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第5話

「忘れられては困る、娘はまだこっちにいるんだぞ」

たったその一言で、私は一瞬で崩れた。

風は徐々に収まり、全てが静寂を取り戻した。そして浩平は、策略が成功したかのように、得意げに笑い出した。

「死んでいようが生きていようが、お前は僕の手の中から逃れられないんだ。娘のために、大人しくしておけよ、くだらない呪いかけるな」

「お前が死んだのは、器が小さすぎるからだ。誰のせいでもない、わかったか?」

そう言い切ると、彼は少し落ち着きを取り戻し、地下室の悪臭を振り切るようにその場を立ち去った。

車を急発進させ、足早に歩いていく浩平の表情は、愛織を見ると少し和らいだ。

愛織はすぐに彼に抱きつき、甘い声で尋ねた。

「どうして一人で戻ってきたの?明日奈さんは?一緒じゃなかったの?」

私の名前を出した途端、浩平の顔には妙な表情が浮かんだ。

まるで怯えと嫌悪が入り混じったような顔つきだったが、最終的には歯を食いしばりながら言い訳を口にした。

「ただの悪女さ、放っておけ。しっかりと罰を与えるから」

愛織は、相変わらず彼に理解を示し、優しく微笑んだ。

「もう、そんな顔しないで。明日奈さんがまた怒らせちゃったの?それとも私が何か気に障ったかな?」

「もし浩平さんと明日奈さんが仲直りできるのなら、私が謝ってもいい。浩平さんには笑っていてほしいの」

浩平は手を振り、ため息をついた。

「残念だよ、彼女を連れて謝らせることができなかった」

彼は愛織を見つめ、瞳には燃えるような情熱が宿っていた。

「愛織、あっちが片付いたら、一緒に海外に行こう」

「二人だけの場所で、もう誰にも邪魔されずに幸せに暮らそう。そして僕たちの子供を育てて、幸せな三人家族として暮らすんだ」

彼の顔には、幸福な未来への期待が満ちていた。

しかし、私にはそれが耳障りでしかなかった。

彼らが幸せな家族になるとしたら、私の娘はどうなるの?

私は彼に取り付き、彼をきつく縛り付けた。彼はそれを感じたのか、一瞬息が詰まったように表情が変わり、顔が赤くなった。

愛織は心配そうに彼の背中を軽く叩きながら尋ねた。

「どうしたの、浩平さん?どこか具合が悪いの?」

しかし、彼女が彼を叩きながら鼻をすっと嗅ぐと、何か奇妙な臭いに気がついたようだった。

彼女はその匂いの元を探すように少し下を向いた。

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