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第9話

私は説明したかった。この冷蔵庫は保冷モードではなく、冷凍だと彼女に伝えたかった。

ひなたがこっそりモードを切り替えたのだ。

しかし、彼女が去るまで、私は一言もまともに話すことができなかった。

ここはあまりにも寒く、口の中は物で塞がれていて、何も言えなかった。

精神が不安定な岳を見て、少しおかしく感じた。

岳、私は命をあなたに返した。もうこれ以上何を不満に思うの?

岳には二つのメールが届いた。

一つは彼が検査に出した妊娠検査薬で、報告書には私のDNAが示されていた。

岳は苦笑し、もう一つの報告書を手に取った。

思い出した。これはひなたが私たちの家に現れたときに、私が探偵に依頼して調べた報告書だ。

まさか私が死んでから結果が届くとは思わなかった。

そこには、ひなたと早川先生が不適切な関係にあり、岳を騙してお金を取ろうとしていることが書かれていた。

さらに、ひなたが偽装妊娠し、早川先生に偽の診断書を作らせていたことも。

岳は二つの報告書をしばらく見つめ、最後に指先がその妊娠検査薬にそっと触れた。

「嵐、君は僕が父親にふさわしくないと思って、彼を連れて行ったのかい?」

私は考えながらうなずいた。

そうだ、たとえ生き延びていても、この子を堕ろしただろう。

岳はもう子供の父親になる資格はないし、私が愛し続ける価値もない。

私は命をかけてこのことを学び、十年間抱えてきた罪悪感に終止符を打った。

解放されたのだ。

そう思うと、体の痛みも和らいだ気がした。

無意識にお腹に手を当てた。ここにはかつて小さな命が宿っていた。

しかし、いつの間にか彼は血だまりとなり、私と一緒にこの冷凍庫の中で消えてしまった。

突然、岳はUSBメモリを手に警察署へと向かった。

彼は自首しに行ったのだ。

USBメモリを机の上に放り出し、両手をまっすぐ前に差し出し、裁きを待っていた。

目の前の人々は監視カメラの映像を見て表情を曇らせた。

岳は映像を見つめ、目は血走っていたが、次第に異変に気づいた。

「僕は8度の保冷モードに設定したのに、なぜ彼女は死んだんだ?検死報告書では、彼女は翌日に…」

映像を巻き戻し、ひなたが私に話しかける場面で止めた。

右下が拡大され、ひなたの手がこっそり冷凍庫の下に伸び、モードを切り替えていた。

岳は狂ったように何度も映像の再
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