Semua Bab 一通の手紙から始まる花嫁物語。: Bab 1 - Bab 10

29 Bab

1話-1 一通の手紙。

* * *「この度はご婚約の手紙をありがとうございます」大広間で頭を下げ跪いたまま、続けて、フェリシア・フローレンスにございます、と名乗ろうとした。けれど、名乗らせてはもらえず。「こちらを見ろ」命じられ、フェリシアは頭を上げる。しかし、ショートベールのせいで、椅子に座っているのが分かる程度で、薄らとしか、婚約の相手の顔が見れない。「顔を出せ」言われた通り、ショートベールを恐る恐る上げて後ろにめくる。婚約の相手は、魔除けの耳飾りにネックレスに、軍服を着た月のように美しい銀の長髪の、絶世の冷酷な美青年だった。「晩飯を作れ」「そして」「これからは私の事をご主人さまと呼べ」「かしこまりました」フェリシアは、ただただ一礼をする。一通の婚約の手紙が届いた先に待っていたのは、愛のない主従関係の婚約。けれど、尽そう。例え、一生、幸せは訪れないのだとしても。* * *パリーンッ!ブローチが嫌な音を立てて割れる。手狭な居間に座るフェリシアは編み紐により両手を後ろで縛られ抵抗できず、伯母にブローチを床に勢いよくぶつけて割られるのをただ目の前で見つめることしか出来なかった。フェリシアは床の割れて欠けた鮮やかなブルーのブローチを見て涙を流す。(両親の形見であるブローチ、守れなかった)「あなたみたいな出来損ないを外に出すだけで恥ずかしいっていうのに」「こんな収入しか稼げないだなんて!」「申し訳ありません」激怒する伯母にフェリシアは頭を下げ、謝ることしか出来なかった。此処(ここ)、異世界に存在するアルカディア皇国では魔を祓う力を持つ者が権力と地位を得て、国を魔から守っている。そして、最高地位の皇帝の座は前皇帝が魔に殺されて亡くなったため、現皇帝が若い年齢で継いでおり、アルカディア皇国に勤めが決まった者は命の危険に晒される時があるものの将来安泰。人々の憧れの皇国である。そんな皇国とは無縁の、小さな古びたボロ家に住むフェリシアは、今年で18歳。両親を3歳の時に魔に殺されて亡くし、父には身寄りがなかった為、母の姉にあたる伯母、ローゼ・フローレンスに引き取られ、2人で暮らしている。だが、伯母はロクでもない男と遊び歩き、働かない為、下級料理番としてお屋敷に雇われたフェリシアの収入だけが頼りで、貧乏な暮らしとなっている。それゆえ、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-21
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1話-2 一通の手紙。

* * *ある日の夜のこと。フェリシアはあるお屋敷の台所で下級料理番として仕事をこなしていた。ピンクがかった長い黒髪は邪魔になるのでくくり、頭巾を付け、汚れたドレスを隠すよう、エプロンを腰に巻いている。料理を作る台所は天井が高く、煙を逃がす窓があり、壁に調理器具がかけられ、茶色の長机にはお皿に盛り付けられた色んな種類の豪華な料理が並べられている。そしてこの場にはシェフ、上級料理番が3人おり、下級料理番はフェリシアを含めて6人いて、忙しそうに働いている。その中でもフェリシアは長年務めていることにより、下級でも特別に一品だけ料理を任されていた。けれど、どの料理も綺麗な盛り付けで、下級の自分にはとても同じようには出来ない。それでも出来る限り、完成したビーフシチューをお皿に綺麗に盛り付け、そのお皿に白く美しい花を添える。(よし、今日もなんとか綺麗に出来たわ)そう、安堵すると、料理運びである着飾った女主人のイラついた罵声が飛んでくる。「何やってんだい、早くこっちの机に置きな」「お出しする前にビーフシチューが冷めちまうだろう」「はい、申し訳ありません」フェリシアは料理台から茶色の長机に完成したビーフシチューのお皿を置く。すると、女主人はブツブツ嫌味を言いながらもお盆にそのお皿を乗せ、他の豪華な料理と一緒に運び、台所から出ていく。そんな中、開いた扉から貴婦人達の声が聞こえてくる。「ねぇ、お聞きになりまして?」「エルバート様が花嫁を探していて、選ばれた家にはエルバート様の直筆の婚約の手紙が届くそうよ」「エルバート様って、今年で21歳になられるルークス・アルカディア皇帝に仕え、公爵家のお家柄で魔討伐の軍の中でも絶対的権力を持つ軍師長である、あの、エルバート・ブラン様!?」「えぇ、でもエルバート様は冷酷で愛のない人らしく、よほど気に入られない限り、すぐに婚約を破棄されるだろうとのご噂よ」「そんなご噂が。呪いの手紙なんて来て欲しくないわ」貴婦人達がそう零(こぼ)すのを聞いたフェリシアは、ふぅ、と息を吐く。(わたしには全く関係のない噂ね)* * *「ローゼ伯母さま、只今、戻りました」仕事を終えたフェリシアは、ボロ家の居間に座る伯母の後ろで跪き、いつも通り報告する。(今日も帰ってくるのが深夜になってしまった……。きっと罵声を飛ばされ
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1話-3 一通の手紙。

