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第744話

桜乃と美咲は元々いとこであり、情の深さもそっくりだった。

「どうやらやっと目が覚めた。くだらない人に執着するのをやめたようね」美咲は扇を手に取り、退屈そうに扇ぎながらも、色気が漂っていた。

久しぶりの再会なのに、いきなり相手の痛いところを突くような言葉を浴びせた。

桜乃も負けずに、「私なんかあなたの一途さには及ばないわね。離婚して何年も経つのに、未だにこんな騒ぎを起こした。でも結局、隼人の愛は手に入らなかったでしょう?」と返した。

「確かに得られなかったけど、それでも彼の家族を破滅させたわ。あなたのように、旦那を手放して資金援助までするような甘いことはしない。義姉さん、あなたこそ聖母マリアだね」

美咲は複雑な家庭で育ち、本家から疎まれていた私生児だった。唯一、正統な家柄で育った桜乃だけが彼女に関わってくれた。二人は子供の頃から互いに愛憎の交じった関係だった。

今日の桜乃は、かつてのように争うこともなく、自ら席に座り、静かにお茶を注いだ。

「私もあなたも似たようなものよ。お互いに笑うな」

桜乃はため息をつき、「あの子……元気なのか?」と尋ねた。

「翔太というクズ男にしか興味がないと思っていたけど、まさか自分の娘のことを覚えていたなんてね」

「若い頃は精神的に不安定で、あの子たちに酷いことをした。家族を壊し、血の繋がりを引き裂いてしまった。葵をこれまで面倒見てくれてありがとう」

美咲はタバコに火をつけ、気だるそうに言った。「義姉さん、もう葵なんて存在しないわ。今いるのは海棠だけ」

「彼女に会いたい」

「素直に言わせてもらうけど、彼女はあなたに会いたくないはずよ。幼い頃、あなたがしたことが、彼女にとっては今でも心の奥底に刻まれた悪夢なのよ。今でも夜中に目が覚めては怯えているの。あなたの存在そのものが彼女には傷なんだから、会う必要はないわ」

遠くから桜乃を見つめていた葵は、桜乃が来ると聞いた瞬間から胸が騒いでいた。

長年会っていなかった母の記憶は、まだ幼かった頃のままだった。彼女が自分の首を絞め、「なんで死なないの?」と叫ぶ、恐ろしい光景が頭に焼き付いていた。

今夜、月の下での母の姿は高貴で優雅、知性に溢れた。記憶の中の母とはまるで別人だった。

自分の話題を聞いた瞬間、葵の心は少しだけ揺れ動いた。

兄と同じように、母と自分の間には絆があっ
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