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総力戦⑤

last update Last Updated: 2025-03-08 17:00:14

リサさんがここに居るということはアレンさんは間に合ったらしい。

入り口に目を向けるとあれだけいた魔族や魔物は一匹も残っていなかった。

ただそこに殲滅王が立ち尽くしている。

「ボクの不在を狙うなんて随分と舐めた事をしてくれたね、グリード」

「チッ、もう来たのかよ……」

嫌そうな顔でアレンに顔を向けたグリードは全身傷だらけ。

レイさんとアカリも少しずつ怪我を負っているようで、所々に血が滲んでいた。

「ボクの仲間を傷つけた罪。その身で受けるといい」

掌をグリードに向け何やら呪文を唱えだす。

しかしグリードも馬鹿正直に待っているだけではなく、アレンさんへと駆け出した。

「詠唱する前に殺してやるよぉぉアレェェン!!!」

「バニシングブラスト」

「なッッ!詠唱省略だと!?」

白い光は真っ直ぐグリードへと伸びていき、包み込む。

音もなく光が消えたその後には何も残らず、ただ掌を向けたアレンさんが立っているだけだった。

これが殲滅王か……圧倒的なまでの力。

あれだけ脅威を振りまいていた四天王ですらこの程度とは、アレンさんの力の底が知れないな。

「団長……助かりました」

「レイもアカリもよく耐えてくれた。まずは負傷者を確認しよう」

全員辺りを見渡したが団員は全て無事。

小さい傷は負っているがどれも命に別状はない傷だった。

「カナタくん、済まない……こんな傷を負わせてしまって……」

「いえ、間に合ってくれてよかったです。あのままだったら僕らは死んでいましたから」

実際リサさんが数秒遅ければ僕は死んでいた。

肩は魔法で治してもらえばそれでいい、感謝しかないのは他の皆も同じだった。

一息ついていた時、悲鳴じみた声が隠れ家内に木霊する。

「誰か……誰かっ!こっちに来て!」

茜さんの声がして、振り返るとそこには白衣を血に
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    アレンさんが有無を言わせず吹き飛ばされたのを見ていた僕は固まってしまった。他のみんなは視線が下を向いているお陰で今の状況をあまり理解できていないようだが、それで正解だ。意味の分からない力で吹き飛ばされたのを見ていれば、口を開くのが恐ろしくて堪らない。「さあ気を取り直して。カナタ君、世界樹を目指す理由は何かな?」「元の世界を、取り戻す為です」「取り戻す?それは比喩というわけでもなさそうだね。元の世界の話を聞かせてもらえるかな?」まさかとは思うけど僕以外はみんな片膝を突いたままなのだが、その態勢で放置するのだろうか?この状態で話を進めれば少なくとも数十分は身動きできないぞ。「あの、ここで話すんでしょうか?」僕がそう恐る恐る聞くとペトロさんはハッとしたような表情になり、申し訳なさそうな顔で謝罪してきた。「おっと、すまないね。気が利かなくて。ガブリエル、彼らを部屋の外へ」「ハッ」神族のリーダーであるガブリエルさんは吹き飛ばされてどこに行ったか分からないアレンさん以外を部屋の外へと連れて行った。アレンさんはもうどこまで吹っ飛んでいったのか見当もつかないな。「よし、これでいいかな。さあ、これでも飲んで話を聞かせてくれるかな?」僕はペトロさんと同席する事を許されテーブルに着くといつの間にか用意されていた紅茶を一口頂く。少しだけ気持ち落ち着いたな。「僕のいた世界は――」そこから一時間ほどかけて今までのあった事を丁寧に話した。ペトロはニコニコしたり悲しそうな顔をしたりと表情が豊かだった。「なるほどなるほど……それで世界樹に願いを叶えて貰って元の平和な時を取り戻したいという事だね」「はい。……時間を戻すなんて願いは難しいのでしょうか?」「いや、そうではないさ。この世界に干渉する願いでなければ恐らく誰も文句は言わないと思うよ。ただ……世界樹へのアクセスは過半数の使徒の許可がいる。まあ私は許可し

  • もしもあの日に戻れたのなら   神域へ⑤

    巨大な扉が数秒かけて開かれる。使徒様とはどんな見た目をしているんだろうか。部屋の中はどんな風になっているんだろうか。出会った瞬間バトルにならないだろうか。色んな不安が押し寄せてくる。緊張しながら一歩部屋の中に入ると、そこは部屋ではなかった。いや、正確には部屋の中だ。ただのどかな草原が広がっていて、その真ん中にポツンと椅子とテーブルが置かれてある。そこで優雅にティーカップで何かを飲んでいる白い服の男性がいた。「ペトロ様、少々変わった人間を連れて参りました」神族のリーダーが膝をつき、頭を垂れる。それと同じくして他の神族も膝をつくのかと思って周りに視線を向けてみるとそこには誰もいなかった。神族のリーダー以外部屋の中に入っていなかったようだ。これは僕らも膝をつくのが正解かと思い、しゃがむとアレンさん達も同じように膝をついた。流石にここは空気を読んでくれたらしい。ペトロと呼ばれた使徒が立ち上がるとゆっくりとこちらを向くのが気配で分かった。下を向いていても使徒から放たれ圧は凄まじいものだった。何もしていないのに流れ落ちる汗が物語っている。「君の事かな?」誰に話しかけているのか分からないが、多分僕に話しかけている。というのも声が僕の頭上から降りかかってきているからだ。ここは頭を上げていいタイミングなのか?どういう動きをすればいいのか、何が無礼に当たるのか分からず僕が黙っていると、再び頭上から声がかかる。「えーっと、君は……カナタというのかな?」何も言っていないのに名前を当てられた。使徒ってのは心でも読むのだろうか。いや、とにかく返事をした方がいいのかもしれない。「は、はい」顔を上げて言葉を返すと、頭上で見下ろしている使徒と目が合った。ニコッと微笑むと、手を差し出してきた。これは手を取れという合図だろうか。

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