* * *翌日、フェリシアが乗った高級な馬車が揺れ動く。行き先はエルバートのところ。「可哀想に」周りから 憐(あわ)れみの言葉を投げかけられた。すぐに婚約を破棄され、捨てられると思っているのだろう。フェリシアはショートベールで顔を隠し、ドレスを着た姿が馬車の内窓に薄らと映り、それをただじっと見つめる。ショートベールはミサの為に持っていたもの。そしてこの透き通った美しいドレスは母が生前に自分の為に用意してくれていたものだと昨日、頭を下げた後に伯母から手渡された。母の想いにボロ部屋で一人、ドレスを眺め、号泣しそうになったけれど、嫁ぐというのに泣き顔を作ってはならないと、ぐっと堪え、そのまま一睡もできず、今もなお、涙を堪える。そして、両親が生きている時のことは朧(おぼろ)げだけれど、両親は愛のある結婚をし、自分は愛されていたのだという実感は今も残っている。だから、救いのない日々を送ってきた自分も、日々、働き、家事に本を読んで勉強をこなし、懸命に生きてさえいれば、いつかは死んだ両親のように、シンデレラのように愛のある王子様と結ばれ、幸せに暮らせるようになるのだと自分に言い聞かせてきた。けれど、そんな夢物語なような期待は簡単に崩れた。待ち受けていたのは、“好きでもない人のところへ売られるかのごとく嫁ぐ”という絶望の現実だった。手紙によると、エルバートは今年で22歳。自分より4歳年上だという。絶対的権力を持つ軍師長、エルバートが何故、力を持たず、貧乏な生活を送る自分に縁談話を持ちかけてきたのか分からないが、勤めを全うするしかない。どんなに嫌な顔をされようとも。* * *しばらくして馬車は森を抜け、アルカディア皇国近くのエルバートの家、ブラン公爵邸に横づけして止まった。肩上くらいの長さの髪をした御者の青年に手を引かれ、フェリシアは馬車から降りる。自分を迎えに来た際、エルバートの側近のディアム・アーラだと名乗っていたことを思い出しつつ、前を見ると、ブラン公爵邸は大きな洋風の館だった。下級料理番として雇われていたお屋敷よりもはるかに大きく、小さな古びた家で暮らしてきたこともあり圧倒され、場違いすぎて恥ずかしくもなった。間もなくして、屋敷の扉が開き、一つ結びをした壮年の案内役が出てくる。「フェリシア様、お待ちしてお
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2話-1 晩ご飯の味。

