All Chapters of トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~: Chapter 121 - Chapter 130

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大切な人の守り方 PAGE2

「どうしたの、里歩? そんなに慌てて」「だから大変なんだって! アンタもスマホでX開いてみて! ほら今すぐ!」「う……うん、分かった」 何が何だか分からないままアプリを開き、彼女の言うキーワードで検索すると、トップに表示された記事にわたしは茫然となった。「ちょっと何これ!? わたしと貢の2ショットだ。しかもこのアングル、まさか隠し撮り!?」「みたいだね。顔はハッキリ写ってないけど、全体の雰囲気で何となく誰だか分かるっていうギリギリのアングルで撮られてる。これはちょっと悪質だわ」 里歩もすぐ横で眉をひそめ、低く唸った。これは相当怒っているなとわたしも感じたし、それはわたし自身も同じだった。 記事そのものを読んでいくと、こんな悪意に満ちた内容が投稿されていた。〈篠沢グループ会長のスキャンダル発覚! 隣に写ってるのは彼氏か!? 大してイケメンでもないのに逆玉を狙った不届き者! 男のシュミ最悪!! #この男見つけたら制裁 #この男は社会のゴミ                〉 ……「何なのこれ……。誰がこんなひどい投稿を……」 しかもその投稿のコメント欄はすでに炎上していて、おびただしい数の拡散までされていたのだ。あまりの憤(いきどお)りに、スマホを持つわたしの手がブルブル震えた。 葬儀の日、父のことを散々コケにした親族にさえ、これほど強い怒りを覚えなかった。それは、彼らがわたしの目の前で言いたい放題言っていたから。確かに腹は立ったけど、「ああ、この人たちは所詮この程度の人間なんだな」と思えば諦めもついた。でも、この時は違った。目に見えない人からの悪意ほどおぞましいものはない。「……この書き込みしたの、男みたいだね。絢乃、このアカウントに心当たりある?」「ううん、見たこともないアカウント。だいたいわたし、男の人に恨まれる憶えなんて……」「だろうね。じゃあ桐島さんはどう? アンタにはなくても、桐島さんが誰かから恨まれてる可能性はあるんじゃないの? っていうかこの投稿、明らかに彼に悪意の矛先(ほこさき)が向いてるし」「あ……、確かにそうだね。でも、どうなんだろ……? 彼だって人から恨まれるような人じゃないと思うけど」「あーーーっ! この服装、豊洲のららぽーとで会った時のだよね!?」 いつの間にか目の前に来ていた唯ちゃんが、写真に写るわたし
last updateLast Updated : 2025-02-26
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大切な人の守り方 PAGE3

「うん……、確かに」「唯、これ書いた人分かっちゃったかも」「「えっ!?」」 わたしと里歩は同時に驚きの声を上げ、ドヤ顔の唯ちゃんを見た。「小坂リョウジさんだよ、多分。あの日、あそこで映画の舞台挨拶やってたでしょ?」「あ……!」 確かに唯ちゃんの言ったとおり、彼はちょうどあの日、主演映画の舞台挨拶をするためにあの場所に来ていた。「うん。でね、空き時間にショッピングモールの中をうろうろしてる時、たまたま桐島さんと一緒に歩いてる絢乃タンを見かけて写真撮ったんだよ」「ちょっと待って、唯ちゃん。小坂リョウジがそんなことした理由は?」 名探偵ぶりを発揮していた唯ちゃんに、里歩が水を差した。「絢乃タンにフラれたから。だしょ、里歩タン?」「……まぁ、そんなこともあったけど。だからってそれくらいの理由で絢乃のこと逆恨みするかなぁ?」「う~ん、それは唯には分かんない」 にゃはっ☆ と笑いながら答えた唯ちゃんに、わたしたち二人はのめった。「…………っていうか里歩、恨まれてるのは貢の方じゃなかったっけ?」「あ、そうだった。でも、これってホントに小坂リョウジのアカかなぁ? ちょっと待って……。あったよ、公式アカ。でもユーザー名が全然違うね」 里歩は自分のスマホで小坂さんのアカウントを検索したらしく、ヒットしたアカウントには公式であることを表す青い認定マークがついていた。「ってことは、裏アカか成り澄まし? どっちにしても悪質だよね。……一応、サポートセンターに荒らし(スパム)行為で通報した方がいいかな」「うん。でも、多分通報してもキリがないと思うよ。こういうアカはウジャウジャ増殖するから」「ぞっ、増殖……?」 里歩の指摘に、通報メールを送信し終えたわたしはゾッとした。そんなの、おぞましい以外の何ものでもない!「そうならないためにも、まずはこの書き込みがホントに小坂さんのアカから発信されてるのか突き止めなきゃだよね。多分、かなりハードル高いと思うけど」「そうだよね……。もし裏アカウントなら、海外のサーバー経由で作られてるかもしれないもん。そこから先を辿るのはちょっと難しそう。そういうのを調べてくれる、専門の調査会社とかないのかなぁ。ネット犯罪とか、そういう問題に特化してるような」 わたしは頭を抱えた。篠沢グループの中にも調査会社はあるけれど、そこま
last updateLast Updated : 2025-02-26
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大切な人の守り方 PAGE4

