All Chapters of トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~: Chapter 71 - Chapter 80

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縮まらないディスタンス PAGE13

   * * * * ――その日の帰りにも、彼はいつもどおりにわたしをクルマで家まで送ってくれたのだけれど……。「……あ、久保さんの分のチョコ、用意するの忘れてた」「アイツの分は別に用意されなくていいです」 クルマを降りる前、わたしがポツリとこぼした一言に、彼は過敏に反応してブスッと吐き捨てた。というか、今思えば久保さんの名前に反応していたような……。「えっ、どうしたの? 桐島さん、今日はなんか変だよ?」 普段の彼なら、こんなふうに突っかかってこずに聞き流すはずなのに。「……絢乃さんって、まだお気づきになっていないんですか? だとしたらかなり鈍感ですよね」「…………えっ?」 彼が何を言っているのか理解が追いつかないままわたしがパニックになっていると、次の瞬間彼はとんでもない行動に出た。なんと、わたしの唇を強引に奪ったのだ!「……これでも、まだお分かりになりませんか? 僕の気持ちが」「…………えっと」 わたしはファーストキスを奪われたという事実と、いつもの誠実で紳士的な彼からは想像もつかなかった強引さとで頭の中がこんがらがってしまい、冷静さを失っていた。「…………あの、これがわたしの初めてのキスだってことは、貴方も分かってるよね?」 彼だって知らなかったはずはない。だって、つい数日前にわたしの口から聞いていたはずだから。「はい、知っています。それから、絢乃さん。あなたが僕のことをどう思われているのかも」「……………………ええっ!?」 わたしだってそりゃ、彼との距離が縮まらなくて悩んでいた。でも、これじゃあまりにも展開が早すぎる!「…………あああの、ゴメン! わたし今、頭混乱しちゃっててどう言っていいか分かんない。……えっと、ちょうど週末だし、明日と明後日で頭冷やすから、今日はこれでっ! また来週ね! おっ、お疲れさま!」「…………はぁ、お疲れさまでした」 わたしは彼とまともに顔を合わせられないまま、この日は彼と別れたのだった――。
last updateLast Updated : 2025-02-21
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繋がり合う気持ち PAGE1

「――ただいま……」「絢乃、おかえりなさい。――あら、なんか顔赤いけど大丈夫? 熱でもあるの?」 玄関でわたしを出迎えてくれた母は、わたしの顔が真っ赤になっていたことに目ざとく気づいた。「あ、ううん。そういうんじゃないから大丈夫。ただ……」「ただ?」 わたしは貢にキスされたことを母に打ち明けようとして思いとどまった。母もわたしが彼に恋をしていることは知っていたけれど、果たして彼の方の気持ちまで知っていたかどうかは分からなかった。もし万が一、打ち明けたことで彼に不都合なことが起きてしまったら……?「…………うん、まぁ。その……何でもない。桐島さんとみんなにはちゃんとチョコあげられたから。あ、これね、学校の後輩の子たちからもらったチョコ」 ごまかすように、小さめの紙袋を母に差し出した。「あら、いいの? ……これだけ?」「ううん。もっとたくさんもらったけど、ここにあるのは手作りの分だけ。市販品は会社の給湯室に保管してもらうことにしたの」「そうなのね。じゃあ、夕食後のデザートに史子さんと寺田と四人で頂きましょうか。絢乃、お腹空いてるでしょう? もう夕食にしてもらう? 今日はクリームシチューですって」「うん……、そうしようかな。部屋で着替えてくるね」 わたしは家に帰ってからずっと、母とも目を合わせられなかった。「そういえば、昭和のロックバンドの曲によく似た状況の歌詞があったな……」 里歩が好きな曲で、わたしもストリーミングで聴かせてもらったことがある。この時のわたしの状態は、あの歌詞と見事にシンクロしていた。   * * * *「――で? なんでアンタ、そこで告らなかったかな……。っと、おっしゃ、ストライク!」 翌日の土曜日。わたしは午後から里歩に誘われて新宿のボウリング場にいた。彼女はここでも運動神経のよさを発揮(はっき)して、ストライクやスペアを量産していた。「だって、気が動転しちゃったんだもん、それどころじゃ……、あー……」 対いてわたしのヘタクソな投球は見事に溝へ吸い込まれていった。ピンが倒れたとしても、せいぜい端っこの二~三本くらい。そのせいでわたしのスコア表には、数字よりもガターの「G」の文字の方が多かった。「アンタってボウリングもダメダメなんだね」「はいはい、どうせわたしは運動オンチですよー。ホント、里歩が羨ましい」
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繋がり合う気持ち PAGE2

