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第3話

分社での新しいポジションが急に決まり、ここ数日はその引き継ぎ準備で忙殺されていた。

毎日帰宅が遅くなり、部屋は真っ暗なまま。

颯斗が帰ってこないことも増えたが、もはや気にも留めなかった。

SNSを開くたび、彼が夜ごとさまざまな遊び場で楽しむ姿が目に入る。

毎回違う女性たちが彼の隣にいるのを見ると、まるで「若さがあるから、どんな女の子だって手に入る」とでも言っているようだ。

私は彼の友人たちをSNSで非表示にした。

もう関わることもない相手だし、見ているだけで無駄だ。颯斗がどれだけ遊び回ろうが、もう私には関係がない。

彼が何をしようと、私の心は痛まない。

そんなある日、颯斗から電話がかかってきた。「母さんが会いたいって言ってるんだ」と言われたが、即座に断った。

ただ、私の車がまだ彼の手元にあることを思い出し、取り戻す必要があったため、仕方なく会うことにした。

待ち合わせは高級レストラン。ここでの食事は1回で数万円は軽く飛ぶ。

それにしても、あの給料でいったいどうやって支払うつもりかと思わず冷笑した。どうせ私に支払わせるつもりだろうけれど、そうはいかない。

店に着くと、颯斗とその母親は既に席についており、テーブルいっぱいに並べられた料理を無心で食べ始めていた。

私が着席しても、彼の母親は手を止めることなく料理に手を伸ばしている。

仕方なく「こんにちは、おばさん」と挨拶をした。

すると、颯斗が目配せをしたのを見て、ようやく彼の母親は手を拭きながらこちらに視線を向けた。

そして、頭から足先までじろじろと私を見回す。

その視線に、まるで私を品定めでもしているようで思わず笑ってしまった。

私は咳払いをし、不快感を示すと、ようやく彼女が口を開いた。

「やっぱりね、年を取っていると一目でわかるわ。

聞いたけど、あなた、会社で部長やってるんですって?まあ、私から言わせれば、女性は家庭に入って夫や子供の世話をするのが一番よ。家を守るのがあなたの仕事なの。そもそも私は、年上のあんたと颯斗が付き合ってることに大反対だったんだから」

「でも、あんたは車も家も持ってるって聞いたし、まあ、認めてあげてもいいわよ。でもその代わり、結婚したらきっぱり仕事を辞めて、家で専業主婦としてしっかり家を守ってほしいの。仕事はうちの息子に任せればいいんじゃない?今の部長のポジションも、颯斗がついた方が似合うわよ」

彼女の話を聞きながら、私は唖然とするばかりだった。

彼が本当にこのポジションをこなせるとでも思っているのだろうか。

必死に怒りを抑え、私は颯斗に視線を向けて尋ねた。

「今日はどういうつもり?ちゃんと説明してくれる?」

颯斗はワイングラスを手に、皮肉な表情を浮かべて言った。

「お前がいつも結婚について聞いてくるからさ、だから母さんを呼んで相談することにしたんだよ」

呆れ果て、思わず笑ってしまった。

要するに、母親に私をしっかり説得させに来たということらしい。

私が黙っていると、彼の母親はそれを私が怯んでいると思ったのか、またしても話を続け始めた。

「よく聞きなさいよ。うちの颯斗はね、一人っ子で家を継ぐ存在なの。結婚したらすぐに孫を産んでもらわないといけないのよ。そうすれば、颯斗も安心して仕事に専念できるでしょ?

あなたは家でしっかり私たちの面倒を見てくれればいいの。お金は気にしなくても大丈夫、うちの颯斗は若くて有能だから、いくらだって稼げるし、あなたを養うくらい余裕なのよ。

だから、あなたの役目は私たちの家系を守ること。仕事なんかしなくていいんだから、楽でしょう?」

私はその言葉を聞きながら、冷笑を浮かべ、颯斗を見つめた。彼は居心地が悪いのか、そっと口元に手を当てて咳払いをし、視線をそらしている。

どこから来たんだ、この人たちは。自分の息子をとんだ勘違いしているようだ。

颯斗は卒業後、まともな職につけず、私が友人に頼んで今の会社に入れてもらった身。仕事の能力もそこそこなのに、浪費ばかり。

普段の生活費も、身に着けているものすらも、すべて私が負担してきたのだ。

彼が私を養う?笑わせてくれる。

まだ結婚もしていないのに、既に姑のような態度を取ってくるとは。私を甘く見ているのだろうか。

私は椅子にもたれかかり、わざとらしくため息をついて言った。

「ねえ、おばさん、誰があんたの息子と結婚するって言った?私が車や家を持ってようが、仮に別荘や飛行機を持っていようが、あんたたちには関係ないわよ」

彼らが驚いた顔で固まっているのをよそに、私は続けた。

「それに、あんたの息子がそんなに『有能で若い』なら、うちの家から今すぐ出ていってもらえる?それが無理なら、私が全部まとめて放り出してやるから。どうせ彼のものなんて、私が買ったものばかりだしね」

私はバッグを手に取り、服についた埃を払うふりをしながら続けた。

「あと、子供?そんな高貴な家に釣り合うような女じゃないんで、こちらこそお断りします。他をあたってください」

そう言い放つと、振り返りもせず、その場を去った。

背後から彼の母親のヒステリックな怒声が聞こえてきた。

まるで、高級レストランで一度食事をしただけで、自分がどこかの豪邸の奥様にでもなったかのような態度だ。

すると、急いで追いかけてくる足音が近づき、颯斗が私の手を掴んで引き止めた。彼の顔は怒りで青ざめている。

「遥、待てよ!さっきのあれ、どういう意味だ?よくも俺の母親にあんなことが言えたな。

母親だぞ?少しは敬意ってもんがないのか?」

私は鼻で笑って彼を見つめた。

「あんた、さっきの話が理解できなかったの?私はちゃんと説明したつもりだけど。母親が私にあれだけ失礼なことを言ってきたんだから、なんでこっちが敬語使わないといけないわけ?彼女はあんたの母親なんだから、あんたがちゃんと敬ってあげればいいでしょうが」

颯斗はますます顔を青くし、私をさらに強く引き寄せ、周囲に聞こえないように声をひそめた。

「そもそも、俺の母さんは、お前が年上ってだけで俺と結婚するの反対だったんだ。そこにきて、お前があんな生意気な態度で挑発するからだよ。母さんは俺にとって大事な人なんだから、ちゃんと謝って、店の支払いも済ませて、それで機嫌を直してもらうんだ」

その言葉に、私は思わず冷笑してしまった。恥知らずの彼、まさかここで私に支払いをさせようなんて。

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