All Chapters of トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~: Chapter 101 - Chapter 110

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次のステップって……? PAGE6

「でもさぁ、彼とイチャイチャはしてるんでしょ?」「……まぁ、適度には」 わたしもそこは素直に認めた。 キスはもう毎日の日課みたいなものだったし、彼からのスキンシップはしょっちゅうのことだった。とはいっても頭をポンポンされたり、頬に触って「お肌キレイですね」と褒めてくれたり、肩こりがひどい時に肩を揉んでくれたり、その程度。あまりベタベタしてくるわけじゃないけれど、それだけでも彼からの愛を感じられて嬉しかった。「いいなぁ、大人の彼氏。めっちゃ憧れる~」「いいなぁ……って、里歩の彼氏も年上じゃない。今年ハタチでしょ?」 羨ましげに目を細めた親友に、わたしはすかさずツッコミを入れた。何を贅沢(ぜいたく)言っているんだか。 専門学校生である里歩の恋人だって法律上では立派な成人だし、もうすぐお酒が飲める年齢になろうとしていたのだ。「確かに年齢だけならもう立派な大人なんだけどさぁ、桐島さんに比べたらまだお子ちゃまだよ。落ち着きはないし、余裕もないし」「いやいや! 貢だってそこまで〝ザ・大人〟って感じでもないよ? あれで意外とおっちょこちょいだし、プライベートでは甘えん坊なところもあったりして」 仕事の時はバリバリ頼りになる秘書の顔をしていた彼だけれど、オンの時とオフの時でギャップというか落差がすごい。その事実は限られた人数しか知らないだろう。「あら、そうなん? でもさぁ、桐島さんには絶対にブレない信念みたいなのがあるじゃん? 絢乃のことを支えたい、守りたいっていうね。そういうところが大人なんだと思うな」「なるほど……」 彼の性格は一言で表すと「一本気」、もしくは「一途」。確かに、ひとりの人間としての芯はもうできあがっていると言ってもよかった。そういう意味では「大人」と里歩が評価したのも頷けた。「あのね、わたしが手作りのお料理で彼をお祝いしたいと思ったのは、彼からもらった愛のお返しをしたいって思ってるからなの。彼に求められたら、できるだけどんなことでも叶えてあげたいなって」「それが、たとえ際どいことでも? アンタ拒まない自信ある?」「それは……どうだろ? その状況になってみないと分かんないけど」 わたしは首を傾げながらフライドポテトをつまんだ。たとえそうなったとしても後悔しない自信はあったけれど、絶対に拒まないと言い切れるか、と訊かれたらそこはあ
last updateLast Updated : 2025-02-25
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次のステップって……? PAGE7

 ――そして、大型連休も終わりに近づいた五月初旬のある日。わたしは午後から貢と二人連れだって、豊洲(とよす)の大型ショッピングモールを訪れていた。貢の誕生日を早めに祝うべく、この施設に入っている高級志向のスーパーでカレーの材料と彼ご所望(しょもう)のチョコレートケーキ、飲み物を買うことにしていたのだ。 この日、わたしは誕生日の翌日に里歩に買ってもらったあのルージュをつけて行った。 色はチェリーピンク。あまり派手な色ではなかったけれど、貢は「その色、いいですね」と褒めてくれた。何より、わたしがメイクをしているとか、いつもとほんの少しでも違っていればそれにすぐ気づいてくれる、彼の優しさがわたしは嬉しかった。「――貢、今日の主役なのに荷物持ってくれてありがとね。けっこう重いでしょ?」 歩き疲れとショッピング疲れもあり、適当なベンチで休憩している時に、わたしは荷物持ちを買って出てくれた彼を労(いた)わった。 ショッピングバッグは食材である野菜や牛肉、飲み物などでパンパンになっていて、かなりの重量になっていたはずだ。こういう時、さり気なく重い荷物を持ってくれる男性がいるのは本当にありがたいと思った。「いえいえ。これでも男ですから、これくらいの重さは平気です。総務課の仕事で鍛えられましたからね。それより、支払いありがとうございました」「ううん、いいの。けっこうな金額になっちゃったし、わたしも思い切ってクレジットカード使いたかったんだ」 わたしは春休み中にクレジットカードの申請をして、その審査があっさり通ってしまった。最初は普通のカードだったけれど、一年経った今はすでにゴールドになっている。ブラックになるのも時間の問題かもしれない。何せ、わたしの銀行口座には数十億円という金額が常に入っているし、月に五千万円の収入もあるのだ。……それはさておき。 さすがは高級スーパーだけあって、このお店の商品はどれもいいものばかりだけれどその分値も張るので、合計金額がとんでもない数字になっていた。そこで、支払いをクレジット決済にしてもらったのだった。「でも心配しないでね。そんなに無駄使いはしてないから。特に自分のためには」「じゃあ他の人のためには使ってるってことですよね? あまり気前がよすぎるのもどうかと思いますけど」「うん……そうだよねぇ。分かった。忠告どうもありがと」
last updateLast Updated : 2025-02-26
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次のステップって……? PAGE8

