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第145話

「大丈夫、一枚のシャツだけだよ」遠藤西也は微笑んだが、つい口元の傷を引っ張ってしまい、少し痛みが走った。

「病院に行ってみる?」松本若子は、彼の顔の傷が少し腫れているのに気づき、心配そうに尋ねた。

「平気だよ。表面の傷だから、数日経てば治るさ」

「それじゃだめよ。少なくとも薬を塗らないと。放っておくのはよくないわ。家に救急箱ある?私が薬を塗ってあげる」

遠藤西也は最初、「大丈夫だよ」と言おうとしたが、彼女が今とても悲しんでいることを思い出し、何かに集中して気を紛らわせるのも良いと思い、うなずいて使用人に救急箱を持ってこさせた。

松本若子は救急箱を開けて、彼に薬を塗り始めた。とても慎重で、彼を痛ませないように心がけているのが伝わった。

二人の距離はとても近く、呼吸が混じり合うほどだった。松本若子はただ彼の傷を処置していただけだったが、遠藤西也の視線はずっと彼女に向けられていた。

松本若子は彼の口元の傷を見つめながら、藤沢修のことを思い出してしまった。彼もまた傷を負っていたし、自分は彼に平手打ちまでした。

それでも、藤沢修には桜井雅子がいる。自分が心配する必要なんてないはずなのに。

そんなことを考えると、松本若子の手が震え始めた。

「どうした?」遠藤西也は心配そうに尋ねた。

彼の声で、松本若子はぼんやりしていた頭が現実に引き戻され、自分が彼にあまりにも近づきすぎていたことに気づいた。慌てて距離を取って、「大丈夫、薬はこれで終わりよ」と言った。

「ありがとう」遠藤西也は使用人に救急箱を片付けるように指示した。

「お昼ご飯は何が食べたい?」

「もう帰るわ」松本若子はぎこちなく笑いながら言った。

「昼食を食べてから帰ったらどう?帰っても一人で食べることになるし、僕もここで一人で食べるつもりだった。友達と一緒に食べるのも悪くないだろう。君、僕に食事をおごる約束を忘れたの?」

彼の言い分に納得せざるを得なかった松本若子は、うなずいて「それなら…」と言った。

「何が好き?キッチンにお願いして作ってもらうよ」

「私は何でもいいわ。あまり脂っこいものじゃなければ。そうでないと、すぐに気分が悪くなるから」彼女は軽く自分の腹を撫でながら言った。

「わかった、了解したよ」

その後、遠藤西也はキッチンに昼食の準備を頼み、松本若子とソファに座った。

彼女
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