 オフィスへ向かうレクサスの助手席で、わたしはため息ばかりついていた。「――会長、今日は元気ないですね」 そんなわたしの様子を気にかけ、運転席から貢が労わる言葉をかけてくれた。「うん、まぁ……ね」「もしかして、会長もご覧になったんですか? Xの、あの書き込み」「…………もしかして、貴方も見たの?」 彼はわたしの長い沈黙を肯定と受け取ったらしく、「やっぱりそうでしたか」と頷いた。「はい。僕だけじゃなくて、お母さまもご一緒に。お母さま、もうカンカンでしたよ。『今すぐ阿佐間先生に連絡して! こんなヤツ、訴えてやる!』って鬼の形相で。〝怒り心頭に発する〟ってこういうことなのかと思いました」「へぇ……」 もしくは〝怒髪天を衝く〟も可だろう。……それはさておき。「……何か責任感じちゃって。ごめんね、桐島さん。わたしのせいで、貴方がこんな目に遭うなんて」「会長が責任を感じられることはないでしょう。僕なら大丈夫ですから。あんな誹謗中傷、痛くも痒くもないですから」「え? ホントに大丈夫なの?」「ええ、本当です。僕のメンタルが強いことは、会長がよくご存じのはずでしょう?」「…………そうでした」 わたしは思い出した。入社二年目からのハラスメント地獄を、彼はずっと耐え抜いてきたのだ。精神的にタフでなければ、彼はとっくに会社を辞めていたはずである。「それに、僕は自分のことよりあなたのことの方が心配です。もしかしたら、あの投稿を目にした時にご自身のことのように心を痛められたんじゃないかと。お父さまのご病気が分かった時もそうでしたもんね」「……うん」 わたしがよく知っている彼は、大好きな彼はそういう人だ。いつも自分のことよりわたしや他の人のことを考える。わたしに元気がない時や、落ち込んでいる時にはちゃんと気にかけてくれる、優しい人。お嬢さまのわたしにも、打算抜きで接してくれる純粋でまっすぐな人だ。「桐島さん、わたし無性に腹が立ったし、それと同時に怖くなったの。相手が見えないのをいいことにして、あんなに他人に悪意を向けられるものなのか、って。でも、同時にこうも思った。こんなことをした人を絶対に許さないって。わたし、貴方を守るって約束したよね? だから、誹謗中傷犯を絶対に見つけて、貴方に謝罪させるから。わたしを敵に回したこと、絶対に後悔させてやるんだから!」
last updateLast Updated : 2025-02-26
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大切な人の守り方 PAGE5