お互いの顔がはっきりと見えると、エルバートは冷酷な表情を崩さず、口を開く。「晩飯を作れ」「まず今日はビーフシチューだ」「そして」「これからは私の事をご主人さまと呼べ」「かしこまりました」フェリシアは、命令を受け入れ、ただただ一礼をする。エルバートに尽すことを心に強く誓いながら。「では、時間が来るまでゆっくり休め」エルバートにそう冷たく言われたフェリシアは、すぐさま、案内人に部屋へと案内される。そして、初めて見る、自分には勿体ないほどの上等な部屋。一人きりになったフェリシアは持ってきていた両親の割れた形見のブローチをぎゅっと胸に抱き、落胆する。最初から分かっていたことだったけれど。(ここでもわたしは奴隷扱いなのね……)* * *その夜、食事室の椅子に座るエルバートに晩ご飯のビーフチューをお出しする。ブラン公爵邸の台所は、もはや厨房で、雇われていたお屋敷の台所とは比べられないほど広く綺麗で、エルバート以外の料理を任されている自分より2歳年上の、肩までの髪をくくったメイド、リリーシャ・ペルレと共に、このような場で、ビーフシチューを作っていいものかと身が竦(すく)んだ。けれど、白く美しい花は持って来られず、添えることは出来なかったもののなんとか、完成させ、お出ししたが、下級料理番が作ったビーフシチューなど口に合うとはとても思えない。「座れ」「はい、失礼致します」フェリシアは座らせて頂けることに驚きつつも、空のお盆を持ったまま、向かいの椅子に座る。そして、ぴりりと冷ややかな空気が流れる中、エルバートはビーフシチューをスプーンですくい、口にした。――ああ。尽そうと決めたばかりだというのに。(もうご婚約を破棄され、捨てられてしまう!)「――――この味だ」エルバートの言葉にフェリシアは両目を見開く。(この、味?)「あ、の?」「やはりあの屋敷のビーフシチューを作っていたのはお前で合っていたのだな」「え、わたしが雇われていた屋敷に、通われて?」「あぁ、その屋敷では軍の会議が常に行われており、その度に私は料理を食べていた」「そして館には男性の料理人を雇い、女性の料理人も試したが、どれも口に合わず、軍師長の仕事のモチベーションも下がっていたのだが」「お前の料理に興味を持った」「そして、お前が出す全ての料理
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-21
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2話-2 晩ご飯の味。

「特にビーフシチューは興味を持つキッカケとなった料理で、最近また口にしたばかりだからすぐに同じ味だと分かった」「そう、だったのですね」フェリシアは涙を右手で拭いながら返す。「あぁ。だが、婚約の手紙を届け、お前を花嫁候補にした理由はもう一つある」「え、もう一つ……?」聞き返すと、エルバートは真剣な眼差しを向ける。「調べた結果、お前の両親が魔を祓う力を持つ者だったからだ」「え、そんなはずは」フェリシアが動揺するも、エルバートは話を続ける。「料理の皿にいつも添えていた花が、魔を祓う効果のある花だった」「その花を知っているということは力を持った家系かもしれないと思ったから調べた」「自分の花嫁候補にする者が力があるかどうかは私に取っては大きく、いくら食事が自分にあっていても、力がない者は花嫁候補にはしない」「今までも自分の近くに置く者はすべて力があるか、どのような家系であるかは調べている」フェリシアはそれを聞いて驚く。母に花を添えるといいと教えられていたことをぼんやりと覚えていて、実行していたけれど、まさか、花に魔を祓う効果があっただなんて。それだけではなく、伯母に嘘をつかれていた?伯母なら嘘をついてもおかしくない。「ともかく、毎日、美味い飯を作ってくれ」「はい」命じられたフェリシアがそう短く答えると、エルバートは更に付け加える。「そして、明日の晩はお前もここで食べろ」「はい…………え?」フェリシアは唖然とする。伯母と食事をする時はいつも伯母に罵倒されながら食べ終わるのを見守り、その後は食事を抜きにされるか、一人で食べたりしていた。だから、エルバートのような雲の上のような人が、自分と食べるなどという発想が全くなかったのだ。「いいな?」「は、はい」念を強く押され、フェリシアは肯定するほかなかった。(力のためにと打算的な人柄かと思ったけれど、真実を教えてくれただけで優しい人なのかもしれない)* * *翌日の朝になり、フェリシアは玄関でエルバートをお見送りする。フェリシアが作った朝ご飯、エッグベネディクトを早く済ませて勤めに出ることを寝る前に聞いており、朝はゆっくりできないから晩に一緒に食べることにしたのだと納得した。けれど、今日のエルバートは勲章がたくさん付いた高貴な軍服を着て、髪をなぜか麻紐で一つにくくり
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-30
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3話-1 呼び出しと特別な晩ご飯。

