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◇槇村笙子の心情 …… 片思い 70

Penulis: 設樂理沙
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-15 12:28:51

70

 登録している派遣会社からここ建築関係の企業に派遣されてきた29才という

中途半端な年齢の槇村笙子《まきむらしょうこ》が、どのような経緯でここに

流れ着いたのか。

大学の単位不足が原因で留年してしまい、上手く就活に乗れず、

派遣社員として働いてきた。

 これまで正規雇用の仕事も何度か面接にトライしてきたものの、

採用までには至らず。

 三居建設(株)に入社する前の勤務先は居心地がよくて7年勤めた。

 そちらは周りの男性たちがほとんど既婚者ばかりで出会いもなく

結婚の予定もないという状況で、あと1年もすれば30の大台に乗りそうな

勢いに焦りを持ち始めた頃、ちょうどよかったと言うべきかなんと言うべきか、

親切でやさしくしてくれた上司が異動になってしまい、新しい上司がやってきた。

 そしてその上司とあとひとり、隣の課である工営二課の臨時社員のおばさまが

自分のいる工営一課に異動になった。

 自分はその新しい上司とは何気に反りが合わず冷たくされ、また二回りは離れ

ていそうな臨時社員おばさま、森悦子女子とは別々の課だった時には良好な関係

だったのだが同じ課になった途端、自分に冷たい態度をとるようになり、そのよ

うな状況の中彼女は新しく異動で来たその上司とすぐに懇意になった……いや、

取り入ったというべきか!

 自分はそれまで課に1人しかいない女性ということで周囲から甘やかされていた

のだけれど、それは異動でいなくなった上司が可愛がってくれていたからなんだ

とあとから思い知った。

 新しくきた上司が自分に冷たいとそれまでやさしかった周囲が同じようによ

そよそしくなっていくのが手にとるように分かったからだ。

 だって、自分は皆に何もしてない、今まで通り。

 ただ上司に可愛がられなくなっただけ。

 人間不信に陥りそうだった。

 それですっぱりとその住宅サービス(株)を辞めることにした。

 するとすぐに派遣会社から三居建設(株)を紹介され

『こちらの会社は将来正規雇用の道もあるので槇原さんどうでしょうか、

いいと思いますよ』

と勧められたのをきっかけにこちらに転職したのだった。
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    96  身体がびくともしないところを見るに爆睡している模様。 良かった、グッと少しの間だけでも芯から寝ると回復も 早まるというもの。 さっ、凛ちゃんと絵本を楽しみながら凛ちゃんママを待つことに しようっと。  仕事と家庭の両立をこなす凛ちゃんママはすごいな、なんて思いながら 待つこと小一時間。  しかぁ~し、凛ちゃんママがお迎えに来ることはなかった。 20時を少し過ぎて、男性社員が凛ちゃんを迎えに来た。  てっきりママさんが来るものと思っていた私は少し混乱した。 私は凛ちゃんのパパの顔を知らない。  万が一、保護者を語る偽者だった場合大変な事態になると考えた私は すぐには凛ちゃんを渡さなかった。  凛ちゃんをすぐに抱きかかえ 「あの、少しお待ちいただけますか」 と一言告げ、芦田さんの元へと向かった。  凛ちゃんが何やら『あーぁ、ばぁ~』などと声を出していたが、 とにかく確認しなくちゃならない私はひたすら焦っていた。「すみません芦田さん、凛ちゃんのお迎えはお父さんで間違いない でしょうか?」「ごめんなさい、うっかり伝言するの忘れてたわ。  相原さんの娘さんなのよ。  私が行きましょうね、掛居さんのお蔭でだいぶ身体もシャンとてきた みたい」  芦田さんはそう言うと立ち上がり私から凛ちゃんを受け取って 凛ちゃんの父親の元へ向かった。 芦田さんが父親に渡すと凛ちゃんが嬉しそうに抱かれるのが見えた。 偽者じゃなくて良かったぁ~。 私はその後駆けつけて、背中を見せて歩き出したその男性《ひと》に 「失礼して申し訳ありませんでした」 と声を掛けた。 その男性《ひと》は振り返ることなく左手を上げて横に振って応えた。 私は頭を下げた。「掛居さんは用心深くて関心したわ。保育士合格ぅ~」「いえ、良かったでしょうか?  凛ちゃんパパがお気を悪くされてないといいのですが……」 「掛居さんみたいな若くて可愛い女性《ひと》に娘をちゃんと守って もらえて、きっと気を悪くというのはないと思うわ。 それに今度話す機会があればちゃんと私のフォロー不足の所以だと 説明しておくので心配しないでね」 「はい」