 スキニーデニムにパーカー姿の里歩は、脚が太めなことを気にしているらしい。でも、スポーツのセンスがまるでないわたしは彼女の筋肉質な脚がカッコいいと思う。「だいたいさぁ、ボウリングにロングスカートで来るってどうよ」「それは別にいいじゃない」 里歩の指摘に、わたしは口を尖らせた。 ――二ゲームほど遊んだら、体力に自信のある里歩はともかくわたしはもうすっかりヘトヘトになってしまった。「…………疲れたね。もう終わろっか」「うん。里歩、ありがとね」 わたしから「もう終わろう」と言う前に、里歩の方から言ってくれた。「――ところでさ、どうして桐島さんが昨日のタイミングでキスしたか、なんだけど」「うん……。彼、ああいうことしそうな人じゃないと思ってたのになぁ」 休憩しに入った駅ビルのカフェで、アイスラテを飲みながらわたしは頬杖をついてそうこぼした。店内は暖房が効いていたので、冷たい飲み物でちょうどよかった。「あたしが思うに、それって彼がアンタの気持ちを知ったからなんじゃないかな?」「あー……。そういえば昨日、そんなこと言ってたような気が……。パニクってて頭に入ってこなかったけど」 彼は気づいていたのだ。わたしからのチョコが本命=わたしが自分を好きなんだということに。「だってさ、こないだCM出演のオファーが来た時にアンタ言ったんでしょ? 『ファーストキスは絶対、好きな人としたい』って。彼もそれ憶えてたんだよ。で、それが自分なんだって気づいたんじゃないかな」 わたしと同じものを、ガムシロップ少なめで飲む彼女はわたしと同い年なのに少しだけ大人に見えた。「…………うん、確かに言ったけど。あれじゃあんまりにも急展開すぎるよ。理解が追いつかないってば」「でも、キスだけで済んだと思えばさ。桐島さんはまだ紳士的な方だと思うよ。ヘタすりゃ押し倒されてたかもしれないんだから」「おし……、えっ!?」 あまりにも生々しい言葉が出てきて、わたしはギョッとなった。「世の中には、そういう男もいるってこと。アンタ、小坂リョウジに口説かれかかったらしいじゃん。危なかったよね。桐島さんがついててくれなかったら、確実にそうなってたよ」「うん……。ホント、彼には感謝しかないわ」 確かに、あんな人に無理やりモノにされるくらいなら、貢にキスされたくらいはまだ可愛らしいのかもしれな
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繋がり合う気持ち PAGE3

