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命の対価⑦

last update Last Updated: 2025-02-11 18:00:38

ゼンの叫び声が会場中に広がる。

僕や宿り木の皆は何が起きているかすぐに把握できた為、次の行動に移ろうとするが会場に来ている方々は何が起きているか理解できずオロオロと周りを見渡しどうすればいいか悩んでいるようだった。

しかしそれもゼンを目にして、逃げ惑う事となる。

ゲートから命からがら逃げてきたと思われるゼンの全身は、返り血なのか真っ赤に染まり所々服も破けていた。

「団長!魔物がなだれ込んでくる!何か手はないか!」

各所に配置されていた黄金の旅団員はすぐさまゲートに向かおうとしたが、そう簡単にはいかない。

こっちの世界にいた魔族達がここにきて姿を現したからだ。

「さあ、宴の始まりと行きましょうか」

ゾラの声を皮切りに、各所で雄叫びや唸り声が聞こえ始めたと思ったら異形の魔族達が行く手を阻みだした。

いや何か忘れていないか?

僕はある言葉を思い出した。

五木さんから聞いていた、稼働時間だ。

10分で稼働は止まる、電力が足らないから。

そう聞いていたのに、もう既に1時間ゲートは開いたままだ。

五木さんに目を合わせ、叫ぶ。

「五木さん!電力が止まればゲートも閉まりますよね!?」

「そ、そのはずなんだがなぜか止まらないんだ……」

しどろもどろに喋りながら機械を操作しようとするが、ゲートは閉まる気配を一向に見せない。

僕もスイッチを何度も押すが何も変化はない。

すると後ろから異様な気配が近付いてきた。

「無駄だ、電力不足など……魔力で補えばいいだけの話だ。我の魔力量なら造作もない」

低く冷たい言葉を発したその人物は、背は高く黒いコートに身体を包み、赤い眼をしていた。

刹那、アカリが僕の前に飛び出す。

「カナタ、下がって。あれが魔神。魔神ヴァリオクルス・リンドール」

遂に出てきた魔神。

名前しか聞いたことがなかったが、明らかに他の魔族とは違うオーラが漂っている。

「失せろ小娘。貴様でどうにかなると思ったか?」

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    テスタロッサさんとの顔合わせも終わると今度は冒険者ギルドへと赴く事になった。正直少しだけ楽しみにしている場所でもある。アレンさんがギルドの扉を開けると中には沢山の冒険者がいた。依頼票を見ている者やテーブルで談笑する者、中には受付嬢を口説いている人もいる。そんな冒険者達がアレンさんを見て一斉に静まり返った。「やあ、みんな。久しぶりだね」アレンさんは呑気にそう声を掛けるが誰も反応しない。いや、正確には反応しているのだが、全員が全員口を開けて呆けた顔をしていた。「ア、アレンさん……生きていたと噂にはなっていましたが……」「ん?ああもしかしてオルランドが触れ回ってるのかな」受付嬢が驚きを通り越して恐ろしいものでもみたかのような顔で声を発する。国王陛下を呼び捨てなど不敬にも程があるがアレンさんだから許されているだけだ。聞いているこっちは冷や汗ものだが、アレンさんは気にする様子がない。「よくご無事で……おかえりなさいませ」「ただいま」アレンさんがそう言うとギルド内は喝采に包まれた。冒険者でも上位に君臨するアレンさんの人気は凄まじいようで、ワラワラと集まってきた。誰しもが笑顔を浮かべアレンさんやアカリに声を掛けているが、僕には誰も話し掛けはしない。見たこともない奴がいるな、くらいは思っているかもしれないが、先にアレンさんの無事を祝っているようだった。「道を開けてもらえるかな?ギルドに報告しなければならない事があってね」そう言うとみんな離れて道を開けていく。それに倣って僕も着いていくとやはり若干の注目を浴びた。眼帯を着けているの

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    僕らはテスタロッサさんの案内で客間へと通された。ちなみにレオンハルトさんも傷だらけで戻ってきて今ではスンとしている。さっき吹き飛ばされたのが嘘みたいだ。「さあ聞かせて貰おうかアレン。八年もの間どこにいたのか、それとどうしてカナタが禁忌を犯しているのか」「何処から話そうかな――」アレンさんは今までの事を全部話した。別の世界にいた事、僕が異世界ゲートを作りだしこの世界に帰ってこれた事、何人もの犠牲者が出た事。そして僕が赤眼になってしまった事。テスタロッサさんは無言で聞き終えると、小さく溜息をつく。「要約すればお前達はただの一般人に過ぎなかった彼に道を踏み外させた、という事だな?」「まあ、そうだね。カナタには悪い事をしたと思っているよ」「そこまでして魔神を取り逃すとは……殲滅王が聞いて呆れる」テスタロッサさんは明らかに落胆したような様子だった。それだけアレンさんの事は高く評価していたのだろう。「カナタは悪くない。私が悪い」「そうでもないだろ。僕だって何にも分からないくせに禁忌の魔法に手を出しちゃったんだ。自業自得だ」アカリは庇ってくれているようだったが、僕は分からないままに魔法を使ってしまった自分が悪いと思っている。「過去の事を悔やんでも仕方あるまい。それならばその力、有用な使い方をすればいい」「ダメ、カナタには魔法は使わせない」「禁忌の魔法使いとなればいずれ四人目の王の名を手にする事が出来るかもしれんぞ?」二つ名が欲しいとは思わないな。ただこの力が元の世界の時間を戻すきっかけになるなら、迷う事無く使うと思う。「まあいい、それと世界樹だったか?そんなもの私も伝承でしか知らん」「そうかぁ、テスタロッサも分からないとなるとやっぱり神域に行かないとダメかな」「あそこは人間が簡単に立ち入れるところではない。神族と矛を交えるつもりか?」テスタロッサさんが言うには、神域と呼ばれる場所に住む神族は人間を遥かに超える力を持つそうだ。

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