「心配してくれてありがと。貴方はホントに優しいね。でも大丈夫! そんなに危ない橋は渡らないから。……多分」「多分? 多分って何ですか多分って」「何でもないよー。さあ、今日も頑張ろう!」「……はーい」 彼からの鋭いツッコミを見事にスルーして、わたしはごまかすように彼の肩をポンと叩いた。   * * * * ――その日の夕食後、自室で学校の予習復習を終えたわたしは、ふと思い立って机の上のノートPCを起動させた。 ネット犯罪や、SNSでの嫌がらせなどの調査に特化した調査会社はないものか――。それも、正規のルートでは特定できないようなことまで独自のルートで調べ上げてしまえるような。 検索エンジンに「調査会社 ネット関係」というキーワードを打ち込み、エンターキーを叩くと数多くの業者がヒットしたけれど、そこからさらに「独自ルート」というワードで絞り込むと、いくつかの会社や個人事務所だけが残った。「……あ、ここなんかいいかも」 わたしがそこで目をつけたのは、新宿にある一軒の個人事務所。WEBサイトのPRコメントには「独自のコネクションを駆使して、警察にも特定できないありとあらゆるネットトラブルの原因を特定します!」と強気な内容が書かれていて、興味をそそられた。 サイトにアクセスすると、そこは一組の男女だけで切り盛りしている零細企業らしく、所長さんは元警視庁捜査一課の警部補だったという、元刑事さんの事務所なのに、堂々と警察組織にケンカを売っているのが何だか面白いなと思った。「まずはお気軽に、相談内容をメールで送って下さい」とあったので、サイトに記載されているメールアドレス宛てに相談したい内容を送信した。連絡先を書き込んでおけば、後から直接電話がかかってくるらしい。『サイトを拝見しました。わたしは篠沢絢乃と申します。 実は、わたしの大切な人が現在、Xで誹謗中傷の被害に遭っています。それはすでにかなり拡散されているようで、彼のプライバシーを特定しようとする動きもあるみたいです。犯人は裏アカウントを使っているようで、警察や他の調査会社では特定するのが難しそうです。 この件での調査を、ぜひそちらでお願いできないでしょうか。わたしはどうしても、彼を助けたいんです。 このメールを読んで頂けたら、連絡をお願いします。詳しいお話は電話でさせて頂こうと思います。携帯
last updateLast Updated : 2025-02-26
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大切な人の守り方 PAGE6

「――今日中には電話かかってこないだろうから、明日かな……」 とりあえず翌日まで連絡待ち、ということにして、PCを閉じてからスマホでLINEのアプリを開くといくつかの業者の公式アカウントと、貢から新着通知が来ていた。〈絢乃さん、今日は僕のことを心配して下さってありがとうございます。 僕は本当に大丈夫です。兄からも電話がかかってきて、「あんな書き込み気にすんな!」って言われました。言われるまでもないですけど(笑) 絢乃さんはあれから、何か動きがありました?〉〈さっき、ネットで見つけた調査会社に相談内容をメールした。今連絡待ち。 場合によっては、わたし明日は会社休むかも。また連絡するね!〉 返信を終えたところで、登録外の番号から電話がかかってきた。番号からして固定電話ではなく、携帯電話らしい。「――はい、篠沢ですけど……。どちらさまでしょうか?」『篠沢絢乃さんの番号で間違いないですよね。こちら、〈U&Hリサーチ〉です。先ほどご相談のメール、下さいましたよね?』「ああ……、はい」 電話の声は、まだ若い女性のようだった。二十歳前後くらいだろうか。『メール、拝見しました。それで、詳しい相談内容なんですけど。かなりお困りのようなので、明日にでも一度事務所に来て頂けないかと。そこで所長も交えて詳しいお話をしましょうか。調査料金についても』「はい。……あの、わたし、学校があるので伺うのは夕方になると思うんですけど」『大丈夫ですよ。所長にもそう伝えます。事務所の場所は分かります?』「ええ、分かります。ホームページに住所が載ってましたから。では明日、よろしくお願いします。失礼します」 やっぱり会社は休むことになりそうだ。――わたしは急いで母のいるリビングへと下りて行った。
last updateLast Updated : 2025-02-26
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大切な人の守り方 PAGE7

