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第589話

優子にこれまでとても優しかった峻介だったが、この時は彼女に立ち止まらせることなく、急かすように「他人の墓碑だから、見ても意味がないよ。行こう」と言った。

優子はそんな言い方は縁起が悪いと感じながらも、もう一度その墓をちらりと見つめた。

「不思議だわ。もし彼女の名前が辻本恵じゃなければ、佐藤家の親戚かと思っちゃう」

優子は再び口の中で「恵」という名前を繰り返した。「恵、どこかで聞いたことがある気がする。峻介、私、彼女を知ってたことあるのかな?」

この墓は、葵が死んだと見せかけて、恵として再び修復されたものだった。峻介は内心を落ち着けながら淡々と答えた。「僕は知らないよ」

優子はもう少しその墓を見つめてから、「そうか、私の勘違いね。世の中には似てる人も多いし、不思議じゃないわね。行こうか」と言った。

峻介は彼女にマントをかけ、優しげな眼差しで「うん、雪がまた強くなってきた。早く参拝を終わらせて、帰ろう」と応じた。

「そうね」

優子は峻介に従って歩き始めたが、何度も後ろを振り返ってしまった。

梅の枝には雪が積もり、紅い梅の花が雪の重みに押されてちらちらと落ちていった。墓石には雪が厚く積もっていた。

「何を見てるの?」と峻介が聞いた。

「ううん、何でもない」優子はそう言って、胸の中にあった不思議な感情を振り払った。

長上たちへの参拝を終えた後、優子はこの前行った西洋料理のレストランに行きたいと提案し、峻介は予約を入れた。

優子は峻介と一緒にいる時間が心地よかった。どうやら彼女は以前、峻介とこうした時間をほとんど過ごしていなかったようだ。二人は広場を歩き、優れた容姿のためどこへ行っても注目の的だった。

優子は不思議そうに言った。「そういえば、あの日ここで大きな木を見かけたけど、もうないのね」

そこにあった百年の大樹の場所は、今やコンクリートで舗装され、周囲と同じタイルが貼られていた。優子はその木のことを覚えていたのだ。

峻介は表情を崩さず、「景観を損なっていたから切り倒されたんじゃないかな」と答えた。

「本当にもったいないね。あんな大きな木、百年以上の歴史があったのに、簡単に切られてしまったなんて」

「人には人の運命があり、木には木の運命がある。そんなに惜しむことじゃないさ」

優子は頭を掻きながら、昨日家に運ばれてきたばかりの茶台と木製の
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コメント (1)
goodnovel comment avatar
yas
木とケンカしてテーブルにしてやるってꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
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