* * *しばらくして、エルバートはディアムを後ろに従えて宮殿入りをする。アルカディア皇国の宮殿内は豪華絢爛(そうらん)。しかし、この銀の髪のせいで普段から一際目立ち、使用人達の注目の的にされている。そして今日は覚悟はしていたが、案の定、声を掛けられた。「エルバート、花嫁候補のこと、宮殿内で噂になってるぞ」「ついに女に胃袋を掴まれたか」この優しそうな青年はアベル・ノーチェ。自分とは同期で仲が知れている。「うるさい、わざわざ言いに来るな」冷たい口調で返すと、もう一人、明るく元気な青年に声を掛けられる。「あー、だから軍師長、今日、髪くくって、いつもと雰囲気が違うんですねー」この青年はカイ・アステル。一つ年下で、優秀な部下ではあるが、こんな調子でいつも自分をからかう。周りからは仲が良いふうに見えているみたいだが、断じてそうではない。断じて。「今日はルークス皇帝に呼ばれているからこの髪型にしているんだ」「はは、知ってますよー。きっと呼び出しも花嫁候補のことですよ」「たっぷり、ルークス皇帝にも冷やかされてきて下さいね」にっこり笑うカイに苛立つも堪え、では行く、と告げて、ディアムを後ろに連れ、皇帝の間に向かう。皇帝の間に繋がる廊下は、天井の煌びやかなシャンデリアと窓がそれぞれ続いており、進む度、美しさが増していく。そして皇帝の間の前でエルバートとディアムは立ち止まる。「ルークス皇帝、エルバート様がご到着されました」扉番の一人が声を上げると、ルークス皇帝の許可が出て、扉が開かれ、エルバートのみ中に入った。* * *皇帝の間は神聖な領域に等しく、まるで別空間に入ったかのような感覚に陥る。エルバートは床に敷かれた長いレッドカーペットの上を歩き、ルークス皇帝へと近づいていく。すると、間もなくして、玉座の後ろにある大きな2つの窓から神々しい光が差し込み、その光が、壇上にある玉座の上に設置された天蓋をなぞるように美しく流れ、その玉座につくルークス皇帝の姿が鮮明になった。美しい紫髪に、優しく穏やかな雰囲気の、自分より一つ年下の青年。そんなルークス皇帝を前に見据え、エルバートは跪く。「ルークス皇帝、今日はお呼び出し頂き、誠に有り難く思います」「エルバートよ、肩苦しい挨拶は良い」「それでご用件はなんでしょうか?」「今日、呼
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-31
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3話-2 呼び出しと特別な晩ご飯。