 実はわたし、これでも高額納税者だし、児童養護施設やDV被害者のシェルターなどにも毎月寄付をしている。それが恵まれた境遇に生まれついた人間の務めだと思っているから……と言ったらちょっと高飛車に聞こえるかな?「――さて、今度は貢のプレゼント買いに行こう。腕時計、どこで買おうか?」 わたしたちはベンチから立ち上がり、次の目的地へ向かおうとした。 腕時計は彼が誕生日プレゼントに「これが欲しい」とリクエストしてくれたもので、ファッションウォッチよりもスポーツウォッチのようなものがいいと聞いていた。その方が丈夫で壊れにくいし、防水加工もされているから、と。 ボスのタイムスケジュールも管理している秘書にとって、腕時計は必需品なので、わたしもそのリクエストを即採用したのだ。「そうですね……。検索した限りだとこの施設にはなさそうなので、一度出た方が――」「あっ、絢乃タンだぁ♪」 彼との会話に気を取られていると、すぐ近くからわたしの名前を呼ぶ女の子の声がした。「あ、唯(ゆい)ちゃん! こんなところで会うなんて珍しいね」 赤い伊達(だて)メガネをかけて短めのポニーテールを揺らしながら手を振ってくれた彼女は、三年生で初めて同じクラスになった阿佐間(あさま)唯ちゃんだった。メガネのフレームと同じ赤いチェック柄のシャツワンピースとニーハイソックスでおめかししていて、いかにも「今日はデートです」と言わんばかりだった。「……あの、絢乃さん。この方、お友だちですか?」「うん。四月にできたばっかりの親友で、阿佐間唯ちゃんっていうの。阿佐間先生のお嬢さんだよ」「阿佐間先生って、今年度からウチの顧問になられた弁護士の?」「そうそう。わたしもね、始業式の日に唯ちゃんから『ウチのお父さんがお世話になります』って言われた時はびっくりしたんだよー」 わたしが貢に説明していると、彼女も向かいで「うんうん」としきりに頷いていた。「で、この人は絢乃タンのカレシさんだよね? 唯も里歩タンから聞いてるよー♪」「そうだよ。わたしの彼、桐島貢さん。会長秘書をしてくれてて、すごく頼りになるの」「初めまして、唯さん。桐島です。絢乃さんとお付き合いさせて頂いてます」「どうも、初めまして☆ 阿佐間唯で~す♪ ウチの父がお世話になってますっ」 バカみたいにかしこまって自己紹介をした貢に、唯ちゃん
last updateLast Updated : 2025-02-26
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次のステップって……? PAGE9

