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滅びゆく世界で⑤

last update Last Updated: 2025-02-18 17:00:38

「団長、アカリちゃんとカナタさん無事ですかね……?」

小さく幼い声でアレンに問い掛けたのは団員の1人、セラ・マクレーン。

アカリと同じく20歳という若さで二つ名を得た、黄金の旅団に相応しいメンバーである。

「そうだね、二人共無事だと思うよ。何しろあの神速が護衛なんだから。友達ならもっと信じてあげよう」

アレンは優しく微笑み返し、セラも頷く。

セラにとっては唯一の同い歳。

最年少の団員は他にもいるが、いつ何処へ行くにも一緒だったアカリの事が心配でならないのだろう。

不安そうな顔を見せるが、アレンが頭を撫でてあげると照れた表情を見せてすぐに怒った表情になった。

「もー!私ももう20歳なんですよ!団長は子供扱いしすぎです!」

「ははは、ごめんよ。妹みたいな存在だからねセラは」

身長も低く、礼儀も正しい。

それに可愛らしいキャラであり、団員からは可愛がられていた。

そんな彼女ももちろん黄金の旅団にいる以上は、かなり上位の能力を持つ。

絶対防御。

彼女の幼い見た目からは想像がつかない二つ名だが、力は本物だった。

彼女の防御結界は誰にも破られない。

これはアレンにも適用する。

殲滅王と呼ばれる彼ですら一度も破れたことが無いほどの防御力を誇る彼女は次第に絶対防御と呼ばれるようになった。

しかし、そんな彼女にも欠点はある。

戦闘能力が低いことだ。

防御に特化している為、攻撃手段は乏しい。

もちろん一般人相手なら簡単に勝てるだろうが、魔法を使える能力者との戦闘では勝てない程度の戦闘能力。

今回の探索メンバーに入れたのは、圧倒的な防御力を活かした支援をしてもらう為。

それにアレンは彼女がアカリの唯一の友達だと知っていたので、今回の探索に参加してもらった。

「旦那、俺も探索メンバーに入れてもらって感謝します」

そう言って横から声を掛けてくるのは、ゼンの兄貴分だったガイラ・ビクトール。

轟龍の二つ名を持つ力こそ全て、の戦い方を好む男だ。
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    アレンさんが有無を言わせず吹き飛ばされたのを見ていた僕は固まってしまった。他のみんなは視線が下を向いているお陰で今の状況をあまり理解できていないようだが、それで正解だ。意味の分からない力で吹き飛ばされたのを見ていれば、口を開くのが恐ろしくて堪らない。「さあ気を取り直して。カナタ君、世界樹を目指す理由は何かな?」「元の世界を、取り戻す為です」「取り戻す?それは比喩というわけでもなさそうだね。元の世界の話を聞かせてもらえるかな?」まさかとは思うけど僕以外はみんな片膝を突いたままなのだが、その態勢で放置するのだろうか?この状態で話を進めれば少なくとも数十分は身動きできないぞ。「あの、ここで話すんでしょうか?」僕がそう恐る恐る聞くとペトロさんはハッとしたような表情になり、申し訳なさそうな顔で謝罪してきた。「おっと、すまないね。気が利かなくて。ガブリエル、彼らを部屋の外へ」「ハッ」神族のリーダーであるガブリエルさんは吹き飛ばされてどこに行ったか分からないアレンさん以外を部屋の外へと連れて行った。アレンさんはもうどこまで吹っ飛んでいったのか見当もつかないな。「よし、これでいいかな。さあ、これでも飲んで話を聞かせてくれるかな?」僕はペトロさんと同席する事を許されテーブルに着くといつの間にか用意されていた紅茶を一口頂く。少しだけ気持ち落ち着いたな。「僕のいた世界は――」そこから一時間ほどかけて今までのあった事を丁寧に話した。ペトロはニコニコしたり悲しそうな顔をしたりと表情が豊かだった。「なるほどなるほど……それで世界樹に願いを叶えて貰って元の平和な時を取り戻したいという事だね」「はい。……時間を戻すなんて願いは難しいのでしょうか?」「いや、そうではないさ。この世界に干渉する願いでなければ恐らく誰も文句は言わないと思うよ。ただ……世界樹へのアクセスは過半数の使徒の許可がいる。まあ私は許可し

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    巨大な扉が数秒かけて開かれる。使徒様とはどんな見た目をしているんだろうか。部屋の中はどんな風になっているんだろうか。出会った瞬間バトルにならないだろうか。色んな不安が押し寄せてくる。緊張しながら一歩部屋の中に入ると、そこは部屋ではなかった。いや、正確には部屋の中だ。ただのどかな草原が広がっていて、その真ん中にポツンと椅子とテーブルが置かれてある。そこで優雅にティーカップで何かを飲んでいる白い服の男性がいた。「ペトロ様、少々変わった人間を連れて参りました」神族のリーダーが膝をつき、頭を垂れる。それと同じくして他の神族も膝をつくのかと思って周りに視線を向けてみるとそこには誰もいなかった。神族のリーダー以外部屋の中に入っていなかったようだ。これは僕らも膝をつくのが正解かと思い、しゃがむとアレンさん達も同じように膝をついた。流石にここは空気を読んでくれたらしい。ペトロと呼ばれた使徒が立ち上がるとゆっくりとこちらを向くのが気配で分かった。下を向いていても使徒から放たれ圧は凄まじいものだった。何もしていないのに流れ落ちる汗が物語っている。「君の事かな?」誰に話しかけているのか分からないが、多分僕に話しかけている。というのも声が僕の頭上から降りかかってきているからだ。ここは頭を上げていいタイミングなのか?どういう動きをすればいいのか、何が無礼に当たるのか分からず僕が黙っていると、再び頭上から声がかかる。「えーっと、君は……カナタというのかな?」何も言っていないのに名前を当てられた。使徒ってのは心でも読むのだろうか。いや、とにかく返事をした方がいいのかもしれない。「は、はい」顔を上げて言葉を返すと、頭上で見下ろしている使徒と目が合った。ニコッと微笑むと、手を差し出してきた。これは手を取れという合図だろうか。

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