 ――翌日の放課後、わたしは制服のままで新宿にある〈U&Hリサーチ〉の事務所を訪ねた。事務所は一階にコンビニが入っている三階建て雑居ビルの二階にあった。 ドア横の呼び鈴を押すと、ドアがガチャリと開いて顔を出したのはわたしと同い年くらいの女の子だった。身長は百六十センチくらい。ストレートの茶色いロングヘアーをポニーテールにして、パーカーにデニムのミニスカートというちょっとスポーティーな服装をしていた。「あの……、篠沢絢乃ですけど。今日、こちらへ伺うお約束をしている」「ああ、篠沢さんですね。あたし、この事務所のスタッフで、葉月(はづき)真弥(まや)っていいます。どうぞ中へ。所長は今、下のコンビニまで買い出しに行ってます。すぐ戻ってくると思うんですけど」 真弥さんはわたしの制服姿に興味津々で、事務所内へ招き入れたあとに「まさか高校生だなんて思わなかったんで、ビックリしました」と笑いながら言った。「電話で言わなくてごめんなさい。高校生だって言ったら、相談を受け付けてもらえないんじゃないかと思ったから」「そんなことないですよ。ウチは零細企業なんで、お金さえ払ってもらえるなら依頼人の年齢なんか関係ないですから。――それ、茗桜女子の制服ですよね。いいなぁ」「ええ。今三年生」「あたし、新宿の慎英(しんえい)高校に通ってたんです。超がつく進学校。でも、ホントは茗桜に行きたかったんですよね。慎英には、親が行け行けってうるさいから仕方なく」 彼女はそう言って肩をすくめた。親とは折り合いが悪いらしい。「へぇ……。『通ってた』っていうのは?」「ああ、そこ辞めて、今は通信制に通ってるからです。二年生です。篠沢さんの一コ下」「なるほど」 わたしが応接セットの茶色いソファーに腰を下ろしたところで、「ただいま」と野太い男性の声がした。どうやら所長さんが戻ってきたらしい。「――ただいま」「あ、ウッチーお帰り。篠沢さん来てるよ」 ……「ウッチー」? 所長さんを呼ぶのにフランクな呼び方をするんだなぁと、わたしは小さく首を傾げた。もしかして、この二人も……?「ああ、どうも。オレがここの所長で、内(うち)田(だ)圭(けい)介(すけ)です」「初めまして。わたし、篠沢グループの会長で、篠沢絢乃です」 真弥さんの話によると、内田さんは三十歳。身長は百八十五センチ。刑事だった頃
last updateLast Updated : 2025-02-28
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大切な人の守り方 PAGE8

「――それで、メールで伺っていた件について、詳しく話して頂けますか?」 わたしがお茶で喉を潤すのを見て、所長さんが本題を切り出すのと同時に、真弥さんはパソコンデスクに向かった。 貢がSNSで悪意に晒(さら)されていること、それによって彼のプライバシーを侵害しようとする動きがあることを話すと、内田さんではなく真弥さんの方がわたしに質問してきた。「その人って、彼氏でしょ?」「……ええ、実はそうなの。だからわたし、何としても彼のこと守りたくて」「なるほどね。それで、すでに容疑者っていうか、疑わしい人物っているんですか?」「一応……。友だちが言うには、俳優の小坂リョウジさんが怪しいんじゃないか、って。でも、嫌がらせの投稿をしたアカウントは彼の公式のものじゃなくて、どうやら裏アカウントらしくて」「まぁ、公式のアカで堂々とそんなことやるバカはいませんからねー。ちなみに、その人があなたや彼氏さんを逆恨みする理由って何か思い当たります?」 CM共演を断ったことを話すと、真弥さんはデスクトップのPCで小坂さんに関するネット記事を検索し始めた。「……小坂リョウジ、つい最近所属事務所の契約切られてますね。女グセの悪さに事務所も閉口(へいこう)してて、我慢も限界だったってことでしょう。彼はそれをあなたのせいにしようとしてるんじゃないですかね。もしくはあなたという女性に固執してるとか。それで彼氏さんに逆恨みしてるのかも。でも、本当のターゲットは多分絢乃さんでしょうね」「それって……、ストーカーこと?」「そう。オレの経験上、そういうヤツは強硬手段で直接攻撃に出ることが多い。もしかしたら、君や彼が危害を加えられる可能性もあるかもしれない」「大丈夫です! そういう時はあたしかウッチーがとっちめてやりますから。こう見えてあたし、実戦空手の有段者なんで☆」「はぁ……、それは頼もしいです」 真弥さんは再びPCに向き直り、わたしに訊ねた。「その発信元のアカ、分かりますか?」「ええ。ちょっと待って……あ、これだ」「じゃあ、ちょっとスマホ拝借しますね。このアカの持ち主を、IPアドレスから特定してみます」 彼女はわたしのスマホをケーブルでPCに繋ぎ、勢いよくキーボードを叩き始めた。わたしもタイピングの速さには自信があるけれど、彼女のはそれ以上に速く、見事なブラインドタッチだ
last updateLast Updated : 2025-02-28
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大切な人の守り方 PAGE9

