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第615話

峻介は怯えた優子を家に送り届けた。優子は商業施設での出来事を思い出し、つい口を開いた。「峻介、今日、私が出会った……」

峻介は忙しく、道中ずっと電話が鳴り止まなかった。再び電話が鳴り、優子が話そうとした言葉を遮った。

「わかった、すぐに向かう」

峻介は電話を切り、優子に向き直った。「優子、さっき何を話そうとしてたんだ? 商業施設で何かあったのか?」

優子はため息をついた。「大したことじゃないわ。先に行って、早く帰ってきてね」

「分かった」

峻介は優しく彼女の頭を撫で、振り返ってその場を去った。

優子はあの変な男のことを思い出していた。彼が悪人でないにしても、重要なことではないだろう。

ただ、事態がここまで発展している中で、これからどうなってしまうのかが少し心配だった。

峻介は車の後部座席に深く座り込み、曇った空を見上げながら、険しい表情を浮かべていた。

昇と進はまだ拘留中で、優子も襲撃に遭った。彼の心境は最悪だった。

彼はネット上の世論の動きを常に注視していた。

「佐藤総裁、ここまで事が大きくなったのに、まだ広報を動かさないんですか?」

峻介は何度も結婚指輪を指でなぞりながら答えた。「必要ない。証拠が出ない限り、誰も信じないだろう。それに……」

峻介の声が途切れた。碧狼はバックミラー越しに、峻介の冷酷な顔に漂う殺気を見た。

「誰が裏で操っているのか、僕も見てみたいんだ。好きに騒げばいい。あいつらはいい目を見すぎていたんだ」

碧狼は、峻介の口には出さないが、心の中では何か確信があるのだと感じていた。

「この先が落日館です」

峻介は軽く鼻を鳴らした。

彼の部下が今回の依頼殺人の黒幕を突き止めた結果、それが昔からの知り合いであることが判明したのだ。

落日館は海辺に建てられ、かつてのフランス風のロマンチックな建築様式を持つ場所だった。

夏の夕暮れには絶好の観光スポットだが、冬になると、どんよりとした雲の下で寂しさと不気味さが漂っていた。

庭に足を踏み入れると、すぐに彼の目に飛び込んできたのは、横を向いて立つ女性だった。彼女はロングコートを身にまとい、優雅にコーヒーを飲んでいた。

白い陶器のカップと鮮やかな赤いネイルが対照的だった。

海風が激しく吹きつける中でも、彼女の表情は平然としており、この悪天候とは正反対の雰囲気を醸し出
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