第560話

優子は里美の悲痛な叫び声を聞いて、足を止めて、振り返って一瞥した。

里美は使用人の手を払いのけ、どうしても峻介のそばに行こうと必死に這い上がろうとしていた。

その無力で哀れな姿を見て、優子はかつての自分を思い出した。かつて、峻介に離婚しないようにと地面に跪いて懇願した自分の姿を。

あの時の自分も、こんなに哀れに見えていたのか。

「彼女をそのままにしておくつもり？」優子は腕を組み、峻介が自分の感情を気にして里美を放っているのだと思っていた。

「私のことは気にしなくていいわ。私は全然気にしていない」

峻介は少し傷ついた様子で、優子の手を取って言った。「優子、里美に対して男女の情は一切なかったんだ。彼女と結婚しようと決めたのは、ただの恩返しだったんだ」

優子は冷たく笑った。「それで、彼女と寝たの？面白いわね」

「優子、実は拓海のことは......」

峻介はその言葉を飲み込み、あの夜、海から瀕死の優子を引き上げたときの光景が頭をよぎり、胸に痛みが走った。

優子を狙った暗殺者の黒幕はまだ分かっていない。もしも拓海が優子の子供であることが知られたら、拓海の命も危うくなる！

峻介はこの秘密を再び飲み込むしかなかった。

優子は峻介の説明を待つことなく、彼を一瞥しただけで立ち去った。

愛しているからこそ、説明を求めたくなる。愛していない相手に対しては、怒りも悲しみもない。喜びも悲しみもどうでもいい。

里美が二人に追いつこうと必死になっていたのを見て、峻介と優子は再び歩き出した。里美は空しく雪の中で倒れ込んだ。山中に彼女の悲痛な叫びが響いた。

「峻介！！」

彼女は人前で蓮のことを言うわけにはいかなかった。蓮は彼女の最後の、そして唯一の切り札だった。

峻介は二人の婚約を破棄したものの、生活費や支援は減らされず、松本家にも十分な援助をしていた。

現在、松本家は空っぽの状態だ。かつては隼人が支えていたため、彼の一族が少数派であっても誰も無礼を働かなかった。

隼人が亡くなり、里美は交通事故で半身不随になり、峻介は婚約を破棄した。これにより親族たちは勢力を伸ばそうとしていたが、今のところは峻介の影響力に怯え、手を出すことができなかった。

里美の生活は苦境に立たされ、峻介に媚びを売りながら、松本家の圧力にも耐えていた。

雪は静かに彼女の肩に降り積もり、彼女