僕と姉さん、何故かアカリも残り他の者が準備に取り掛かるとアレンさんは神妙な顔つきで話し始めた。
「アカリも残ったのかい?まあいいけど。君達に伝えておくことがあるんだ。家族に関することだから紫音さんにも残ってもらった」 姉さんを残したのは何故か不思議だったが、家族に関することなら姉さんにも聞かせる必要がある。「異世界には世界樹の伝説がある。何処にあるかも分からない世界樹の頂上に辿り着いた者は神が願いを叶えてくれるというものだ」
「え……なんでも……ですか?」 「そう、なんでも。君が望めば時間を遡り今までの悲劇を無かったことにもできる」 そんなの、返事は決まっている。「異世界に行きます。連れて行って下さい!」
「よく考えた方がいい。世界樹は何処にあるかボクでも分からないんだ。ただ現状を変えるには唯一の手段だとは思うけど」 元々僕の命を掛けてでも時を戻すことを考えていた。 渡りに綱とはこのことだ。「それに……カナタくん。君は忌み嫌われる赤い眼をしている。世界樹を探す旅は過酷になるだろう、それでもいいのかい?」
「僕はそれでも、元の平和な世界に戻したいんです……」 「彼方、私は応援するよ。だから貴方のしたいようにして。何処に行っても私はずっと味方で居続けるよ」 「姉さん……ありがとう……」 世界樹を目指すのなら、姉さんとは今日をもって永遠の別れになるだろう。 涙は止めどなく溢れてくる。 もしも、あの平和な日々に戻れるのなら……僕は……成し遂げて見せる。「決まったね。世界樹に関しては向こうの世界に戻ったら伝手を辿ってみよう。紫音さん、貴方の弟は何があってもボクらが守って見せる。だから安心して欲しい」
「お願い……します……」紫音は涙を堪え、唯一の家族を見送る覚悟を決めた。
死ぬ訳では無いが、もう会うことはない。 自分のワガママで弟をこの世界に残せば、世界から追われ続ける一生となる。 それは姉として看過できるものではないと理解していた。「姉さん、必ず世界を元に戻してみせるか
「攻撃が始まりました」研究所では既に魔族の軍隊が作られており頑強な要塞と化していた。「世界各地に散らばった魔族と魔物を呼び戻せ。全員ここの防衛に当たらせろ」「首都の制圧にとりかかった者達も全てですか?」「二度は言わん。全てだ。我が軍が全力をもってやつらを正面から叩き潰す」魔神もこの世界に来たすべての戦力を今日ここで決着をつけるため集結させていた。「くくく、この世界と異世界の総力戦か……心躍る戦いではないか。そうは思わないか?ゾラ」「一部厄介な者達も混ざってはおりますが数はしれています。このまま防衛し続ければ奴らは消耗します」「それに……リンドール様の結界はこの世界の人間では破れないでしょう」研究所に用意された玉座に座る魔神は不敵に笑った。――――――進軍を開始した日本軍は結界が破れず、目的地を目前にし二の足を踏んでいた。しかしそのおかげからか、アレン達は順調に進んでいる。結界まで残り百メートルの位置で止まり、アレンさんは魔法の詠唱に入った。詠唱は基本省略するが今回はしっかり詠唱している。威力を上げるため、とのことだがそれほどまでに魔神の結界は硬いそうだ。「全員ボクの後ろに」指示に従い全員が後方へと下がる。「じゃあいくよー。破滅の波動、グランドカタストロフ!」両手を前に翳し、軽い口調とは裏腹にドス黒い魔力溜まりが作られていく。一定のサイズになると今度はその黒い魔力が光線のように、結界へと飛んでいった。極太の光線は轟音を響かせ、結界へと着弾する。拮抗しているのか、雷のような音がここまで聞こえてきた。風圧が後ろにいる僕らの所まで届いている為、顔の前に腕を出し踏ん張っている。数秒ののち、結界はガラスの割れる音と共に消え去っていった。「さあ、結界はなくなった!展開しつつ突撃!!!」アレンさんの掛け声と共に団員達は各々駆け出し、ある者は屋根伝いに、またある者は道路を駆けていく
