身体が目的ならば、ここで顔色が変わるはずだけれど、戸羽さんは笑顔を曇らせることなく、「楽しみだな」と返事をした。 ガツガツしたところを見せない戸羽さんのようなタイプの人には、素直に好感が持てる。 何時にどこで待ち合わせをするか決めようと思った矢先に、戸羽さんのスマホが着信を告げた。 「ちょっとごめん」と断ると、戸羽さんはその場で電話に出たのだけど、ものの数秒で通話を終わらせ、あわてたように椅子から立ち上がった。「咲羅ちゃん、ごめん。病院から呼び出しが来たから行かなきゃ。急患なんだ」 お医者様はこういうケースがあるから大変だ。 戸羽さんが頼んだウイスキーは、ほんの少し口を付けた程度だから、中身はほとんど残ったままなのに。 だけど今から診察をするのなら、お酒をたくさん飲んでしまう前で良かったと思う。「また連絡するから」 「わかりました」 戸羽さんがあわただしく店を出て行くと、途端に静寂に包まれた。 だけど元々今日はひとりで飲みに来たのだから、これで普通なのだ。「……土曜、行くの?」 しばらくしてから、マスターが心配そうに声をかけてきた。「行きますよ。向こうから連絡があれば、の話ですけど」 戸羽さんがまた連絡すると言っていても、もしなかったとしたら、土曜日の話は自然と流れるのだろう。 申し訳ないけれど、私にとって戸羽さんは絶対にまた逢いたい相手ではないから、私からわざわざ連絡はしない。「さっきの感じだと、連絡はあるはずだよ」 「そうですかね?」 「そうだよ。それに……昼間のデートでも、立派な狼に変身されるかもよ?」 マスターが意味ありげな顔で悪戯に微笑んだ。油断禁物だと言いたいのだろう。「いやいや、ないでしょ。戸羽さんは見るからに、草ばっかり食べてる草食系な感じがしませんでした?」 「は? まったくしなかった! 咲羅ちゃんは男をわかってないな」 あきれた溜め息と共に、マスターはダメだとばかりにフルフルと首を小刻みに振っている。 マスターの言う通りで、わかってないから私は今まで失敗続きだったのだ。 私に男運がなく、自信を持って恋愛だと呼べるものから遠ざかっているのは、そこに原因があるように思う。「大丈夫ですよ。この前の暴力男みたいな失敗はしません」 本城みたいな男との修羅場は二度とご免だと、それだけは
Terakhir Diperbarui : 2025-04-11 Baca selengkapnya