定刻通りに始まったパーティーは、主催者である海運業連盟の理事長の挨拶の後、歓談に移った。ホールを練り歩くウェイターのトレーからワイングラスを二つ取り、水島に一つ差し出す。「あ。私は任務中なので……」「パーティー潜入が任務だろ。生真面目に客に目光らせるだけじゃ、怪しまれる」俺は眉根を寄せて、グラスを突きつけた。「……すみません」首を縮めて恐縮する彼女から目を逸らし、そのままホール内に視線を走らせる。中央からやや右寄りに、ターゲットを見つけた。「いたぞ。JONAS OCEAN TRADINGの会長」俺が声を潜めて耳打ちすると、ちびちびとワイングラスに口をつけていた水島が、ハッとしたように顔を上げる。「おい。パーティー出席者らしくする方に気を取られて、情報収集って任務を忘れるな」「は、はい」取り繕うように背筋を伸ばし、俺が顎先で示した方向に目を遣った。「一緒にいる中年、誰だかわかるか」俺がコソッと挟んだ質問に、彼らに目を凝らした後、かぶりを振る。「すみません。今まで集めた資料には……」「だろうな。俺も初めてだ。……JONAS OCEAN TRADINGの関係者か?」水島というより自分に問いかけながら、俺は眉間に皺を刻んで顎を摩った。年の頃は五十代前半。やや白いものが混じる薄い茶色の髪をオールバックに固めた、背の高い痩身の男だ。このパーティーに出席するくらいなら、経営陣に近い関係だろう。取引上の関係者か? それとも側近か。JONAS OCEAN TRADINGの人間ではないのだろうか。これまでに調べ上げた資料には存在しない人物――。「水島、行くぞ」「え? あ、はいっ」条件反射的な返事をする彼女の腕を、グッと引いたその時。「Good Evening, Toya」名を呼ばれ、俺は踏み出しかけた足を止めた。俺の横で、水島が「げ」と小さな声を漏らすのが聞こえる。「Olivia」俺とは別に客として潜入していたオリヴィアが、胸元が開いたセクシーなマーメイドドレスの裾を揺らして近付いてきた。俺と握手を交わしながら、「How's the survey going?」と、こちらの守備を美しいブリティッシュイングリッシュで訊ねてくる。それには、「From now on」と答え……。「Olivia, Do you know that man?」俺は彼女に一歩踏み出し、目線を動かして示した。オリヴ
Last Updated : 2025-03-31 Read more