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第8話

家に帰り、ゆっくりと湯船に浸かった。

颯斗の再登場がどうにも鬱陶しく、気分が晴れない。

彼は一体なぜこんなにしつこく絡んでくるのだろうか。

自分から年上の私を嫌がって、シワが増えた顔がどうとか言っていたはずなのに。

今さら未練があるのかもしれないが、どのみち私は二度とあんな愚かなことは繰り返さない。

真夜中の3時。静まり返った夜に、けたたましい携帯の着信音で目が覚めた。

仕事の急な連絡に備えて常に電源は切らないようにしているので、また会社からかと思い画面を見ると、見覚えのない番号が表示されていた。

面倒なので一度は無視したが、三度目の着信で仕方なく応答することにした。

相手は英語で「病院ですが、神崎颯斗さんをご存知でしょうか?現在、重傷で入院しており、可能であれば至急来ていただけますか」と告げた。

いつの間にか窓の外は土砂降りになっていた。私は軽く頭を振って目を覚まし、「すみません。知りません」とだけ言って切ろうとした。

「わかりました。それではご存知でない場合、警察に連絡することになりますが......」

「少し待ってください......」

警察が介入するとなると、手間が増えてしまうのは私の方かもしれない。

そこで私は悠真に連絡を入れ、颯斗の対応をお願いした。

翌朝、出社すると悠真が私のデスクにやってきて、「全部対応しました」と報告してくれた。

「やっぱりこの辺りの治安はあまりよくないんですね。神崎さんは夜遅くに強盗に遭遇したそうです。でも、金目のものは持っていなかったようで、犯人は腹いせに彼を殴って去ったみたいです。

昨夜は大雨も降ってましたし、もし通行人に発見されていなければ、失血多量で命を落としていたかもしれません」

「ありがとう」

「何かと目障りだし、様子を見て早めに彼を帰国させてくれる?」

悠真は少し言いにくそうな顔をして私を見た。

「彼、ずっとあなたに会いたいって騒いでます」

「気にしないで。あまりにしつこいなら、放っておいてもいいから、あんたの判断に任せるわ」

それ以来、私は颯斗のことには一切関わらなかった。ここまでしてやったのだから、もう十分だと思う。

それから私は二度と颯斗と会うことはなかった。

三年後、海外の支社も順調に成長し、私はその実績を評価されて本社の取締役に任命され、日本に戻ることになった
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