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第659話

優子はその場の雰囲気が明らかにおかしいと感じたが、桜乃が無関心な態度をとっていたのを見て、余計なことは聞かないようにした。彼女は礼儀正しく女性に向かって軽く頭を下げ、「すみません、ちょっと通してください」と言った。

しかし、その女性は優子の手を親しげに取り、「あなたが優子さんね。日本のニュースで見ましたけど、峻介さんと本当にお似合いね。二人はまさに才子と美人だわ」と微笑んだ。

優子が疑問の目を向けるのを見て、女性は自分を紹介し始めた。「あら、嬉しくて紹介するのを忘れてたわね。まだ私のこと知らないわよね。私は峻介の叔母、桜庭だよ。桜庭おばさんって呼んでちょうだい」

その紹介を聞いて、優子はすぐに彼女が誰なのか理解した。桜庭椿……翔太が大事にしていた女性であり、佐藤家の不幸の始まりでもあった。虚偽に満ちた女の始祖とも言える人物だった。まさか今日はその「生きた伝説」に会うことになるとは。

桜乃の冷たい態度の理由もすぐに分かった。椿が距離を縮めようとしているのは、好意を示すためである一方で、桜乃を苛立たせるための策略でもあるのだろう。

椿は明らかに燈乃よりも格が上で、表情には柔らかな笑みを浮かべ、過去を知らなければ彼女に引き込まれてしまう魅力があった。

しかし、優子はただ礼儀正しく微笑み、「桜庭おばさん、申し訳ありませんが、ちょっと通していただけますか?試着がしたいので」と答えた。

優子はあくまで礼儀を保ちながら、しかし距離を保ち、椿に対して何の隙も与えなかった。

桜乃も、以前なら椿を見るとすぐに感情を爆発させていたが、今回はまるで空気のように無視していた。

「さあ、このサファイアのネックレス、あなたの肌にとても似合うわよ」桜乃は優子に優しくネックレスをつけてあげた。

初めて桜乃に会ったとき、優子は彼女がまるで月のように冷たく、距離を感じる人だと思っていた。しかし、一緒に過ごすうちに、桜乃が実はとても率直な性格だということが分かった。

桜乃は好きなものにははっきりと表現し、嫌いな相手には表面上の態度すら見せなかった。そんな彼女の性格は、優子にとって安心感を与えるものだった。

椿は相変わらず微笑みながら、優子のネックレスに手を伸ばし、「高橋さん、やっぱりこのネックレス、あなたにぴったりね。この宝石、本当にあなたに似合ってるわ。桜庭おばさんが代金を払うか
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