「全員走り続けろ!取りこぼしたやつはボクが相手をする!」アレンさんを殿に研究所へと向かう。「アイシクルランス!」フェリスさんの周りに浮かぶ氷の槍が魔族に襲い掛かる。「アタシの前に立ち塞がるんじゃねぇ!死ねぇぇ!!!」相変わらず裏のフェリスさんが出てきているようだ。走っても走っても無限に湧いてくる魔族。僕や姉さんは銃器で応戦しているが、レーザーライフル以外はあまり有効ではないようだ。アカリは僕らの射線を塞がない程度に動き、近づく魔族を処理してくれている。……どれだけ戦っただろうか。倒しても倒しても湧いてくる魔族に嫌気が差してくる。「仕方ない、魔力は温存しておきたかったけど……ボクが数を減らそう」アレンさんがこのままでは不味いと考えたのか僕らの前に躍り出た。両手を前に翳し、ドス黒い魔力の塊が生成されていく。先程見た魔法を使うようだ。仲間達はみな後ろに下がる。「グランドカタストロフ!」掛け声と共に前方へと黒い深淵が伸びていく。飲み込まれた魔族は即死だろう。魔法を撃ち終わった後には、何も残らない。研究所へと一直線に広がる視界。埋め尽していた魔族は一体すら見当たらない。全て消滅したようだ。「この魔法は魔力の消費が大きいからあまり使いたくはなかったけど、これでみんなの魔力は温存できただろう?」アレンさんは仲間の魔力量が不安だったらしく、苦渋の決断で先程の大魔法を使ったらしい。しかしそのお陰で、僕らを阻む者はいなくなった。僕らは堂々と歩き研究所を目指す。日本軍はまだ戦っているのか、ひっきりなしに戦闘音が聞こえてくる。「彼らの心配はしなくていい、恐らく向こうには魔物だけを配置していたみたいだしね。魔神にとってはボクらが一番警戒すべき相手のはずさ」既に研究所から五百メートル圏内にいる。研究所内にはまだ魔
「殲滅だ!魔族共を殲滅しろ!」掛け声と共に、僕らは研究所へと押し入る。しかし、遠目からでしかなかったが魔神とゾラがゲートへと飛び込んだ所が見えてしまった。「逃げたのか!?いや、まさか!」「アカリ!!ゲートに集まる魔族を蹴散らせ!」「了解」ゲートを破壊しようとする魔族に向かって駆け出すアカリ。魔神の考えていた事が理解できてしまった。奴らは先に異世界へと戻りゲートを破壊し、黄金の旅団を戻させない手段をとったのだろう。既にゲートの周囲には魔族が数体おり、破壊しようとしていた。魔族がゲートに手を翳した時には、神速と呼ばれた少女が側にいた。「残念でした」小さな幼い声と共に魔族の首は跳ね飛ばされる。動揺した他の魔族も、気付いたときには視界が暗転していた。アカリは間に合ったようだ。流石は神速の二つ名を持つだけはある。既にゲートの周囲には首のない魔族の遺体が転がっているだけ。僕らもアカリに続くように、周りを牽制しつつゲートへと足を進める。やっとの事でゲートへ辿り着いたのはいいが、魔族は意地でも破壊しようと寄って来る。「くそ!数が!多いな!!」紅蓮さんもガトリング砲で牽制してはいるが、魔族の数はなかなか減らない。入口付近でも銃声が聞こえだした。軍隊も到着したのだろう。ゲート付近と入口付近からの挟撃で、魔族は混乱している。「このまま押し返せ!奴らをゲートに近づかせるな!」レイさんも団員に発破をかけている。どれだけ時間が経っただろうか。魔族は全て殲滅出来た。疲労が溜まり、全員が肩で息をしている。そんな僕らに日本軍から一人の男が近寄ってきた。「君達は……何者だ」「まず自分から名乗ったらどうだい?」アレンさんの飄々とした態度が気に食わなかったのか、男は顔を顰める。「生意気なやつだな。まあいい。私は連
「我々の中には家族を失った者が多い。そんな彼らになんと説明すればいい。このゲートを作ったのであれば責任を負う者は彼しかない。五木といったか?彼も重要参考人だ、何処にいる」鈴木さんはどうしても僕を連れていきたいようだ。ただ、アレンさんは絶対にその場から動こうとせず僕を守るように立ち塞がる。「彼は死んだよ。魔族の手によって」アレンさんが悲しそうな目で、五木さんの最後を伝えた。「何?ならば尚更城ヶ崎彼方には来てもらわなければならなくなったな」「だから言っているだろう?彼はボクらと共に行くと」鈴木さんは溜め息を付き、次の言葉を投げかけた。