「そうなんだよ。でも幸い、絢乃だってことを突き止めた人はまだいないみたい。よかったねー」「…………うん。よかった……のかなぁ?」 これは喜んでいいものか微妙なところだった。「――でも、今日は誘ってくれた里歩に感謝しなきゃ。ひとりで家にいて悶々としてたって埒(らち)あかなかったから」「だしょ? こういう時は、恋愛上級者(エキスパート)の里歩サマを頼ればいいんだって」 わたしは本当に幸せものだ。だって、こんなに頼もしい親友に恵まれたんだから。   * * * * ――お店を出たところで、里歩が立ち止まって「あ、LINE来てる」とスマホを見た。「LINE? 彼氏さんから?」「ううん、お父さんからだ。これからお母さんと三人で買い物に行かないか、って。あたし、そろそろスマホの機種変したいと思ってたから、お父さんにお願いしてみようかな」 ……お父さんと三人でお出かけなんて羨ましい。わたしにはもう、二度とできないことだったから。「里歩、行ってきなよ。お父さんには甘えられる時に甘えさせてもらわなきゃ、いなくなってから後悔するよ」「絢乃……。ありがと、じゃあ今日はここでバイバイだね。また連絡するから」「うん。今日は付き合ってくれてありがと」 里歩と別れた後、ひとりで駅ビルの中をブラブラ歩いていると――。「あのさ、間違ってたらゴメン。――篠沢、絢乃ちゃん?」「……はい? そう……ですけど」 後ろから唐突に男性に声をかけられ、わたしは戸惑いながら振り返り、その男性の顔をまじまじと見つめた。この人、誰かに似ているような……。「あ、ゴメン! オレは決して怪しいモンしゃないから。……っていうか、オレの顔に何かついてる?」「あー……、いえ。ちょっと知り合いに似てるなぁと思って。でも誰だったか思い出せなくて」「ああ、そういうことか。――オレの名前は、桐島悠(ひさし)。弟がいつもお世話になってます、絢乃ちゃん」「桐島? ……って、ああ! もしかして、桐島さんのお兄さまですか? 調理のお仕事をなさってるっていう」 そうか、貢に似ているんだ。ちょっと猫っ毛な髪質や、優しそうな目もとや、シャープな顎(あご)のラインが。 貢には四歳上のお兄さまがいると、わたしもその四ヶ月前に聞いていた。この男性はちょうど三十歳前後、年齢的にも彼の四歳くらい上に見えた。「大正
last updateLast Updated : 2025-02-21
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繋がり合う気持ち PAGE4

「……って言っても、言葉だけじゃ信じてもらえねぇだろうから」 彼はそう言って身分証明書をわたしに見せてくれた。「これで納得?」「はい、大丈夫です。――ところで悠さん、よくわたしだってお分かりになりましたね」 悠さんも多分、わたしの姿はTVやネットでご覧になっていたと思う。でもそれは全部制服姿で映っていたはずだ。ちなみにこの日のわたしは、ピンク色のアーガイル柄が入ったベージュのハイネックニットに茶色いコーデュロイのロングスカート、焦げ茶のロングブーツにライトブラウンのダッフルコートという私服姿だった。「そりゃまぁ、私服来てても醸(かも)し出すオーラっつうか、気品みたいなのは変わんねぇもん。――今日はひとり?」「いえ、さっきまで親友と一緒でした。ふたりでボウリングに行ってて。……悠さん、は? 飲食系って、土日は書き入れ時なんじゃ?」 土曜日の夕方四時ごろは、飲食店ならディナータイムの仕込みやら何やらで忙しい時間帯だ。ウチのグループの傘下(さんか)にも飲食チェーンがあるので、わたしも一応そのあたりの事情には詳しいわけである。「うん。でもオレ店長やってて、今日は早番だったから今が帰りなんだ。副店長がいりゃ店は回るし。んで、絢乃ちゃんにここで会ったのはマジで偶然だから」「はぁ、なるほど」 悠さんはご自身の事情を簡潔に話してくれたけれど、最後に偶然を強調したのはどうしてなんだろう? というか誰に対しての弁解?「――あ、そうだ。絢乃ちゃん、これからちょっと時間もらえるかな? アイツのことで、君に話があんのよ」「ええ、大丈夫ですけど。『アイツ』って弟さん……貢さんのことですか?」「うん。じゃあ、ちょっと付き合ってもらおうかな」 貢のことで、と言われるとわたしも断れなかった。やっぱり、彼の考えていることが気になって仕方がなかったから。……でも、この時の光景って傍から見たらナンパの現場と捉えられても不思議じゃなかったと思う。 ――悠さんに連れられて入ったのは、駅ビル近くにある分煙式のセルフカフェだった。「絢乃ちゃん、喫煙席でも平気?」「はい、大丈夫です」 店員さんに「喫煙席に、二人」と告げた悠さん。どうやら喫煙者、それもかなりの愛煙家らしいと分かったけれど、わたしは特別不快にも感じなかった。同じ兄弟でも、貢はまったくタバコを吸わない人なのだけれど。
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繋がり合う気持ち PAGE5

