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余りにも直球過ぎてこの人の将来が心配だ《3》

Penulis: 砂原雑音
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-04 15:51:15

流石に真剣に悩み始めた男の手が緩む。

その隙に振り払って、距離を取った。

「少しは頭が冷えましたか」

若干眉根を顰めて見えるのはきっと、脳内でおぞましい映像でも流れてるんだろう。

その様子を見ていると、さっきまでの苛立ちがすっと収まった。

かといって、代わりに溢れて来たのは好意的な感情でもなく、寧ろ逆で、軽蔑に近い。

自然と男を見る目が冷やかになる。

馬鹿なお調子者といった雰囲気ではあったが、嫌いなタイプではなかった。

だが、なんて浅慮で物を言う男だろう。

「冷えたっつーか……男同士で諸に想像してしまうと」

「だったら無理でしょう。軽いノリで言っていいことではないですよ」

実際にそういった性癖の人間だっているというのに。

彼らが聞いていればきっと、「馬鹿にするな」と言いたいだろう。

溜息を落としながら壁に手をあて照明のスイッチを入れると、ぱぱっと点滅した後に白色灯が部屋を照らして、薄暗い部屋に慣れていた目が一瞬眩んだ。

目を細めて、明るさに慣れるまで数秒かかった。

軽く瞼に力を入れて漸く視界がクリアになったころ、同じように目頭に皺を寄せている男の姿が目に入る。

向こうも丁度、焦点が合ってきたところだったんだろう。

ぱちりと視線が絡まって、身構えたままなぜか言葉に詰まった一瞬。

彼が、笑った。

それこそぱっと光が差したように嬉しそうで、思わずどきりと心臓が跳ねた。

「……何をへらへらしてるんですか」

動揺したせいだ。

ちょっと告白されたくらいで、変に意識してどうする、と説明のつかない鼓動を動揺のせいにした。

余りにも陽介さんの言葉が直球過ぎるから、動揺させられるんだ。

ほんと、迷惑な男だと脳内で散々悪態をつく。

「いや、すんません。確かに、軽率だったなあと……なんで訂正します」

彼は随分あっさりと、さっきの言葉を改めた。

ほら、見たことか。

案外我に返るのが早かったな、と安堵の溜息が漏れそうになったが。

「抱きしめたい、は訂正します。近づきたいです。慎さんに」

その言葉にぎゅっと顔を顰めて、溜息は飲みこんだ。

「……何が違うんですか、それ」

「キスとかセックスとか、そんなんはとりあえず置いといて。慎さんに近づくチャンスが欲しいなあと……だめっすか」

「だから、何が違うんだって」

「女とでも、別に最初っからセックスばっかり考えるわけじゃない
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    フロア奥にある、カーテンで遮られているだけの更衣室でロッカーを開けると、手にしていたトートバッグの中から白い道着を取り出した。 ボタンを外してシャツを脱ぐと、骨張った細い肩が露わになる。 ロッカーの内側にある小さなミラーに、鎖骨や肩の骨が映ってその華奢さに溜息が落ちた。「……もう少し、肉をつけたらがっしりして見えるかな」肉がついたら、ここもデカくなったりするんだろうか、と胸元を覗き込んだ。 朝起きた時は陽介さんのこともありさらしを巻いていたけれど、どうも息苦しくて結局またチューブトップ一枚で隠してある。 もともと、豊な方ではない。 どちらかというとささやかだ、かなり。 まあ、デカければ隠すのに苦労するわけだから、小さくて良かったと思うべきなのだろうけれど。家族以外の場所でここは唯一『女』として居られる場所で、ここではほんの少し、楽に呼吸ができる。 だが、外では男として働いているなんてことは当然先生も他の生徒も知らない。 男のような格好は、僕の単なる趣味だと皆思っている。 決して僕は、男になりたいわけではなかった。 ただ、自分が『女』であることが怖い。 チューブトップを着たまま道着を羽織り、ぎゅっと前を合わせて両手で握りこむ。”あんくらい勢いあるやつなら、お前もぶっ壊れるかな、と思って”今朝の佑さんの言葉が、頭を過る。 僕は、必死で守り続けているというのに。 佑さんは、壊したい、と言う。「他人事だと、思って」ぼそりと悪態をつくと、下唇を噛みしめた。――――――――――――――稽古を終えて、女性陣は暫くの間雑談しながらのんびりと着替え