「我々は一般人に手を出すつもりはない。が、彼は世間から大罪人として思われている存在だ。それを庇うというのであれば武力行使も」言い終わるや否か、フェリスさんは剣を抜き鈴木さんの首元に剣先を突き付けた。「なら、アタシたちが相手になってやるわ。たった数人しかいないけど、貴方達とは互角以上に戦えるわ。さっきの戦闘見ていたんでしょう?私達の力がどれ程のものか、味わってみたいのかしら?」「貴様……」空気は非常に悪い。ピリついており、後ろに控えている兵士達も銃を手に、いつでも構えようとする気配がある。もちろん黄金の旅団も、みな武器に手をかけている。このままでは本当に殺し合いになってしまう。自分の世界の兵士と、仲間達が殺し合うなんて見たくもない。しかし今は誰かが構えた瞬間、戦闘になりそうな雰囲気だ。「あの!!」僕は意を決して、立ち上がった。いきなり立ち上がったからか、その場にいた全員の視線が突き刺さる。誰もが見つめる中口を開くのはなかなか勇気がいるが、今はそんなことも言っていられない。「鈴木さん、異世界ゲートの制作に携わった彼方です」「そんなものは知っている。そもそも携わったというより、リーダーの立場だろう君は」睨みつけられるが、ここで下がるわけにいかない。「本来の目的は、
「あーめんどくせぇなぁおい。いいじゃねえか、こっちは戦力に問題はねぇ。殺しちまえばいいだろ」 静寂を切り裂くように、とんでもない事を言い出す紅蓮さんに皆が顔を向ける。「紅蓮さん、貴方は黙っていてください」 レイさんが諫めるがそれでも止まらない。「面倒くせぇ事は嫌いなんだよ。こいつらぶっ殺して彼方はさっさとゲートに飛び込め。おれがその後ゲートを破壊してやる」 言うのは簡単だが、残される者が罪に問われてしまう。 それに殺し合いなんて絶対に避けねばならないことだ。 すると、鈴木さんは気付いていなかったのか、目を見開く。 「お前は……黒川紅蓮か?」 「だったらなんだ」 「特殊部隊に所属していた精鋭だと聞いたことがある……いつのまにか行方をくらまし武器商人となったと聞いていたが。まさかこんなとこで会うことになるとは……」 紅蓮さんの謎に満ちた過去を知ってしまい、妙に納得してしまった。 あれほど武器の扱いに長けており、尚且つ見た目も体格も一般人とは思えなかった為、なんとなく軍に関連した職業に就いていた事は容易に想像できた。「まあいいだろ、そんな昔の事はよ。それより殺んのか俺らと」 「正気か?貴様。こちらには数万の兵がいる。確かに未知の力を扱うかもしれんがたった数人で我々に勝てると?」 「馬鹿はてめぇだぜ?アレンの魔法なら一発で数万の兵なんて消し飛ぶぞ?」虎の威を借る紅蓮さん。 アレンさんの力なら簡単に制圧できるだろうが、多分アレンさんも戦いたくはないだろう。「……私は家族を失った」 唐突に鈴木さんは悲しそうな顔をして、話しだした。「全世界の一割以上の人が亡くなった……世界の声を聞かせてやろうか?ゲートを壊せ、彼方を殺せ、だ。歪み合う世界が今や……人類共通の敵を前にして協力し合っている。私とて貴様らと刃を交わすなど……無駄に部下を死なせるだけなのは理解している。ただせめて、全世界に向けて発言をして頂きたい」 僕の目を見る鈴木さんの目は涙が浮かんでいる。「まてまて、そんなことして何になる?どうせこの世界から去るんだぜ、
数秒黙ったままの僕を見てか、姉さんが肩を抱き寄せてきた。「私は何があっても貴方の味方……だから彼方、貴方がどうしたいか、決めなさい」意を決した僕は鈴木さんに近寄る。「分かりました、場を整えて下さい。何があったか、これからの事、全て伝えます。信じてもらえないでしょうが、世界は知る権利があると思います」「分かった。数時間でライブ中継の準備を整える。それまでに気持ちの整理くらいはしておくといい」これは僕の仕事だ。世界に真実を伝えるのは僕でなければならないんだ。「おい、良かったのか?全世界はお前を大罪人として見てるんだぞ。世界を元に戻せば今ここで起きたことも忘れる。意味なんてないと思うがな」「いえ、違います。僕が前を向いて歩けるように。