「…………なんだか、唯さんって個性的なお友だちですね」「唯ちゃんはアニメのオタクなの。貢、お願いだから引かないでね……?」「引きませんよ。僕は偏見なんてありませんし、大好きな絢乃さんの大事なお友だちですから」 なかなかに強烈な個性を放つ親友に、彼が引いてしまわないか心配だったけれど。「引かない」と断言してくれた彼は本当に器の大きな人だと思った。「――ところで、唯ちゃんは今日デート?」「うん♪ 浩介(こうすけ)クンと初めてのデートなんだぁ♡ 三階のシネコンで映画観るの」「そっか」 浩介さんというのが唯ちゃんの彼氏さんの名前で、一つ年上の大学生だと聞いた。ちなみに二人の共通点は、同じアニメ作品が好きだということらしい。「そういう絢乃タンたちは? やっぱりデート?」 唯ちゃんが小首を傾げながら訊ねた。 この日のわたしの服装は、七分袖のTシャツの上から薄手のカーディガンを羽織り、スキニーデニムに淡いピンク色のフラットパンプスというちょっとカジュアルダウンした感じだった。貢と一緒だったからデートだと分かったんだろうか。「うん、まぁね。彼のお誕生日がもうすぐだから、今日彼のお家で早めにお祝いしようってことになって。お料理の材料とかプレゼントとか一緒に買いに来たの」「そっか、お家デートかぁ。いいなぁ……。あ、シネコンっていえば、今日小坂リョウジさんがそこで映画の舞台挨拶するんだって。里歩タンなら喜んで観にきてたかなぁ」「小坂さんが? 里歩も来なかったと思うよ。ファンやめたらしいから」「そうなんだ?」「うん。――あ、ゴメンね唯ちゃん。わたしたち、そろそろ行くから。また連休明けに学校でね」「唯さん、失礼します」「は~い☆ じゃあね、絢乃タン」 ――彼女はその後、待ち合わせをしていた彼氏さんから連絡があったらしく、スマホの画面を見ながらフラフラと歩いて行った。「――絢乃さん。小坂リョウジさんって」「そう。あの人、女性にだらしないっていうか、節操ないらしくて。わたしは別にファンでも何でもなかったし、貢以外の男性は眼中になかったからね」「絢乃さん……」 わたしが彼の腕を取ってニコリと微笑むと、彼はまるで思春期の男の子みたいに頬を真っ赤に染めていた。「……ん!?」「どうしたの、貢?」 ――急に険しい表情を浮かべた彼に、わたしは首を傾げた。「
last updateLast Updated : 2025-02-26
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次のステップって……? PAGE10

 ――時計店を何軒か回って貢のプレゼントを購入し、代々木にある彼のアパートに到着したのは午後三時半ごろだった。「へぇ……。貢ってけっこういいところに住んでるんだね」 重いエコバッグを提げた彼に先導されて、彼の部屋がある二階への外階段をゆっくり上がりながら、わたしは初めて訪れた彼の住まいの感想を言った。 築二十年だというコンクリート二階建てのアパートは白を基調としたモダンな造りで、全部で八部屋入っているらしい。彼の部屋は二〇四号室で、間取りは1(ワン)K。代々木という土地柄もあって、家賃は月十二万円ということだった。「ありがとうございます。このアパートには社会人になった年から住んでるんですよ。家賃は高いですけど、その分住み心地はいいんで」「そうなんだ……。ウチの会社、経理に申請したら家賃補助も出るからね。家計が苦しいなら一考の余地はあると思うよ」「そうですね、家賃補助を受けられたら生活もだいぶ楽になるでしょうね。考えてみます。――さ、狭い部屋ですがどうぞ」 彼は鍵を開けて、わたしを住まいへ招き入れてくれた。「おジャマしまーす。……へぇ、キレイに住んでるね。慌てて片付けたようには見えないなぁ。普段から片付いてるって感じ」 わたしはまじまじと室内を見回してみた。リビング兼寝室兼ダイニング、という感じのお部屋には座卓とベッドが置かれているだけだったけれど、収納スペースに恵まれているおかげで物が散らかっておらず、広々と感じられた。 キッチンとトイレ・洗面所・お風呂が一体となったユニットバスはそれぞれ居住スペースから独立した形で配置されていて、使い勝手もよさそうだった。「男の人のお部屋って、もっとゴチャゴチャしてるイメージしかなかったから。さすがは几(き)帳(ちょう)面(めん)なA型って感じだね」「…………お褒め頂いて恐縮です」 彼は照れたようにボソッと言って、「バッグはベッドの上にでも置いといて下さい」とわたしに荷物の置き場所を伝えた。「キッチンはこっちです。エプロンもちゃんとありますからね。兄のなんでちょっと大きいかもしれませんけど」「うん、分かった。ありがと」 キッチンは玄関を入ってすぐ右側にあって、IHで調理するタイプの二口(ふたくち)コンロがついていた。調理器具も意外と揃っていて、圧力鍋まであったのにはわたしも驚いた。
last updateLast Updated : 2025-02-26
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次のステップって……? PAGE11