ルークス皇帝に冷やかされ、エルバートの機嫌が悪くなる。カイに言われる前から自分も花嫁候補のことで冷やかされる予感はあったが、ルークス皇帝にまで直接冷やかしを受けることになるとは。ただただ恥ずかしく、腹立たしい。「冷やかしてすまない」「まぁ、機嫌を直せ。めでたきことなのだからな」「お前とこのような話が出来て、嬉しく思うぞ」ルークス皇帝は心内を伝えると、真剣な眼差しを向ける。「それに、身分の低い女を傍に置いたのはお前のことだ、ただ胃袋を掴まれただけはないのだろう?」「はい、魔を祓う力を持つ者の家系の女にございます」エルバートがそう答えると、ルークス皇帝は納得する。「そうか。先が楽しみであるな」* * *ルークス皇帝に呼ばれた後、エルバートは中庭で軍師長として軍の指導を行った。しかし、ルークス皇帝から冷やかしを受けた影響でいつも以上に厳しい指導となり、顔が整った同期でライバルの青年、シルヴィオ・ルフレにも、さすが女に胃袋を掴まれた奴は違うな、と嫌味を込めた冷やかしを受け、午後からは執務室で時にため息を付きながらも山積みの書類に全て目を通し、 気付ければ夜になっていた。「エルバート様、お疲れ様です。いつもの紅茶をご用意致しました」エルバートは椅子に座ったまま、ディアムが持つおぼんから紅茶を受け取ると、紅茶を飲み、一息つく。そしてディアムの紅茶の片づけの間、エルバートは書類を整え、執務室の窓から外を見つめる。思っていたより、だいぶ、時間が押してしまったな。今日はルークス皇帝からの呼び出しもあって、いつも以上に疲れた、はずなのだが、この後、フェリシアとの晩飯が待っていると思うだけで、疲れは感じず、心すら弾んでしまっている。(軍師長の立場である私が、こんな調子では皆に冷やかされたのも無理はないな)やがてディアムが執務室に戻ってくると、エルバートはディアムを後ろに連れ、執務室、しばらくして宮殿を出て、宮殿近くの馬留め場を管理している兵達の元まで歩いていく。そして、兵達に軍師長、ディアム殿、お疲れ様です、と挨拶され、高貴な2頭の馬を囲いの扉から出してもらい、エルバートとディアムはそれぞれ馬に乗り、ブラン公爵邸に向かった。しかし、その途中でディアムが強張った顔をし、後ろからエルバートに呼びかける。「エルバート様」「あぁ、分か
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-01
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3話-3 呼び出しと特別な晩ご飯。

エルバートは瞬時に振り返り、月が夜空に光輝く中、剣を抜き――――、ずばっ!魔を剣で真っ二つに美しく斬った。すると、魔は浄化され、光と共に消えた。――終わったか。エルバートは鞘に剣をカチッと入れる。それにしても、今日は特別に麻紐で髪をくくり、魔除けの効果は上がっているし、魔が自分をつけ狙うなどあり得ないはずだが。だとすると、自分を乗っ取り、帰る目的であったとするならば、魔の狙いはフェリシアか?調べた結果では“フェリシアには魔を祓う力はない”と出ているが。(まぁ、なんにせよ、浄化は終わった。早く帰るとしよう)* * *「ご、ご主人さま、おかえりなさいませ」しばらくして、フェリシアは玄関で跪き、頭を下げる。「あぁ、ただいま帰った」「それから立て。もう跪くな」「か、かしこまりました」フェリシアは立ち上がると、エルバートの髪を一つにくくった麻紐が緩くなっていることに気づく。「あの、ご主人さま、何かあったのですか?」「その、お帰りが遅かったので…………」フェリシアはそう言って、ハッとする。(帰りが遅いだなんて、勤めを終えて帰られたご主人さまになんて失礼な事を!)「も、申し訳ありません!」「いや、私の方こそ、晩飯のことを命じたにも関わらず、遅くなってすまない」「帰り際に魔に襲われてな」「え、魔に!? お体は大丈夫ですか!?」「あぁ、たいした魔ではなかったからな」「とにかく、着替えてくる。晩飯の準備をしておいてくれ」「かしこまりました」その後、食事室でスープや副菜、パンが並ぶ中、メインであるフォアグラムースのクロケットを顔を見合せて食べる。エルバートの髪は下ろされ、軍服は昨日出会った日のものに着替えをしてきたのだろう。髪が下ろされただけで、安堵感があるのと同時に、初めてのエルバートとの晩ご飯に緊張してしまう。「どうした? 手が止まっているぞ」「いつも一人で食べていたもので……」「それにわたしのような者がご主人さまと晩ご飯を共にするなど恐れ多くて……」「そうか」「花嫁候補は過去に何人かいたことはあったが」「私もここで共に晩飯をするのは初めてだ」(ご主人さまも、初めて、だなんて)「朝も美味かったが、この晩飯は特別に美味いな」(あ、ご主人さま、初めて、微笑んでくれた…………)自分も微笑み返したかっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-02
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4話-1 魔を祓う力。

