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第602話

月咲は、芸能界に入る前から有名な不良少女だった。幼い頃から他人をいじめる側で、誰かにいじめられたことなど一度もなかった。

芸能界では小さなスターに過ぎなかったが、彼女は特に立ち回りがうまく、付き合った男性も多かった。

彼女の関心はお金を稼ぐことだけで、演技の仕事があるかどうかは重要ではなかった。とにかく稼げるなら、その方法などどうでもよかった。

しかし、まさか自分が命を狙われることになるとは思いもしなかった。瞳孔はどんどん大きくなり、喉から絞り出すように言葉を漏らした。「な、なんで……?」

この男は最初とても弱々しく見えたのに、どうして急にこんなにも変わったのだろう?

全身からは冷たい殺気があふれていて、普通の清掃員ではないことは明らかだった。

「千早さん、あんたの目が悪かったんだよ。関わってはいけない人に手を出した。あんたの命を買った人がいるんだ」

月咲はこれまでそんな世界に触れたことがなく、事の重大さをようやく理解した。

ここは法治国家だ!それなのにどうしてこんな大胆に人を殺す奴がいるのか。

「や、やめて、殺さないで。お金をあげる、全財産をあげるから」

しかし、男は冷笑し、指をさらに強く締めつけた。息が詰まる感覚が迫ってきた。

月咲は体が空中で激しくもがき、ようやく男のキャップの下の目を見た。

それは普通の人間の目ではなかった。殺し屋だった!

彼女が窒息死する直前、男は一言だけ低くつぶやいた。「次の人生では、もう他人のものを奪うな。借りたものは返さなければならない」

月咲の息が完全に途絶えた後、男は冷たくその体を地面に投げ捨てた。

枝に咲く梅の花が見事に咲き誇っていた。男はその中から一枝を折り、彼女の胸にそっと置いた。

女性は目が閉じられることなく、地面に仰向けに倒れ、醜く歪んだ表情のまま空を見上げていた。

街灯の薄明かりの下で雪が舞い散り、彼女は永遠に目を覚まさなかった。

「誰だ!」

昇の声が響いたが、男は闇の中へと姿を消した。

昇が慌てて駆けつけると、地面に横たわって目を見開いた月咲の姿を見つけた。急いで脈を確認したが、すでに息はなかった。

追いかけようとしたその時、遠くから一人の女性が慌てて駆け寄り、夜の闇に叫び声が響き渡った。「人殺しだ!」

優子と峻介が家に戻ったばかりで、化粧を落とす暇もなく、進が急いだ様子で
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