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第92話

視線が絡み合った瞬間時が止まったかのように感じられ、呼吸さえも一時停止されたかのようだった。

「宮沢さんだ! 本当に宮沢さんだ!」 誰かが彼を認識して叫んだ。

「隼、隼人兄さん......」 白露は、まさか隼人が現れるとは思っていなかった。心の中で恐怖がよぎった。

彼女は多少なりとも隼人を恐れていた。宮沢秦が毎日のように彼を「日の当たらない私生児」だと罵っていたにもかかわらず、今の宮沢家で最も影響力を持っているのは隼人であることは否定できなかった。

「井上、白露お嬢さんを早く連れ出してくれ」 隼人は無表情で命じた。

すでに誰かが写真やビデオを撮り始めており、これ以上の時間を浪費すれば宮沢家の顔をすっかり失ってしまう恐れがあった。

井上は急いで白露を引きずるように連れ出した。彼女は茫然としていたが、抵抗する気力もなかった。

桜子は冷ややかに内心で嘲笑し、無言のまま視線を引き戻した。

そうだ、これが隼人だ。心の奥は氷のように冷たく、容赦のない男。

彼は誰が正しいか間違っているかなど考えず、常に自分の利益と宮沢家の顔を最優先に考える男だ。

「まずい! 彼女が自分の舌を噛もうとしてる!」 翔太が恐怖に満ちた声で叫んだ。

桜子の心臓が一瞬で締めつけられた。緊急事態に自分の腕をその女性の口の中に押し込んでしまった!

その女性は桜子の美しく柔らかい手首に噛みつき、激痛が全身に走ったが、彼女は眉一つ動かさずその痛みを必死に耐えた。

「お前......!」 隼人は震えるように体を動かし止めようとしたが間に合わなかった。

彼女が自分の体を張ってまで患者を助けようとする姿に、隼人は驚きを隠せなかった。

その小さくて華奢な身体に、計り知れない勇気と慈悲の心が宿っている。

この光景は隼人にとって久しぶりの感動を与えた。

突然彼の脳裏に浮かんだのは、小白鳩のか細い姿だった。

あの年、戦場で負傷した彼を麻縄に結びつけて遠くまで引きずってくれた少女がいた......

「あきらめないで! 私たちはきっと生き延びる! 必ず生き延びるのよ!」

その後彼はその少女を見つけることはできなかったが、血に染まった麻縄だけは見つけた。その手は今どうなっているのだろうか......。

思い出に浸りながら隼人の指先は麻痺した
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