第68話

「南雲華恋、彼を呼んで謝罪させれば、この件は追及しないでおこう」

「彼は何も悪くしてないわ。どうして彼を呼ぶ必要があるの？」

「お前は本気で彼を守るつもりなのか？」哲郎は一歩詰め寄り、華恋の目を鋭く見つめた。

華恋は冷静に目を上げ、しっかりと哲郎を見返しながら、毅然として答えた。「そうよ！」

哲郎は瞳がわずかに縮まり、一歩後ろへ退くと、冷笑を浮かべた。「ここは北城、俺のテリトリーだ。彼がまだ北城にいる限り、地の底まで掘り返してでも彼を見つけ出すことができる。その時は、こんな簡単には済まないぞ！」

そう言い残して、哲郎は踵を返して去っていった。

雅美と和樹もそれを見て、慌てて哲郎の後を追い、病室を後にした。

彼らが去ったのを見届けた後、華恋はすぐに携帯を取り出し、時也に電話をかけた。

その頃、時也は薄暗い個室に座り、ネクタイを緩く首に掛け、酒気を漂わせていた。堕落した雰囲気の中でも、その身には貴族的な気品が残っていた。

周りにはすでに何人かの女性が狙いを定めて近づこうとしていたが、時也が鋭い眼差しで、彼女たちはすぐにその場から退散した。

商治は状況を見て、酒を手に時也の隣に腰を下ろした。「遊びたくて来たのはお前だ。なのに、今は遊びたくないなんて、さん、一体何がしたいんだ？」

時也は目の前の透明なグラスに視線を落とし、最後のお酒を飲み干すと、その瞳に一瞬の迷いが映った。

「一体どうしたんだ？」商治は心配そうに問いかけた。「まさか...... 南雲さんと関係があるんじゃないか？」

時也が華恋と結婚してから、この男はどこかおかしくなっているようだ。

時也は眉を寄せ、かすれた声で言った。「黙れ」

商治は興味深そうに足を組んだ。「心を読まれて怒るとはな。ふふ、高飛車な二郎も珍しく、普通の人のように心が揺れたか！」

時也は彼に一瞥をくれ、何か言おうとしたが、その時、携帯が鳴り響いた。不機嫌そうに携帯を取り上げ、切ろうとしたが、画面に表示された名前を見て、動作を止め、商治に一瞥を投げてから、電話を持って部屋を出た。

商治はその背中を見送り、意味深な笑みを浮かべた。

これで、まだ心を動かされていないと言うのか。

いずれ、きっと苦しむことになるだろう。

時也は部屋を出ると、人のない場所を探して電話に出た。

華恋の柔らかな声が、雑音混じりの電流を