ただ自分の為に世界に事の経緯を伝えたいと思っています」「……まあお前がいいってんなら、いいけどな。覚悟はしておけ。暴言という名の石を投げられるだろうからな」紅蓮さんはこう見えて、世話を焼いてくれる。僕の為を思って言ってくれたんだろう。数時間ゲート前で待っていると、鈴木さんが研究所へと戻ってきた。「場を用意した。研究所のすぐ外だ。破壊の痕跡が残った生々しい現状を背景にしたほうが伝えやすいかと思ったのでな。それと中継の為に各国の記者を呼び寄せた。人で溢れているが警備は我々連合軍が担っているから安心するといい」「ありがとうございます。すぐ行きます」耳を澄ますと、外から人の声が聞こえてくる。かなりの数が集まっているようだ。色んな言語が聞こえてくる、本当に各国から集まってきたみたいだ。鈴木さんに着いていき、研究所の外へと出ると喧騒が更に大きくなった。「この犯罪者がー!」「私の家族を返して!!」「責任を取れ!」「処刑しろ!」聞こえてくるのは僕に対しての罵詈雑言。足が震え、立ち止まってしまう。鈴木さんに聞いてはいたが、実際に聞
カメラのフラッシュが眩しいくらいに焚かれる。雑誌の表紙でも飾るのだろう。「今回の悲劇について、皆様には伝えておかなければいけない事がたくさんありました。信じて貰えない事も沢山あります。しかし全て事実です。それを今ここで説明させて頂きます」異世界について、異形の生物について、魔法について、これからについて、一時間程かけて全てを話した。「……なので私は未来のために異世界へと渡ります。逃げるな、と言われるかもしれませんが、元の世界へと必ず戻してみせます」「そんなもの信じられるか!!ふざけるのも大概にしろ!!」「この世界を捨てるつもりか!」溜まった鬱憤を晴らすかのように飛んでくる罵詈雑言。するとアレンさんが僕の横に立った。「この世界の人達はうるさいなぁ、いっその事滅んでみるかい?」手にはドス黒い魔力の塊を生み出す。それを見た者達は一斉に静かになる。「なら聞くけど、異世界ゲートが作られるって時になぜ君達は反対しなかったんだい?文明の発展に繋がるって所だけ見てたんだろう?危険があることも説明にあっただろうに。結果、今の状態になってしまってから悪者はカナタくんだけ?ボクらにとって彼は仲間なんだ。それ以上侮辱するならボクら黄金の旅団が相手になろう」その言葉と共に旅団員は全員武器を構えだした。本気な訳ないが、彼らの威圧感は本物だ。長年潜り抜けてきた修羅場が違う。「彼は自らの過ちを悔いている。だからこそ命のやり取りが身近となる異世界へと向かいこの世界を元の平和な世界へと戻す旅に出るんだ。信じられないなら共に来るかい?何人着いてきても構わないよ、ただ自分の身は自分で守ってもらうけど」誰も口を開かない。ただ静寂が広がるのみ。僕はそんな彼らを背に研究所へと戻っていく。誰も声を掛ける者はいない。見送る人は姉と紅蓮さんと茜さんのみ。もしも世界樹が見つからなければ、もう二度と会うことはない。僕は涙を堪え、ゲートへと向かう。「さあ、もういいだろ
「行ったな……」静かになった異世界ゲートの前に佇む三人。黒川紅蓮、城ヶ崎紫音、斎藤茜はずっとゲートを見つめている。「さあ俺の最後の仕事だ」紅蓮は、爆薬をゲートに仕掛け距離を取る。「お前らも全員離れろ。巻き込まれるぞ」ゲート前で呆然と立ち尽くす茜と紫音に問いかけるが反応がない。「おい!さっさと下がれ!死にてぇのか?」怒鳴られてやっと反応した二人は顔に生気がない。無理もないだろう、茜は彼方の事を弟のように可愛がり、紫音に限っては生まれたときからずっと一緒に生きてきた。もう会えないと思うと、立ち尽くす気持ちも理解できる。「あいつの事信じてるなら、さっさと下がって来い」「……すみません」二人共ゲートから距離を取り紅蓮の元に来る。「あの……紅蓮さん……」紫音が話しかけてくる。「なんだ?」「その爆弾の起爆スイッチ……私に押させてもらえませんか?」彼方との最後の繋がりはゲートのみ。だからこそ自分で押したいのだろう。そう思った紅蓮は彼女にスイッチを手渡す。「この爆弾は時限式だ。スイッチを押して5秒後に爆破する」「分かりました」紫音の手に起爆スイッチを置くと、紅蓮は少し離れた。最後のお別れくらいは、自分のタイミングがいいだろう。そう思い、紅蓮は押すタイミングは紫音に任せた。「茜さんも紅蓮さんのとこまで離れてていいですよ」「……うん、紫音ちゃん、大丈夫?押せる?」「はい……どうしても私が押したいんです……」「わかったわ、貴方のタイミングで押したらいいからね」そう言って茜も離れていく。紫音の頭の中には、彼方と過ごした日々が走馬灯のように流れている。