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    僕がそう言うと、彼はきょとんとした顔をした。まるで、僕の言った意味がわからないようだった。「なんでですか?」「いや、なんでって。普通、気分悪いでしょう」「俺としては、慎さんをもっと知るのに都合がいいし。あんなに心配性の佑さんが番犬に任命するくらいには、信用されてるのかと思って」「……」嬉しそうに破顔する、その邪気の無さに返す言葉が見つからない。がたんごとん、と電車が揺れる。降車駅が近づいて、車掌のアナウンスが流れた。「ここです。降りますよ」とん、と腕を叩いて一緒に降りるように促すと、やはり彼は嬉しそうだった。駅を降りると、目的地はすぐ近くだ。こじんまりとしたビルの二階のフロアを貸し切っていて、下から眺めると窓に空手道場の看板が掲げてあるのが見える。「え、慎さん空手なんかやるんすか」「まあ、ちょっとだけ。護身術程度に。昔っからこんな形ですから色々とありまして」「かっけえ……ってか、空手やってんなら番犬なんて必要ないんじゃ」言いながら、陽介さんがなぜかするすると自分の鳩尾辺りを撫でていた。「そうですね。辞めますか?」にや、と口角を上げて笑うとぶるぶると顔を横に振った。「辞めませんよ、絶対」ふん、と意気込んで鼻息を鳴らした彼に、ほんの少しほっとしたのはなぜなのか自分でもよくわからない。「それじゃ、ここまでついてきてくださってありがとうございました」ビルの入り口手前で、深々と頭を下げた。この中まで、着いて来られるわけにはいかないのだ。「えっ? 待ちますよ俺。ってか見学してみたいなって」「見学禁止です、すみません。それに貴方、着替えた方がいいんじゃないですか。昨日のままでしょう」指摘すると、彼は俯いて少しよれたワイシャツの襟元を指で引っ張って匂いを嗅ぐような仕草をする。「終わるまで一時間以上かかりますし、お待たせするのも悪いですから」「あっ、ちょっ」「上がって来たら怒りますよ!」まだ何か言いたげな陽介さんを置き去りにして、階段を駆け上がる。踊り場で一度立ち止まり、後ろの様子を暫くうかがってみたけれど、追ってくるような様子はなくてほっと溜息を落とした。念のためそこで、数分浪費する。ここから先はどうしたって、見つかるわけにはいかない。それにしても、佑さんがあれほど陽介さんに注意事項を言い聞かせてまで、番犬などと

  • 優しさを君の、傍に置く   君は番犬《2》

    「佑さんと慎さんって……どういう関係なんっすか」「は?」複雑そうな顔してる割には聞き方がストレートだ。 いや、聞き方がっていうか、その表情も合わさって何が聞きたいのか察することができてしまう。 何考えてんだ。 ぞわっと鳥肌が立ち怒鳴ってやりたいのを、懸命に声を抑えた。「何って……義理の兄だけど。元」「元?」「姉の元旦那。頼むからどろどろいかがわしい昼ドラみたいな妄想に僕を巻き込むなよ」 こんな話をしたら、それこそ僕と佑さんがどうにかなって姉と別れただとか思われそうだ。 だから余り人には話さないのだが、それこそ今まさに勘違いしてそうな男にはきちんと話しておかねばなるまい。「別れた今の方が仲良くしてるみたいだし、いい関係のようですよ。僕はただあの店で働かせてもらってるだけ。姉も知ってますしね」ぽかん、と口を開けた顔は、恐らく僕の答えが思っていたものと違ったからなのだろう。 耳が垂れてしょぼくれた犬を彷彿とさせる表情で、それが存外可愛らしくて思わず噴き出した。「僕はそういう趣味はないって言ったでしょう。一体何を言われてそういう発想になったんですか」僕が出かける準備を済ませて店に戻った時、何やら二人で話しを済ませたような雰囲気があった。 その時は特に気にも留めていなかったが、もしかすればその時何かを言われていたのかもしれない。 佑さんのことだから、面白がって陽介さんをからかったに決まってるけど、余計なことまで話していないか、急に心配になった。「何をっていうか……佑さんがやけに慎さんのこと心配してて」「心配?」「そう。番犬をするにあたり注意事項をこんこんと。まずはお触り禁止令と……」「さっき触ったじゃないですか」「そういうお触りじゃなくって……」

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