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇あなどれない1才児 95

    95 相馬は日々案件があり多忙を極めているのだが、花自体はようよう諸々の事務作業が一段落ついたところでもあり、久しぶりに定時で帰ることができそうで心は少しウキウキランラン。 花は声を掛けた相馬から『お疲れぇ~』と返され、所属している部署フロアーを出てエレベーターへと向かう。 自社ビルの1階に降り立ち出入り口に向かうも、昼食時には立ち寄れなかったチビっ子の顔でも見てから帰ろうと保育所に向かった。 チビっ子たちは3人わちゃわちゃしながら親を待っていた。 その側で疲れ気味な芦田が無表情な佇まいでぼーっと座っている。 そして、花を視界に入れるとほっとしたような困ったような複雑な表情を醸し出した。「芦田さん、どうかされました?」「昼間はぜんぜん大丈夫だったのに、夜間保育に入ってから体調がすぐれなくて……」「辛そうですね。私仕事終わりなので少し子供たちみてましょうか? その間少し横になられてたらどうでしょう」「ありがとう、そう言っていただけると助かるわぁ~。厚かましいですけどすみません、ちょっと横にならせてもらいますね。 あと1時間もするとまみちゃんとななちゃんのママたちのお迎えがあるのでもし起きられなければ子供たちの引き渡しお願いしてもいいかしら」「分かりました。大丈夫ですよ。 ただ子供たちをママたちにお渡しするだけで他に申し渡しておく伝言などは特にないのでしょうか?」「今回はないわね」「はい、OKです。ささっ、横になっててください」「助かります。じゃぁ宜しくお願いします」 3才4才のお喋りな子供たちと積み木をして待っているとほどなくしてまみちゃんとななちゃんのママたちが迎えに来て、私は彼女たちを見送った。 残ったのは1才児のかわゆい凛ちゃんだった。 え~っと、この子のママはもう1時間後になるんだ。「凛ちゃん何して遊ぼうか……」 凛ちゃんが私の膝の上にちょこんと座った。 私はお腹に腕を回して膝を上下に揺らして振動を繰り返し、凛ちゃんをあやした。 遊び相手もみんな居なくなって寂しいよねー。「絵本読む? 読むんだったら絵本を花ちゃんに持ってきて~」 私がそう言うと、膝から立ち上がり……なんと、絵本を持って来たよ。 あなどれんな1才児。 ……感動した。 また私の膝にちょこんと腰かけた凛ちゃんを前に

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇保育所完備 94

    94 社員が残業で迎えが遅くなる時は夜間保育もあるのだとか。 すごい、社内に保育所完備だなんて。 結婚して子供ができてからも働き易い職場、最高~!  あんなことがあるまで勤めた前の職場は大企業ではありなから保育所はなかった。 今度おじいちゃんに提案しとかなきゃだわ。 保育所の存在を知ってから花は俄然小さな子たちに興味が沸き、親しくなりたての遠野や小暮を伴って時々食事を終えた後、子供たちの顔を見に行くようになった。 しかし、小説のことでプロットだのキャラ設定だのといろいろ考えることの多い遠野とデザインのアイディアを捻り出すことにエネルギーを注ぎたい小暮たち二人は食事が終わると机に向かうことが多くなり、頻繁に子供たちの顔を見に訪れるのは花だけになってしまった。 それで知らず知らず保育士たちとも親しい関係になり、子供たちにも懐かれるようになっていった。            ◇ ◇ ◇ ◇ 自分たちはこの先決して恋愛感情を持たず恋愛関係には決してならない、という互いの強い志に基づき、ビジネスライクに接し仕事に邁進していこう、ぶっちゃけそのような内容を相馬と花は業務の合間に真摯にというか大真面目に話あった。 ただしそれは、本人たち限定の話であってそんなブースでの2人の話し合いを横目に周囲はふたりのお熱い語らいとして捉えていた。 着任してひと月にも満たないにも係わらず、今まで相馬付きになった誰よりも最短で二人きりでブースに入ったのだから致し方のないことではある。 どうやら前任者たちは相馬に振られて辞めたのではなかったか、という疑念を周囲の夫々《それぞれ》が胸に持っているため、あらあら、掛居花はいつまで仕事が続くのだろうか? と心配している者もいた。 しかしながらそんな周囲の心配をよそに、話し合いをしてすっきりした相馬と花は元気よく日々仕事に邁進するのだった。 お互い異性として結婚相手にはならないことを確認し合っているため、そのことで相手に対する探り合いなどせずともよい関係だから、肩ひじ張らず フラットな関係で付き合えるというなんとも居心地の良い状況に互いが至極満足していた。 そんな2人の距離が急速に縮まっていったのは言わずもがなというものである。

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