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第283話

雷七はハンドルを切って、紗枝の前に車を停めた。「お乗りください」

紗枝は何も考えず、そのまま車に乗り込んだ。

「これからよろしくお願いします」

数日前、啓司が初めて雷七を見た時から、すぐに彼の身元を調べさせた。

調べた結果、雷七は元々辰夫の側近として仕えていたが、その後紗枝の護衛を担当するようになったことが分かった。

今日、紗枝を追跡していた者から、雷七も一緒に桃洲市に来たことを報告されると、啓司は眉を少しひそめた。

「今は一緒に住んでいるのか?」

啓司はこのボディーガードを覚えていた。顔立ちが端正で、瞳には確固たる意志が宿っており、どう見ても普通のボディーガードには見えなかった。

「奥様は唯の家に住んでいますが、彼は車の中で生活しています」と部下が答えた。

啓司はようやく眉を緩めた。「わかった。引き続き見張っておけ」

「承知しました」

紗枝が訴訟している離婚の件は、今のところ秘密に進行していた。

外部の人間は何も知らず、この件に関わる者も簡単に公表することはなかった。なにしろ、この問題は啓司と黒木グループ全体に関わる重大な事柄だったからだ。

ところが、開廷前日のこと。突然、「仮死した名門の嫁、離婚訴訟で数千億の資産分割」というタイトルの記事がネット上で話題となり、瞬く間にトップニュースとなった。

その記事には、名門の嫁がかつて夏目家の長女であったことが記されていた。

さらに、名門とは桃洲市で一番の名家である黒木家を指しており、

記事の執筆者は、紗枝の背景写真まで添えていた。

記事の内容は、紗枝が啓司と結婚した後、夫や姑から十分な愛情を受けず。

むしろ厳しく扱われたために、病気にかかり、やむを得ず死を偽って国外に逃亡したというものだった。

その後、病気から回復した紗枝は帰国し、啓司と離婚訴訟を起こして巨額の財産を分割しようとしていると記されていた。

この報道が出た直後、黒木グループの株価はその日のうちにストップ安となり、ネット上では大騒ぎになった。

多くのネットユーザーがコメントしていた。

「ずっと黒木啓司と柳沢葵が付き合ってると思ってたけど、まさか妻がいたとは」

「しかも、その妻が障害者だったなんて…」

「結局また不浮気男か」

「女も大したことないね。何もないくせに、財産を分けようだなんて」

「…」

ネッ
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