「夏目さん、慎重に確認した結果、あなたの住民票には不備があります。印章が偽造されています」職員の淡々とした一言に、再発行の手続きをしに来ていた遥は呆然とした。「そんなはずはありません。私は夫の類と五年前にちゃんと婚姻届を出しました。もう一度、調べていただけませんか......」職員は再度、住民票の情報を検索した。「システム上では、片平類(かたひら るい)さんは『既婚』と表示されていますが、夏目さんは『未婚』とされています」夏目遥(なつめ はるか)は声を震わせて尋ねた。「彼の法律上の妻は誰ですか?」「高宮里帆(たかみ やりほ)さんです」遥は椅子の背もたれを必死に掴み、なんとか立っていられた。手渡された紙、「未婚」の二文字が目に刺さるように痛かった。最初はシステムのミスかと疑っていた。しかし「高宮里帆」という名前を聞いた瞬間、その希望は一瞬にして打ち砕かれた。五年前の盛大な結婚式、五年間仲睦まじく過ごしてきた模範的な夫婦関係。彼女が誇りに思っていたそのすべてが、虚構だった。法的効力のない偽の書類を握りしめ、遥は打ちひしがれたまま帰宅した。ちょうど扉を開けようとしたその時、中から声が聞こえてきた。片平家の顧問弁護士の声だった。「片平社長、もう五年ですよ。そろそろ奥様に法律上の地位を与えてはいかがですか?」遥は動きを止め、息をひそめた。しばらくして、類の低く落ち着いた声が響いた。「もう少し待ってくれ。里帆はまだ海外で頑張っている。片平奥様の肩書きがあれば、ビジネス界で足場を築ける」弁護士は静かに忠告した。「ですが、社長と奥様は婚姻届を提出していない。もし彼女が心変わりすれば、いつでも離れることができます」類は視線を落とし、少し考えてから口を開いた。「里帆は俺に娘を授けてくれた。だから俺は彼女を全力で守るつもりだ」「遥のことなら心配いらない。あいつは俺を深く愛しているし、俺のために夏目家とも絶縁した。もう後戻りできないんだ」八月の夏に、遥の心は氷の底に沈んだように冷え切っていた。かつて、彼と結婚するために親と絶縁してまで選んだ道。それすら類の計算の内だったなんて。過去の小さな疑念が、すべて今、はっきりと答えを持って蘇る。これまで慈善活動に関心を示さなかった片
Read more