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年上は嫌いだったんじゃないの?私が結婚したら泣くなんて
年上は嫌いだったんじゃないの?私が結婚したら泣くなんて
著者: 凪舟

第1話

ちょうど上司との電話を切ったところに、颯斗がふらふらと酒の匂いを漂わせて帰ってきた。

私はキッチンの明かりをつけたまま、彼の姿を見つめることもなく、淡々と夕食の準備を続ける。颯斗はそのままドサリとソファに倒れ込むと、酔っ払ったまま声をかけてきた。

「水、持ってきてくれない?」

無視して料理を進める私に、しびれを切らしたのか、彼はよろよろと立ち上がり、キッチンにやってきた。

「遥ってさ、最近部長になってから、ほんと偉くなったもんだよねえ。俺をちょっと手伝うくらいもできないわけ?」

さらに言葉は続く。

「やっぱさ、女は家で大人しくしてるのが一番じゃない?こうやって、家を守って旦那に尽くすべきだろ。お前もさ、少しは仕事控えたほうがいいんじゃない?」

だんだん声が大きくなって、嫌味が増していく。

酔った彼に言い返すのも馬鹿らしく、私は黙って水を入れたコップを彼の前に差し出した。

それを満足そうに飲み干した彼は、しばらくしてようやく少し落ち着いた様子だ。

そして、鍋から漂う香りに気づいたのか、ふらふらと私の背後に回り、腕を回してきた。

「ねえ、遥姉ちゃん。俺も食べたいな」

一瞬、動きが止まる。彼はこんなふうに「遥姉ちゃん」と甘い声で呼ぶのが得意で、私はそのたびに心を揺さぶられ続けてきた。

でも今は違う。心を押さえつけ、私は彼の手をそっと払いのける。

「悪いけど、あんたの分はないから」

その途端、彼の顔色がさっと変わる。いつもなら、私が彼の頼みを断ることなんてなかったからだろう。しばらくして気まずそうに咳払いをしながら、彼が口を開いた。

「もしかして、あのSNSの写真、見ちゃった?あれはさ、あの子がゲームで罰ゲームやらされたんだよ。

ほら、男だし、俺も合わせてあげなきゃいけない場面ってあるだろ?」

言い訳が続くけれど、私は聞く耳も持たず、出来上がったばかりの麺を黙って取り分けた。

「心配しないで。私は別に気にしてないから」

そう言うと、彼は少し驚いたような顔をして、それでもすぐにいつもの調子に戻り、私の手からそのまま麺の皿を奪い取った。

「遥姉ちゃん、夜遅くにこんなの食べたら太るだろ?もう年なんだから、若い子みたいな代謝じゃないんだからさ。俺が食べてあげるよ、ほらほら」

私はその場で箸を持ったまま固まってしまった。

ぼんやりと力なく手をおろす間も、颯斗は画面を見ながら笑い、短い動画をひたすらにスクロールしている。

彼の前に差し出した、今日の最初で最後の食事があっという間に彼の胃袋へと消えていくのを見届けて、私はキッチンを後にした。

部屋に戻り、布団をぎゅっと抱きしめながら、私は胸に溜まった痛みを少しでもやり過ごそうと、じっとしていた。

颯斗と付き合う前、私は自分に言い聞かせていた。

「彼とは年も違うし、考え方も違う」と。

けれど彼は、毎日私にまっすぐに想いをぶつけてくれた。

夜遅くなると、彼はよく甘えてきて、私に「寝ないで、一緒にゲームしようよ」とせがんだものだ。

「美容のために早く寝ないと、シワができちゃうわよ。それでも嫌いにならない?」

私は仕方なく笑いながらそう返すと、彼は小犬みたいに私の胸に飛び込んできて、ぎゅっと抱きついてきた。

「そんなことないよ!俺は絶対に遥姉ちゃんのこと、嫌いになんかならない。たとえ、髪が白くなってシワだらけになっても、ずっと大好きだよ」

その言葉が耳に残っているけれど、もうどれだけの時が経っただろう。

あの頃の彼は、もうここにはいない。

私は布団をきつく抱きしめて、胸の奥に刺さった痛みを少しでも和らげようとした。

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