「絢乃ちゃんって、タバコ平気な子なんだな」 彼がブラックコーヒーのカップを前にして向かいの席に座り、手慣れた仕草でタバコに火を点けるのをわたしが平然と眺めていると、感心したようにそう言われた。「はい。三年前に亡くなった祖父もタバコを吸う人でしたから。両親はまったく吸わないんですけど……あ、父はもう過去形か」 父を亡くしてまだ一ヶ月半くらいで、もう過去形になっていることにわたしの心はチクリと痛んだ。まだ〝父の死〟というものを現実として受け入れられていなかったからかもしれない。「――ところで、貢さんのことでわたしにお話っていうのは? 昨日、何か連絡があったんですか?」 わたしはケーキセットについていたホットのカフェラテを一口すすってから、本題を切り出した。ちなみにケーキはバレンタイン期間限定のガトーショコラだった。「連絡があったっつうか、アイツ毎週末には実家に帰ってくんのよ。で、昨日もそうだったんだけど、なんか様子がヘンでさぁ」「ヘン、って……どんなふうに?」 困惑ぎみに語りだした悠さんに、わたしは眉をひそめた。それには多分、前日の出来事が――わたしが関係していると思ったから。「昨日、バレンタインだったじゃん? んで、チョコいっぱいもらってきたからって、オレに分けてくれたまではよかったんだけど。やたら機嫌いいかと思ったら急に黙り込んだり、ソワソワしたり。ちょっと情緒不安定っぽい感じ?」「う~ん……」 わたしはどうコメントしていいか分からずに唸り、ガトーショコラにフォークを入れた。甘いけれどちょっとほろ苦いチョコレートの味は、何となく恋をしている時の感情に似ているかもしれない。「……あ、そういやアイツ、絢乃ちゃんからもチョコもらったって言ってたな。手作りだって嬉しそうにして、オレも『一個くれ』って言ったんだけど、一個もくれなかったんだよ。――っと、んなことはどうでもいいや。絢乃ちゃん、アイツからチョコの感想もらった?」「はい、LINEでもらいましたけど……。これ見てもらえますか? ちょっと、一人で読むの恥ずかしくて」 わたしは前夜に彼から受信したメッセージの画面をスマホに表示させてテーブルの上に置いた。〈手作りチョコ、ありがとうございました。すごく美味しかったです。〉「――なんだ、普通の感想じゃん。これがどうかした?」「問題はその後なん
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繋がり合う気持ち PAGE6

「…………何だこれ!? アイツ、めっちゃキザじゃんー。しかも見事に既読スルーされてやんの!」 あまりにもキザすぎて彼らしくない一文に、悠さんはお腹を抱えて大爆笑し始めた。「でしょう? わたしも、これを読んだら返信に困っちゃって」「あー、おもしれー! でもそっか、これで納得いった。アイツ、今朝めっちゃ落ち込んでたんだわ。なるほどなぁ、これが原因だったんだな」「そりゃあ、せっかく手作りチョコの感想を送ったのに既読スルーされたんじゃ、落ち込んでも仕方ないですよね」 わたしは貢に対して申し訳ない気持ちになった。せめて感想をくれたお礼だけでも返すべきだったのに。既読スルーはやっちゃいけなかったかな。「うんまぁ、それもあるけど。多分、アイツ自身がこの一文を送信した後、めちゃめちゃ悶絶してたはずだからさぁ。『なんで俺はこんなこと書いちまったんだぁ!』って。だってこれ、絶対アイツのキャラじゃねぇもん」「……えっ?」「多分、昨日君のファーストキスを強引に奪ったことも後悔してると思う。君があれで機嫌を損ねちまったんじゃないか、ってな。んで、LINEの既読スルーで君を完全に怒らせちまったって思い込んだんじゃねぇかな」「わたしは別に怒ってなんか……。ホントに気が動転してただけなんです。でも、貢さんはどうしてそんなにネガティブな方に解釈しちゃったんでしょう? 男性ってみんな、そんなに自分に自信がないものなんですか?」 貢が初恋だったわたしには、男性の心理を理解しようとするのはそれこそ司法試験並みに難しかった。「いや、みんながみんなアイツみたいってわけじゃねぇよ。少なくともオレは違う。……それはともかく、アイツがあんななのはちょっと恋愛恐怖症だからかもなぁ。過去の失恋とか、他にも色々引きずってああなってるだけだから」 さすがはご兄弟だけあって、悠さんは貢のそのあたりの事情についてよくご存じらしい。恋愛恐怖症になってしまうほどの失恋(とその他諸々)って一体……? わたしはものすごく気になった。「あの……、それってどんなことがあったんですか? お兄さまはご存じなんですよね?」「それはオレに訊くより、アイツが話したくなった時に聞かせてもらった方がいいと思うよ。……でもさ、オレが思うに、アイツは絢乃ちゃんに嫌われるのが怖いだけだと思うんだよなぁ。絢乃ちゃんも気づいてるんだ
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繋がり合う気持ち PAGE7