パーティ―メンバーが決まると早速旅程の調整が始まった。クロウリーさんの住処となる山まで馬車で三日。そこから徒歩で山を登り頂上付近に建てられている住処までおよそ二日。計五日の旅になる。準備はしっかり行わないと後で痛い目を食らうのは自分達だ。フェリスさんを交えての会議が始まると、真っ先に皇女殿下が手を挙げた。「アレンがいるなら戦力は申し分ないでしょう。ただ、カナタがどれだけ戦えるのか知っておきたいのだけど」「あー、それなんだけどカナタは戦力に入れてはいないよ」「どうしてかしら?眼帯まで着けて歴戦の冒険者感が溢れているのに?」それを言われると恥ずかしい。僕は見た目だけは歴戦の冒険者かもしれないが実態は一般人と差異がない。赤眼のせいで魔法は中級魔法までしか使えないし、実戦経験も希薄だ。「カナタは弱い」「あら、そんなハッキリと言ってしまうのアカリ」「だって本当の事だから」アカリが心に刺さる言葉を発言すると皇女殿下は僕に憐みの目を向けてきた。やめてくれ、凄く傷つくから。「貴方……それほどまでに弱いのかしら」「まあ……はい、そうです、ね」「よくそれで今まで生きてこられたわね」日本では本来戦闘力なんて重視されないんだから仕方がないだろう。この世界では魔物が跋扈しているから理解できるけどそれを僕に当てはめるのは間違っている。「じゃあ主な戦闘はワタクシ含めて四人ね」「いやいやいや、ソフィアも守られる対象だけど?」「なぜかしら?ワタクシが戦える事くらいアレンは知っているでしょ」「ソフィアは皇女、だから守られる対象」「アカリも知
皇女様がなぜここに!?僕は驚きのあまり固まってしまった。そんな僕などお構いなしに皇女様はアレンさんの机に手を置くとニヤッと笑う。「ワタクシもそのパーティーに参加します」「いやいやいや!皇女様を連れまわしたら流石にオルランドに怒られるよ!」アレンさんがかなり気を遣っている。皇帝陛下にすらタメ口なのになぜ目の前の皇女様にはタジタジなのかが気になった。「この国に帰ってきて一度も挨拶しに来なかったのは誰だったかしら?」「そ、それについては申し訳ない……。ほら、ボクも帰って来たばかりだったしさ、そこにいるカナタの案内もかねて各所を回っていたんだよ」「カナタ?」アレンさんはあろう事か僕に振って来た。皇女様と会話なんて何話したらいいんだ。「えっと……カナタと申します」「あら?新顔ですわね。新しいクランメンバーかしら?」「そ、そんなところかと」「ふ~ん」皇女様はジッと僕を見つめる。やがて興味が薄れたのか目を逸らすとまたアレンさんの方へと向き直った。「それで?彼とワタクシに挨拶がなかったのとどんな関係があるのかしら?」「カナタはこの世界の人間じゃないんだよ」「今何と?」「だからこの世界の人間じゃないんだ。ボクらが無事この世界に帰って来れたのもカナタあってこそだよ」アレンさんがそう言うとまた皇女様は僕の方を見た。今度は上から下まで舐めまわすように見てくる。「ワタクシはソフィア・エリュシオン第一皇女、貴方の名は?」さっき言ったけどもっかい言えってことかな。「城ケ崎彼方と申します」「カナタですわね。別世界から来たというのは本当なの?」「はい。日本という国から来ました」「ニホン……聞いた事がないわね。どうしてこの世界に来たのかしら?」「僕のいた世界を元に戻すため、です」「いまいち意味が分からないわ。アレン、説明して
