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第2話

しばらくして、リビングから彼のスマホの着信音が再び聞こえてきた。ぼんやりとした声で話しているのが耳に入る。

「おうおう、こっちは大丈夫だよ......ああ、彼女ならもう寝てるし、気にしなくていいって」

そして、玄関のドアが閉まる音が響き、部屋はまた静寂に包まれた。

痛みがどうにも耐えられず、私はお湯を沸かしにキッチンへ向かった。

テーブルの上には、彼が食べ終えたままの空の食器がぽつんと残されている。

まるで、今の私の心みたいに、冷え冷えとして乱雑なままだ。

「やっぱり、さっさと手持ちの仕事を終わらせて、この関係も清算しよう」そう思いながらスマホを開くと、颯斗の友人がSNSを更新していた。

彼が若い男女とカラオケで騒いでいる写真だった。

颯斗はいつも、私をこういう友人たちの集まりに連れて行ってくれることはなかった。

彼のごく一部の友人しか私の存在を知らないし、私も彼らとは交わることがほとんどない。けれど、「度が過ぎなければ」と、いつも彼の行動には目をつぶってきた。

それが、こんなふうに彼に好き勝手な振る舞いを許すことになるとは思いもしなかった。

スマホを閉じ、眠りにつこうとする。でも、その夜、颯斗は一度も家に戻らなかった。

翌朝、私は一人で朝食をとっていた。そのとき、ようやく彼がふらふらと戻ってきた。

髪は乱れ、服には酒と煙草の匂いが染み付いている。私は思わず鼻を押さえた。

「昨日、久しぶりに会った友人の誕生日でさ、呼ばれて断れなかったんだよ。

遅くなったし、帰ると君を起こしちゃうと思って向こうで寝たんだ」

彼の視線が一瞬揺らいだのを見逃さなかった。

私はただ軽く頷いて、「顔洗ってきなさい、もうすぐ遅刻よ」と言った。

彼が洗面所から戻ると、すでにテーブルには何も残っていない。彼は不満げに顔をしかめた。

「......俺の朝食、ないの?」

以前の私なら、朝食は数種類用意して、彼の好きなものを選ばせていた。

でも、今はもう、そうする気も起きない。

私は表情を変えずに言った。

「お腹いっぱい食べて帰ってきたんだと思ってたから、朝食は準備してないわ」

颯斗はその場で呆然と立ち尽くしたが、すぐに私と一緒に家を出た。地下駐車場に着くと、彼は私より先に車の鍵を取り上げて、

「今日は俺が運転するよ、職場まで送ってあげる」

時計を見て、口論するのも面倒に思えて、私は彼の言う通り助手席に座り、スマホでメールを処理し始めた。そのとき、彼が突然話しかけてきた。

「なあ、明日さ、一緒にご飯食べて映画でも見に行こうよ。最近全然デートしてないし」

そうね、最後に二人で出かけたのはいつだったか、もう記憶にない。

思えば、その頃からすでに関係に兆しがあったのかもしれない。ただ、私が気づかなかっただけ。

スマホを見たまま、私は答えた。

「土日は出勤しなきゃならないの。あんたはゆっくり休んで」

すぐに彼が不満をあらわにする。

「週末まで仕事って、どんなブラック企業だよ。俺はいいからさ、遥姉ちゃんは俺に付き合ってくれよ」

「じゃあ仕事を減らして、あんたのゲーム機やブランド服はどうやって手に入れるの?」

彼は顔を私に向け、瞬間的に笑みを浮かべた。

「それもそうだな。やっぱり遥姉ちゃんには働いてもらわないと。たくさん稼いで、俺のことを養ってくれよ」

その言葉に、私は冷笑を抑えられなかった。

なんて都合のいい話だろう。

会社まであと一つの通りを残したところで、彼のスマホが鳴った。電話に出ると、相手の女性と短く話してから、彼は急に車を路肩に停めて言った。

「車を貸してくれよ。上司が急に呼び出してきたから、迎えに行かないと」

その言葉に私はすぐさま顔を曇らせた。

「あんたはアシスタントでも運転手でもないでしょう?それにあと少しで会社に着くんだから、先に私を降ろして」

彼は露骨に不機嫌な顔をして皮肉っぽく言い返した。

「お前は部長だから毎日忙しいもんな?俺みたいな平社員は、頼まれた仕事もこなせないってか?さっきは俺を養うとか言ってたのに、車くらい貸してくれないんだな」

今日は重要な会議があるため、これ以上彼と言い争う余裕もなかった。

仕方なく車を降り、ドアを閉めた瞬間、彼は私に背を向けて走り去っていった。

私は拳をきつく握りしめ、目に冷たい怒りが浮かんでいくのを感じた。

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