「そして多分、君とアイツはすでに両想いのはずだ。……違うかな?」 どうしてそこまで分かったのか不思議に思って目をみはると、悠さんはそれを肯定と受け取ったらしい。「どうやら当たりみたいだな。だってあのチョコ、本命だったんだろ? アイツが昨日もらってきたチョコん中で、手作りはあれだけだったから」「……はい」 わたしは素直に認めた。いくらお菓子作りが得意な女子でも、わざわざ義理チョコまで手作りにしないだろう。……まぁ、そういう女子も探せばどこかにいるかもしれないけれど。「わたし、生まれて初めて好きになった人が貢さんなんです。知り合ったのがちょうど父が倒れた頃だったんで、彼の存在はものすごく心強くて。わたしが前向きな気持ちになれたのも、父の死を心から悲しんで思いっきり泣くことができたのも彼のおかげなんです。それに、今でもすごく助けられてます」 彼がいなければ、わたしが父の死からここまで立ち直れたかどうかも、会長の仕事と高校生活という二刀流だってうまくやり遂げられていたかどうかも分からない。 「――あの、悠さんはご存じですか? 貢さんがいつからわたしのことを好きになったのか。……もしかして、初めて会った時から……とか?」「うん、実はそうらしい。でも、どうしてそう思ったの?」「それは……、初対面の夜に、彼が言ってたからです。わたしのお婿さん候補に、自分も入れてもらうことは可能ですか、って。……その時は彼が『冗談です』ってごまかしてたんで、わたしも本気で言ってるのかホントに冗談なのか分からなかったんですけど」「へぇー、アイツそんなこと言ったのか。でも兄のオレが思うに、そりゃ本気だな」「やっぱり……。悠さんもそう思われますか?」 前日の彼の言動から、わたしもやっとそれが本気だったんだと受け入れることができた。けれど、同時に「わたしなんかでいいんだろうか」という気持ちもあった。八歳も年下だし、まだ子供だし、彼の恋人になるならもっとふさわしい、お似合いの女性が他にいるんじゃないか。と。  でも……、わたしが彼を好きだという気持ちも、彼も同じ気持ちだったらいいなぁと思っていたことも事実なのだ。
last updateLast Updated : 2025-02-21
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繋がり合う気持ち PAGE8