「さっきのは……」彼方達が図書館から去ると同時に一人の女性が興味深そうに彼らを見ていた。「殲滅王に神速……もう一人の男は見たことなかったけれど、"黄金の旅団"ね。こんな所になんの用だったのかしらね?」女性は読んでいた本を棚に仕舞うと司書の所まで向かう。「ねえ、司書さん。さっきの人達って何の本を探してたのかしら?」「先程と申しますと……アレンさんの事でしょうか?」「そうそう。アレン達が何探してたのかなって。もしあれだったら手伝おうと思って」「ええと……確か神域についてだったと思います」「神域……分かったわありがとう」それだけ聞くと女性はアレン達の後を追うように図書館を出て行った。「あれ?さっきの人ってもしかして……」司書は先程話し掛けてきた人物を知っていた。誰もが知っている女性。直接会話してしまったと司書は喜びに打ち震えていた。誰にも聞こえない声量で司書は彼女の名前を零す。「ソフィア第一皇女様……」――――――宿り木に戻った僕達はまずパーティーメンバーの選出から始まった。アレンさんとアカリ、そして僕ではあまりに貧弱すぎる。というのも僕が殆ど役に立たないからだ。戦闘要員として数えられない為、後二人は必要になるとの事だった。「さてと、誰を連れて行こうかな」クランマスターの部屋で僕らはメンバーを選ぶ。名前と能力が書かれた紙を手渡され僕も一応目を通す。フェリスさんは入れたほうがいいだろう。数日の旅になるなら多少気心しれた人を入れたほうが僕としても楽だ。「フェリスさんはどうですか?」「ああ、そうだね。彼女なら戦闘力も問題ないし……それにカナタもいるから入れた方が良いね」
帝都大図書館は帝国内でも最大級の大きさらしく見上げるほどの高さがあった。日本でも国立図書館はあるがそれを遥かに凌駕する建物の大きさだ。さぞかし蔵書の数は多いのだろうと僕は胸を弾ませた。中に入るとこれまた巨大な棚に本がギッシリと詰められていて何処を見ればいいのか悩んでしまう程だった。「さてと、この中から目的の本を見つけるのは至難の業だ。というわけで司書の所に行こうか」図書館には司書がおり、特殊な魔法を習得しているらしい。なんでも求める本が何処にあるか分かるという司書としての職業でなければ役に立たない魔法だそうだ。「ああ、君。ここに神域に関する事が書かれた本はあるかな?」「はい、少々お待ち下さい」司書は頭の上に魔法陣を浮かべると目を瞑る。しばらく待つと司書の目が開き手元の紙に本のタイトルと場所を記してくれた。「こちら神域について書かれた本は全部で三冊となります」これだけ膨大な数の本があったたったの三冊。それだけに神域は謎に包まれているという事だ。紙に記された場所で本を取るとその場で数ページ捲る。悲しい事に僕は文字が読めない。代わりにアレンさんに読んでもらうと、少し難しい表情になった。「うーん……抽象的な事しか書かれていないね。他の二冊も探してみよう」どうやら満足いく内容ではなかったらしい。目的の本を探すのもなかなか大変だ。何処を見渡しても本の壁。場所は紙に記載してくれているとはいえ、その場所にも何冊もの本が並べられている。やがて見つけた二冊目もやはりアレンさん曰くあまり必要としない情報しか載っていなかったらしい。
魔導具を物色していると時間が溶けていく。あれもこれも欲しくなるしどういった効果があるのか気になってくる。また一つよさげな物を見つけ僕は手に取った。腰に巻き付けるチェーンのようで、少し柄が悪くなるかなと思いつつ自分の腰に当ててみる。……かっこいいじゃないか。男はいくつになっても中二心は忘れない生き物だ。僕も例に漏れずチェーンとか好きである。「……ダサい」「えっ?」アカリは一言だけ伝えるとまた口を閉ざした。え、これダサいかな……。腰にチェーンとか普通にありかなと思ったんだけど。「お、カナタ似合ってるよ。いいじゃないかそれ」アレンさんは分かってくれたらしく、僕を見て嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。やはり男は分かるもんなんだ。このチェーンの良さが。「ダサい」「そんな事はないよアカリ。ほら、見てみなよこの重厚感。