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第280話

紗枝が電話を切ると、

啓司は怒りでスマホを投げつけそうになった。

牧野はそっと立っていたが、一言も発せず、啓司の機嫌を伺っていた。

啓司の胸にはまるで巨大な石がのしかかっているような圧迫感があった。

「あとどれくらいか?」

「半月ほどです」

離婚訴訟が受理されると、資料を準備するまでに大体半月ほどの時間が与えられる。

牧野も、紗枝がここまで決意を固めているとは思わなかった。彼は、紗枝がすぐに啓司を許し、再び黒木家の妻としての役割を受け入れると思っていた。

何と言っても、黒木家は名家であり、紗枝のような女性が啓司と結婚できたのは、まさに大出世だと思っていた。

啓司はすぐに冷静を取り戻した。「紗枝の弁護士は誰だ?」

「清水唯、彼女の友人です」

啓司は牧野を見つめた。「前に調べた唯のことだけど、彼女の元彼も弁護士だったよな?」

牧野はすぐに理解し、笑みを浮かべて言った。「ええ、しかも彼は一流の弁護士で、名前は花城実言です。今すぐ手配します」

牧野は足早にオフィスを後にした。

訴訟となると、黒木グループに勝てる者はいない。

啓司はこれまで何度も訴訟を経験しており、相手の弱点を一瞬で見抜ける。しかし、今回の相手は紗枝であり、状況は微妙だった。

彼は車を走らせ、唯の住むマンションに向かった。

限られた台数しか存在しない高級車がその場所に停まると、すぐに人々の注目を集めた。

啓司は周囲の目など気にせず、スマホを手に取り、紗枝に電話をかけた。

「出てこい。話をしよう」

10分後、紗枝は厚手のダウンジャケットを羽織って外に出てきた。彼女はすぐに、車のそばに立つ啓司の高い背中を見つけた。

彼の深い視線は、一瞬たりとも紗枝から離れることがなかった。

紗枝は雪を踏みしめながら近づいていき、録音機をそっと起動させた。

「何を話すの?」

「車に乗って話そう」啓司はドアを開けた。

しかし、紗枝は車に乗ろうとせず、一歩後退した。

「ここで話すわ」

「乗れ!」啓司の声は思わず大きくなった。

自分の声が大きすぎたことに気づき、彼は声を少し抑えて言った。「寒がりだろう?」

紗枝は仕方なく車に乗り込んだ。

啓司は反対側から運転席に座り、車をスタートさせた。

車は静かに走り出したが、車内には重苦しい沈黙が続いた。

その沈黙に耐えられず、

紗枝
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