「ということは……、わたしも貢さんも一目ぼれ同士だったってことですよね」「えっ、そうだったのか? つうことは、アイツと君って知り合った時からすでに両想いだったっつうことかー」「そう……なりますね。そっか、そうだったんだ……」 その時になってやっと、出会ってからの彼の優しさの意味が心にストンと落ちた。彼がずっとわたしに対して親切だったのも、葬儀の日に親族の前からわたしを連れ出してくれたことも、思いっきり泣かせてくれたことも全部、わたしへのまっすぐな恋心からだったんだと。もちろん、わたしの秘書になってくれたことも。 でも元々誠実な彼のことだから、そこに下心とか打算なんて入り込んでいなかったと思う。「わたし……、貢さんに謝らなきゃ。既読スルーしちゃったこと。それと、彼にちゃんと気持ち伝えます。だって、誤解されて落ち込まれてるのはイヤだから。――悠さん、ありがとうございました」「いやいや、いいって。んじゃ、オレはそろそろ帰るわー。あ、アイツにオレのことで何か言われたら、『ナンパされわけじゃない』って言っといてよ。オレ彼女いるし、間違っても弟が惚れた女の子に手ぇ出すようなことは絶対しねぇから」 悠さんはそう言って、すっかり冷めたブラックコーヒーを飲み干した。「はい、分かりました。そう言っときます」「よしよし。あ、でも連絡先だけは交換しとこうか。アイツと何かあった時に、絢乃ちゃんがオレを頼れるように」「ええ、いいですよ。交換しましょう」 わたしは「これってナンパにならないのかな……」と思いながら、悠さんと連絡先を交換した。 ――わたしもカフェラテとガトーショコラを平らげたタイミングで、悠さんと二人でお店を出た。「じゃあな、絢乃ちゃん♪ 貢によろしく。自分の気持ち、しっかりアイツに伝えな」「はい。今日は本当にありがとうございました!」 わたしは新宿駅前の適当なベンチに腰を下ろし、バッグからスマホを取り出した。LINEのトーク画面を開き、彼からのメッセージの返信を打とうと思ったけれど、気が変わった。「こういう時は、LINE打つより電話の方がいいよね」 緑色のアプリを閉じ、電話のアイコンをタップした。履歴から彼の番号をリダイアルする。わたしから彼に電話するのは実に一ヶ月ぶりだった。『――はい。絢乃さん、どうされたんですか? お電話なんて珍しいです
last updateLast Updated : 2025-02-21
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繋がり合う気持ち PAGE9

『今は……市谷(いちがや)ですかね。今日は朝から都内のカフェ巡りをしていたんです。ちなみに、僕が会社でお出ししているコーヒーの豆も、実家近くのコーヒー専門店から仕入れてるんですよ。……っと、長々と失礼しました』 自分の好きなことについて生き生きと語る彼は、すごく微笑ましかった。『それはともかく、絢乃さんは今どちらに?』「わたしは今、新宿にいるの。里歩と一緒にランチして、ボウリングして、別れた後貴方のお兄さまに声かけられてね。ついさっきまで一緒だったの」『えっ、兄にですか!? それってナンパじゃ……』「ナンパじゃないよ。お仕事の帰りに偶然わたしを見かけて声をかけただけだって。……確かに、外見がちょっとチャラチャラしてるから誤解されそうではあるけど」 お兄さまが想像していたとおりの反応に、わたしは電話口で苦笑いした。 悠さんは、外見的には久保さんにちょっと似ているかもしれない。彼の四~五年後、という感じだろうか。「そんなことより、わたしが今日電話したのはね、貴方と話がしたくて。電話じゃなくて、直接会って話したいの。あと、昨日のLINEの既読スルーについても弁解させてほしい。だから……、今から会えないかな? 新宿まで来られる?」『そこは〝謝りたい〟じゃなくて〝弁解させてほしい〟なんですね』 彼は愉快そうに笑った後、「分かりました」と言った。『ここからそちらまで近いので、あと十分くらいで着けると思います。では今からクルマで向かいますね』「うん、待ってるね」 ――電話を終えた後、わたしは彼がすぐに見つけられるようその場を動かずにいた。「昨日のこと謝るだけじゃダメだよね。ちゃんと彼に告白しよう。……でも、何て言ったらいいんだろう……?」 生まれて初めての愛の告白に、どんな言葉を選べばいいのかを一生懸命考えながら、わたしは彼が来るのを待っていた。「――絢乃さん、お待たせしてすみません」 それから十分もしないうちに貢のレクサスが目の前に停まり、運転席の窓から彼が顔を出した。「ううん、待ってないよ。っていうか謝らないで。呼びつけたのはわたしの方なんだから」 彼に会いたい、と言ったのはわたしのワガママだったのに、どうして彼が謝るの? 謝らなきゃいけないのはむしろわたしの方だったのに。「あ……、ですよね。絢乃さん、あまり長くクルマを停めておけない
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