「裏技……って?」「真弥には、世界中にハッカーのお仲間がいるんだ。そのネットワークを駆使して、どこの国のサーバーが使われたのかを特定するってわけだよ。な、真弥?」「正解♪ で、お返事のあった国が当たりってわけ。……よし、ビンゴ!」 彼女のPCに来た返信メールの文面は中国語だった。「……ってことは、中国のサーバーを使ったってこと?」「ううん。確かにあたし、中国にもハッカー仲間がいるけど、正解はシンガポール」「「シンガポール?」」 思わずわたしと内田さんの声がハモった。「そ。あの国は多国籍だし、中国からの移民も多いから。ネット関係はけっこう緩いんだよ。メールをくれたあたしのお仲間は、中国から移住してる人。――あー、やっぱりね。このアカが作られたのと同じ時期に、ある日本人男性がアクセスした履歴を見つけたって」「誰ですか、それって」「俳優の、小坂リョウジ。つーまーり、このアカは小坂リョウジの裏アカ確定ってこと」「やっぱり……そうなんだ」 調査結果はほぼわたしの予想どおりだったけれど、確定したことで小坂さんの狂気を見た気がしたわたしには悪(お)寒(かん)が走った。「このデータはプリントアウトして、篠沢さんにお渡しします。これをこの後どう使われるかはあなたにお任せしますね。――で、調査料金についてなんですが」 応接スペースに真弥さんが戻ってきたところで(といってもパソコンデスクはすぐ横にあったのだけれど)、内田さんからそう切り出された。「ウチの事務所では他の調査会社と違って、ウチでの調査結果を依頼人に言い値で買い取ってもらうシステムになってるんですが……。最低ラインで二十万円になりますけど」「わたしの言い値でいいんですね? じゃあ五十万円で」「五十万……、いいんですか? けっこうな大金ですよ?」「いいんです。これで大切な彼を守れるなら安いものですから。一応、百万円までは出せるように銀行で下ろしてきました」 わたしは通学バッグから現金の入った封筒を取り出すと、そこから半分を引いてローテーブルの上に置いた。「――五十万円、確かに受け取りました」 貴女は銀行員さんですかと訊きたくなるほど見事な手さばきで現金を数えた真弥さんが、その場で領収書を記入して手渡してくれた。収入印紙がすでに貼られているあたり、そこはキッチリしている。「これで我々の
last updateLast Updated : 2025-02-28
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大切な人の守り方 PAGE10