ずっしりとくる重みがまたかっこよさを際立たせているじゃないか」「邪魔なだけ」「銀色に輝いているのもよくないかい?」「反射して敵に場所がバレる」「長いのも魅力――」「走ってると絶対足に絡まる」ダメだ、僕とアレンさんが何を言ってもアカリには刺さらなかったらしい。仕方ない、別の魔導具を探すかと僕はチェーンを棚に戻した。と、思ったらすぐ傍にまたかっこいい魔導具を見つけた。銀色の指輪だ。それも普通の指輪じゃない。指全体を覆うようなフィンガーアームのような形をしている。僕が手に取ろうとすると、その手はアカリによって弾かれた。「それもダサい」僕は肩をがっくり落とし、また別の魔導具を物色する。結局、短剣型が一番使いやすいとの事で、僕が選んだのはガードリングと炎の短剣だった。お会計はいくらくらいになるんだろうかと、支払いの時に耳を澄ませていると金貨という単語
ギルドを出ると今度は魔道具の売られている店へと行くことになった。最低限身を守る魔導具はあった方がいいだろうとはアレンさんの意見だ。魔導具と聞けば魔法を気軽に扱える道具という認識がある。ただ結構高価なイメージもあるが、買えるだろうか。「お金は心配しなくていいよ。一応これでも大きなクランのマスターやってるからさ。貯蓄は結構あるんだよ」それなら安心か。しかしどれもこれも買ってもらうというのは気が引ける。魔導具店に到着し、店内へと入ると僕は目を輝かせてしまった。棚には所狭しと置かれた魔導具の数々。魔導書だって何冊も並べられておりワクワク感が増してくる。「カナタ、身を守る物と攻撃手段を選ぶといい」「二つともあった方がいいってこと?一応レーザーライフルはあるけど」「それだけじゃ心許ない」アカリにそう言われるとそんな気もしてきた。レーザーライフルは威力こそ十分だが、ソーラー発電でのエネルギーチャージが必要だからあまり連続して使う事はできない。「カナタ、まずは身を守る為の魔導具を探そう」アレンさんと棚の物色を始めると、どれもこれも効果が分からず僕は首を傾げるばかりだった。見た目はただの指輪でも何らかの効果を持つであろう宝石の嵌った物やネックレスなどもある。腕輪タイプだったら邪魔にならなそうだし、見た目もお洒落だ。いいなと思った魔導具を手に取り見ているとアレンさんが話しかけて来た。「お、それがいいのかい?」「効果は分からないんですが、見た目がいいなと思いまして」「丁度いい。それにするかい?その腕輪はシールドを張る事のできる魔導具さ」運がいい。僕のいいなと思った腕輪が防御系の物だったなんて。「これがいいです」「よし、じゃあ次は攻撃用を探そう」価格を見てないけど大丈夫なのかな。後でコソッとアカリに聞いておこう。攻撃用の魔導具といっても種類は豊富にある。杖型や指輪型、剣型などもありど
アレンさんのいうアテというのが何か分からなかったが、僕の知らない付き合いなどもあるのだろうと無理やり自分を納得させた。「じゃあ金貨五十枚で依頼を出すぞ。まあ、まずは魔神が今いる場所を特定する必要があるからな。占星術師に依頼を出してからになるが」「ああ、それで構わないよ。その間にカナタに教えておく事も多いだろうからさ」教えておく事ってなんだろうか。もう結構この世界の事は学んだつもりだけどな。「それでカナタ。その眼帯の下は赤眼だったな。あまり他のやつに見せるなよ」「はい。アレンさんからも忠告されています」「ならいいが。禁忌に触れた者は悪魔に身を落としたなどとのたまって襲いかかってくる輩もいるからな」それは怖いな。こちらから眼帯を捲らない限りバレることはないだろうけど気をつけておこう。VIPルームを出ると受付嬢であるカレンさんが近づいてきた。「アレンさん、そちらの男性は冒険者登録をされますか?」「よく分かったね」「まあこの辺りでは見たこともない方でしたので」一目見ただけで冒険者か否か分かるものなのか。ギルドの受付嬢って凄い目利きをしてるんだな。「ではこちらへどうぞ」カレンさんの案内に着いていくと受付へと通された。