに、ただおばあちゃんがやったと思ってたのね?」

藤沢修は答えた。「そうだ。おばあちゃんがやったと考えたからこそ、あえて調べなかった。どちらにしても、雅子はすでにその代償を払っている」

松本若子は冷笑した。「つまり、彼女が何を言っても正しいし、何をしても許される。なぜなら彼女は体が弱いから?」

「もしお前だったらどうだ?雅子のように体が悪いけれど同情される方がいいか?それとも健康だけど、誤解される方がいいか?」

松本若子は突然笑い出した。「なるほどね。体が悪いと、無限にかばわれて、同情される。今日は本当にいい勉強になったわ」

体が弱いだけで、何をしても許される。たとえ間違いを犯しても、可哀想だから許されるのだ。

藤沢修はそれ以上、何も言わなかった。この話はこれで終わりにするのがいいだろう。

説明すればするほど、若子の心をますます不快にさせるだけだ。

「今日、私たち離婚しましょう。家に帰って戸籍を持ってくるから、もうこの件を先延ばしにできないわ」松本若子は静かに言った。

......

「若子、この離婚の件、もう少し話し合わないか」

「話し合う?何を?」と松本若子は問い返した。

「それなら、このまましばらく離婚しない方がいいと思うんだ」

松本若子は驚き、言葉を失った。「今、何て言ったの?」

「離婚は、しばらく待ってほしいんだ」彼はもう一度言った。

......

松本若子は急に笑い出したが、それは決して喜びからではなく、あまりにも皮肉な気持ちからだった。「どういうつもりなの?離婚を切り出したのはあなたでしょ。その後、いろんなことがあって離婚できなかっただけなのに、今さら離婚を待てって?何?離婚
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