 ――わたしと〈U&Hリサーチ〉の二人で決めた作戦は、小坂リョウジさんの裏アカウントにDMを送り、真弥さんがそのアカウントをハッキング。彼をウソの誘い文句でおびき寄せて二人で会っているところを真弥さんに乗っ取った彼の裏アカでライブ配信してもらい、彼が本性を現したところでそのことを彼に暴露するというもの。よくTVのバラエティーでやっているドッキリ企画に近いかもしれない。 万が一のことを考えて、わたしは内田さんと真弥さんと連絡先と名刺を交換した。貢の携帯番号も教え、わたしの身に危険が迫った時には最終手段として彼に知らせてほしい、と内田さんにお願いした。 この作戦については話していないけど、調査については貢にも伝えてあった。調査料金として五十万円を支払ったことには、「そんな大金を払ったんですか!? 絢乃さん、金銭感覚バグってるでしょう絶対!」と呆れられた。わたし自身もそう思うけれど、彼を守るためなら一億円出したっていい。彼の存在は、決してお金には代えられないから。 顧問弁護士である唯ちゃんのお父さまにも、小坂さんを訴える準備をして頂いた。真弥さんにもらった調査内容はその証拠としてお預けした。ただ、正規ではない手段で手に入れた情報なので証拠能力がどうなのかは分からないけれど……。 ――そして、作戦決行の日が来た。 その日は土曜日で、貢には前もって「ちょっと用事があるから」とデートの予定を外してもらった。 内田さんの事務所を訪れてから決行日までの数日間、わたしの様子がおかしかったことは彼も気づいていたかもしれない。もしかしたら彼は、わたしの浮気を疑っていたかもしれないけれど、その心配なら皆無だ。内田さんには真弥さんという可愛い恋人がいるわけだし、わたしには貢しかいないのだ。 SNSでの誹謗中傷は、もうこのネタが飽きられていたのかパッタリ止んだ。その代わり、真弥さんが調べてくれた小坂さんのある情報が、Xで拡散されていった。彼はお付き合いしていた女性と破局するたびに、リベンジポルノを仕掛けていたらしいのだ。――これもまた、三人で練った作戦の一部だった。 普段よりちょっと露出度高めの服装をして、わたしは新宿駅前でターゲットを待ち構えた。少し離れた場所では、自撮りするフリをしてアウトカメラでスマホを構えた真弥さんと内田さんも待機していた。「――CM撮影の時以来かな
last updateLast Updated : 2025-02-28
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大切な人の守り方 PAGE11

「わたしの親友が貴方のファンなんです。五月に豊洲で主演映画の舞台挨拶なさってたでしょう? 彼女、部活があったから行けなくて残念~って言ってました」 これも真赤なウソっぱちだ。里歩はその頃とっくに彼のファンを辞めていたので、行きたがるわけがないのだ。「へぇ、そうなんだ? 嬉しいなぁ」「豊洲っていえば、ちょうどあの日、わたしもあのショッピングモールにいたんですよ。彼氏と二人で。偶然ですねー」 わたしは彼が気をよくした手ごたえを得ながら、ちょっと強気にカマをかけてみた。「へ、へぇー……。すごい偶然だねぇ。っていうか君、彼氏いるんだ? もしかして、撮影の時に一緒にいたあの男?」 彼は平然を装っていたけれど、明らかに動揺していた。わたしはこんな言葉使わないけれど、里歩や真弥さんなら「ざまぁ」と言うところだろう。「ええ。八歳年上の二十六歳で、わたしの秘書をしてくれてます。お金持ちの御曹司っていうわけじゃないですけど、すごく優しくて頼りになるステキな人です。実はわたしたち、結婚も考えてて。でも彼は決して逆玉狙いなんかじゃなくて、わたしのことを本気で大事に想ってくれてる人なんですよ。わたしも彼のこと、すごく大切に想ってます」「へぇ…………。じゃあ、なんで君は今日、俺を誘ってくれたの? そんな挑発的なカッコして、コロンの匂いまでさせて。……もしかして、俺を誘惑しようとしてる? 彼氏から俺に乗りかえるつもりとか」 この人、どこまで自分大好きなんだろう? きっと今までも、こうやってどんなことも自分に都合のいいようにしか考えてこなかったんだろう。「まさか」 わたしは鼻で笑い、彼をどん底に突き落とす宣告をした。「貴方が、その大事な彼を貶めるようなことをしたから、反撃しに来たんです。貴方が裏アカまで作って、彼に嫌がらせをしてきたから。わたしが分からないとでも?」「……っ、このアマ……」「ちゃんと調べはついてるんですよ。だからわたし、逆にそのアカウントを利用しようって考えたんです。貴方の本性を、ファンのみなさんにさらけ出すために。こうやって誘い出せば、プレイボーイの貴方のことだから食いついてくれるだろうと思って。でもまさか、こんなにホイホイ誘いに乗ってくるなんて思わなかった!」 ここまで上手く引っかかってくれるなんて思っていなかったので、わたしは笑いが止まらなくな
last updateLast Updated : 2025-02-28
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