「アレンさんのお知り合いなのは存じておりますが、冒険者登録したばかりですとランクは一番下のC級となります」「はい、大丈夫です」「それでは登録表に必要事項の記入をお願いいたします」おっと、これは不味いぞ。僕はこの世界の文字が書けない。なぜしゃべれてるかは謎だが、多分魔法的な何らかの力が働いているのだと無理やり納得している。しかし文字だけは勉強しなければ書けやしない。「カナタ、私が代わりに書く」「ありがとう。助かるよ」僕が受付で困った表情を浮かべているとアカリはすぐに察したのか代わりに記入してくれることになった。「カナタさん、と仰いましたよね?カナタさんはどこからか来られたのでしょうか?」
「久しぶりーガイアス。元気だった?」「元気も何もお前ら"黄金の旅団"が行方不明になったととんでもない騒ぎだったんだぞ」体格のいい男は苦言を零しながらもアレンさんが無事に帰ってきたことを喜んでいるようだった。「一体何があったんだ」「話すと長いよ」「そこの見たこともない男といい……全員こっちに来い」僕ら三人はギルドの二階へと案内され、ある部屋へと通された。VIP扱いのようで僕は少し緊張していた。長いソファーに腰を下ろすと目の前にギルド長が座る。「まずは無事の帰還を祝おう。よく戻ってきてくれた」「その辺りも詳しく説明がいるかい?」「当たり前だ!」アレンさんはやれやれと肩を竦め説明をし始める。ギルド長はその話をしっかりと聞き、最後に長い溜め息をついた。「はぁぁぁ……よくそれで無事に戻ってこれたものだ。そこの、カナタだったか?よくアレン達をこっちの世界に戻してくれた。礼を言う」「いえ、みなさんの力あっての結果ですから」「ふん。謙遜するタイプか。俺は嫌いじゃないぞ」ギルド長のお眼鏡には叶った受け答えだったようだ。「俺はこの帝都冒険者ギルドの長をやってるガイアスってもんだ。今後も何かと関わる機会が多いだろうからな、覚えておいてくれ」「はい、こちらこそよろしくお願いします」ギルド長と懇意にしておけば今後何かあっても手を貸してくれるだろう。僕はガイアスさんと握手を交わした。「それで魔神だったな……ギルドで高位冒険者は雇えるが魔神にどれだけ対抗できるかは分からんぞ」「まあボクの仲間が何人もやられたからね。普通の冒険者だと歯が立たないだろうから最低でもS級以上の手を借りたい」道中で教えて貰ったが、冒険者にはランクが存在する。アレンさんのような王の名を冠する冒険者は英雄級、アカリやレイさんのような冒険者はSS級。二つ名を持っているのはS級以上だそうだが、その中
テスタロッサさんとの顔合わせも終わると今度は冒険者ギルドへと赴く事になった。正直少しだけ楽しみにしている場所でもある。アレンさんがギルドの扉を開けると中には沢山の冒険者がいた。依頼票を見ている者やテーブルで談笑する者、中には受付嬢を口説いている人もいる。そんな冒険者達がアレンさんを見て一斉に静まり返った。「やあ、みんな。久しぶりだね」アレンさんは呑気にそう声を掛けるが誰も反応しない。いや、正確には反応しているのだが、全員が全員口を開けて呆けた顔をしていた。「ア、アレンさん……生きていたと噂にはなっていましたが……」「ん?ああもしかしてオルランドが触れ回ってるのかな」受付嬢が驚きを通り越して恐ろしいものでもみたかのような顔で声を発する。国王陛下を呼び捨てなど不敬にも程があるがアレンさんだから許されているだけだ。聞いているこっちは冷や汗ものだが、アレンさんは気にする様子がない。「よくご無事で……おかえりなさいませ」「ただいま」アレンさんがそう言うとギルド内は喝采に包まれた。冒険者でも上位に君臨するアレンさんの人気は凄まじいようで、ワラワラと集まってきた。誰しもが笑顔を浮かべアレンさんやアカリに声を掛けているが、僕には誰も話し掛けはしない。見たこともない奴がいるな、くらいは思っているかもしれないが、先にアレンさんの無事を祝っているようだった。「道を開けてもらえるかな?ギルドに報告しなければならない事があってね」そう言うとみんな離れて道を開けていく。それに倣って僕も着いていくとやはり若干の注目を浴びた。眼帯を着けているの