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命の対価⑪

last update Last Updated: 2025-02-13 18:00:25

「それで、ハルトとゼンは死亡。剣聖は行方不明、カナタくんとアカリは無事だが何処かは分からない、ってことだね」

辺りは暗く夜となっていたが安全な場所まではまだ距離がある為、彼らは歩き続けていた。

アレンを先頭にし、殿はレイが努めている。

フェリスはアレンに事の詳細を説明していた。

「はい、残念ながらハルトとゼンは助けられませんでした……」

「仕方がない……ボクらは常に死が身近にある世界で生きてきた。この世界に数年いて平和ボケしていたのかも知れないね……」

「ですが、カナタくんは無事にあの場から逃げ出せたと思います」

「それが分かるだけでも本当に良かったよ。とにかくこれから忙しくなる。この世界に魔族が解き放たれたからね……」

アレンも今後の事を考えていたが、あの場にいたこの世界での戦力と言える軍。

それがあっという間に全滅させられた所を見ており、この世界の戦力では魔物一匹にすら苦戦するだろうことは分かり切っていた。

黄金の旅団は団員が減り、剣聖も行方不明。

戦力は大幅に落ちており、今のままでは異世界ゲートを取り返す事すらままならない。

「とりあえず、一度腰を据えて今後の事を話し合う必要があるかな」

保護した一般人もいる。

彼らを守りつつゲートも取り返さなければいけない。

カナタを見つけ、剣聖も探さなければいけない。

やる事が多すぎて何から手を付けるべきかアレンは頭を抱えていた。

――――――

「ここは?」

着いて来た一般人が不安そうに零す。

歩き続けてやっと到着した場所は、廃工場だった。

工場を囲うフェンスは錆でボロボロ、いくつかの建物は崩れかけ今にも朽ちてしまいそうだった。

「ここの地下にボクらの本当の拠点がある。あくまで宿り木は表向きの拠点だからね」

アレンとレイ以外はこの場所を知らなかったようで、少しざわめきが広がった。

「ここはボクとレイで見つけたんだ。そして最初に出会ったこの世

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    僕らはテスタロッサさんの案内で客間へと通された。ちなみにレオンハルトさんも傷だらけで戻ってきて今ではスンとしている。さっき吹き飛ばされたのが嘘みたいだ。「さあ聞かせて貰おうかアレン。八年もの間どこにいたのか、それとどうしてカナタが禁忌を犯しているのか」「何処から話そうかな――」アレンさんは今までの事を全部話した。別の世界にいた事、僕が異世界ゲートを作りだしこの世界に帰ってこれた事、何人もの犠牲者が出た事。そして僕が赤眼になってしまった事。テスタロッサさんは無言で聞き終えると、小さく溜息をつく。「要約すればお前達はただの一般人に過ぎなかった彼に道を踏み外させた、という事だな?」「まあ、そうだね。カナタには悪い事をしたと思っているよ」「そこまでして魔神を取り逃すとは……殲滅王が聞いて呆れる」テスタロッサさんは明らかに落胆したような様子だった。それだけアレンさんの事は高く評価していたのだろう。「カナタは悪くない。私が悪い」「そうでもないだろ。僕だって何にも分からないくせに禁忌の魔法に手を出しちゃったんだ。自業自得だ」アカリは庇ってくれているようだったが、僕は分からないままに魔法を使ってしまった自分が悪いと思っている。「過去の事を悔やんでも仕方あるまい。それならばその力、有用な使い方をすればいい」「ダメ、カナタには魔法は使わせない」「禁忌の魔法使いとなればいずれ四人目の王の名を手にする事が出来るかもしれんぞ?」二つ名が欲しいとは思わないな。ただこの力が元の世界の時間を戻すきっかけになるなら、迷う事無く使うと思う。「まあいい、それと世界樹だったか?そんなもの私も伝承でしか知らん」「そうかぁ、テスタロッサも分からないとなるとやっぱり神域に行かないとダメかな」「あそこは人間が簡単に立ち入れるところではない。神族と矛を交えるつもりか?」テスタロッサさんが言うには、神域と呼ばれる場所に住む神族は人間を遥かに超える力を持つそうだ。

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