* * *伯母が優しく手を握ってくれた時、自分は夢を見ているのだと気づいた。この時は4歳で、お互いに普段とは違う綺麗な格好をし、伯母が初めて自分の手を握り、そのまま手を引いて歩いてくれて、ボロ家の近くにあるゴシック様式の美しい教会まで連れて行かれた。「ローゼおばさま、ここがトクベツな教会?」教会の前でフェリシアは見上げて尋ねる。「えぇ、そうよ」「魔を祓う力があるかどうかの儀式を行う特別な教会よ」――魔を祓う力? 儀式?「司祭様、ローゼ・フローレンスです。只今、フェリシア・フローレンスを連れて参りましたわ」伯母がそう言うと、教会の扉が開き、優しそうな司祭が出てきた。「この子がフェリシア・フローレンスですね。では中へお入り下さい」言われた通り、中に入る。けれど、すぐさま、伯母と引き離され――、抵抗する間もなく、ショートベールを被り、純白な格好をさせられて、言われるがまま、祭壇の前に跪く。「ではこれより、魔を祓う力があるかどうかの儀式を始めます」「さあ、目の前の神に祈りを捧げよ」司祭の言葉の後、伯母が席で見守る中、祈りを捧げ、儀式が始まった。司祭によると、魔を祓う力があれば、光が見えたり、何か聞こえたり見えたりするという。しかしながら、何も変化は起こらず、結果、フェリシアには魔を祓う力がないことが分かった。そして、伯母が優しく接してくれたのも、手を握ってくれたのもこれきりだった。魔を祓う力さえあればきっと、伯母に奴隷として扱われず、愛され、幸せに暮らせていただろう。自分は神に見放された“いらない子”なのだ。* * *「――――はっ」深夜、フェリシアはベットの上で目覚めた。嫌な夢を見たせいか、両目からは涙が流れ、首元も
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-03
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4話-2 魔を祓う力。

「やはり、何かあったのだな」「なぜ、ここまできた?」もう、話すしかない。「嫌な夢を見て、気分転換に夜風にでも当たってこようと思って…………」「嫌な夢、とは?」「4歳の時にローゼ伯母さまに教会まで連れて行かれ、魔を祓う力があるかどうかの儀式を行った夢です」「ご主人さま、わたしは両親のことをよく知りません」「なので、両親について詳しく教えて下さいませんか?」真剣な眼差しで尋ねると、エルバートは、分かった、と言って話し始める。「お前の父、ロイス・オズモンドと」「お前の母、ラン・オズモンドには魔を祓う力があり、オズモンド家は代々、その力を引き継いでおり、特にお前の両親は力が強く、金持ちだった」「この国では、力がある家系は国から保護され、皆、金持ちだ」「しかし、お前が3歳の時に両親が前皇帝と同じ魔に殺され、亡くなった。それを良いことにローゼはお前を引き取った時、かなりの遺産も手に入れている」「よって、ローゼはお前にその事を知られたくない為、家系や力の事を隠していた」「もちろん、お前に力があれば、もっと金がもらえたので期待したが」「お前に力がない事が分かり、落胆したそうだ」(ローゼ伯母さまは、やはり嘘をついていたのね)両親の力のことを知っていた。それゆえ、力がないことが分かり、つらく当り、自分を虐げていたのだ。フェリシアはこれまでよりも強い絶望感を抱き、胸を痛め、涙が止まらなくなると、エルバートは月にその姿が見えないよう、自分の手を引いて抱き締め、全てを包み隠した。* * *そして翌日の午後。エルバートは執務室でため息をつく。深夜、中庭で思わずフェリシアを抱きしめてしまった訳だが、フェリシアは今朝も美味しい朝食を作り、見送ってはくれるも元気がなく、自分もさっさとその朝食を一人で済ませ、家を出てきてしまった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-04
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