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第3話

「まだ来ないのか?大物気取りかよ」

秘書に電話をかけ、浩平の声には怒気がこもっていた。

「社長……奥様の姿が見当たらないんです。家中くまなく探しましたが、いらっしゃいませんでした」

「ただ、家の中に妙に不気味な臭いが……特に地下室から匂ってくるようで、でも地下室のドアには鍵がかかっていて入れませんでした!」

秘書がそう言うと、浩平の顔色が少し曇り、不安な表情が浮かんだようだった。

「あ、ああ、きっと俺を困らせようと、勝手に出て行ったんだろう。気にするな、会社に戻れ。ドアの施錠だけは忘れないでくれ!」

電話を切ると、彼はすぐに立ち上がった。愛織が彼の焦る様子を見て、不満げに口を開いた。

「また明日奈さんが何かやらかしたの?明日奈さんっていいよね、いつでもわがままを言えるから……私なんて、何をするにも気を使わなくちゃいけないのに」

浩平は動きを緩め、優しく言った。

「そんなこと言わないでくれ。愛織はわがまま言っていいんだよ。あいつがまた何か面倒を起こしたみたいだから、ちょっと片付けてくるよ」

「そっちが片付いたら、すぐにあいつを連れて愛織に謝罪させるよ。待っていてくれ」

二人は熱い抱擁を交わし、名残惜しそうに離れると、愛織は涙を一滴こぼした。

「浩平さん、早く戻ってきてね……一人だと怖いの」

私は思わず吐き気をこらえた。

幸いにも、魂には胃なんてものはなかった。

彼のそばで不快感を抑えながら浮遊し、浩平が険しい表情で運転し、私が死んだあの場所へと戻る様子を見ていた。

彼がドアを開けた瞬間、眉をひそめるのが見えた。

言いようのない異臭に顔をしかめ、地下室へと向かうと、その大きな鍵を見てわずかに足がもつれた。

何度か深呼吸をした後、彼は意図的に言い聞かせるように呟いた。

「人間は数日ぐらい食わなくても大丈夫だろう。そもそも腹があんなに膨らんでいたから、餓死に及ばないはずだ」

鍵を差し込み、震える手で何度か試して、ようやく鍵は開いた。

しばらくの間、ドアの前でためらっていたが、やがてゆっくりとドアを押し開けた。

鼻を突く悪臭がより強烈になり、彼の目から涙がにじむほどだった。

「明日奈、一体何の真似だ?この屋敷を台無しにするつもりか?」

ドアが完全に開いた瞬間、彼の目に飛び込んできたのは――

ベッドに横たわる人影。それは異様に膨れ上がり、皮膚は黒ずんだ不気味な色をしていた。

よく見ると、開いた腹部の傷口に白い虫がうごめき、血が床に滴り落ちていた。

目と口は、これでもかというほど大きく開かれていた。

彼は恐怖のあまり叫び声を上げ、足がもつれて地面に崩れ落ちた。

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