「ここにある調理器具って、貢が買い揃えたの? っていうかお料理するの?」 デニム地のエプロンを着けながら訊ねたわたしに、彼は「いえ」と首を振った。「これ、ほとんど兄の持ち込んだものですよ。時々ここに夕飯を作りに来てくれるんで。僕も兄の手伝いで下ごしらえとか簡単なことくらいはできますけど、ちゃんとした料理はあまり得意じゃないですね」「え、そうなの? じゃあ、毎日のゴハンは?」「週末は近所にある実家で食べてます。平日は……兄に作ってもらったり、外食やコンビニ弁当とかですかね」「あらら、なんか栄養バランスが心配な食生活だね……。今はわたしと一緒にお食事して帰ってるからまだマシかな」 何だか侘(わ)びしい彼の食生活に、わたしは軽いショックを受けた。彼の場合、栄養管理はご実家ありき、ご家族ありきだったようだ。というか、ひとり暮らしの若いサラリーマンの食生活なんてこんなものだろうか?「そうだ! よかったら、これからはわたしも時々ここでゴハン作って一緒に食べようか? お休みの日だけでもよかったら」「えっ、いいんですか!? すごく嬉しいし助かります!」 わたしの提案に、彼は大喜びした。「――じゃあ、カレー作り始めよっか。まずは野菜の仕込みからね。貢には……ニンジンとジャガイモの皮むきをやってもらおうかな。ピーラーでも包丁でも、やりやすい方で。手、ケガしないように気をつけてね」「分かりました」 彼に手伝ってもらいながら、わたしは手際よく材料を炒め、お米を洗って炊飯ジャーにセットし、カレーの隠し味となるリンゴをすりおろし、手早くサラダを作った。 そして煮込み始めて三十分後(下ごしらえやら何やらでゆうに一時間以上を費(つい)やしていたのだ)、カレーライスのお皿とサラダボウル、ケーキのお皿などが並ぶ座卓を二人で囲んで乾杯をした。飲み物は二人ともサイダーだ。飲み物は二人ともサイダーだ。わたしは炭酸が苦手ではあるけれど、飲めないこともないのだ。「――では、ちょっと早いけど、貢のお誕生日を祝して……」「「カンパ~イ!」」 グラスの中身に口をつけてから、カレーを食べ始めた。「……うん! お肉ホロホロになってる~♡ 美味しくできたねー。辛さもちょうどいいし」「ええ、美味しいです。ジャガイモを大きめに切ったのが正解でしたね。あと、飴色になるまで炒めた玉ねぎが効いて
last updateLast Updated : 2025-02-26
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次のステップって……? PAGE12

 首を傾げた彼に対して、わたしは思いっきり直球を投げた。「どう……って。そりゃあ僕にだって結婚願望くらいはありますよ。その相手が絢乃さんなら言うことなしですけど……。まだ早すぎるんじゃないかと。絢乃さんはまだ高校生ですし、喪中でもあるわけですし」「うん、それはわたしも分かってる。もちろん今すぐにどうこうっていう話じゃないけど、なるべく早い方がいいな、って」「…………それは、分かりましたけど。僕でいいんですか? 自分で言うのもナンですけど、僕の家はそんなにいい家柄というわけでもないですよ? ……まぁ、そこそこ裕福ではありますけど」「別に家柄で結婚するわけじゃないもん。そこは気にしなくていいよ。それに、貴方はもうすでに、わたしのお婿さん候補の筆頭にいるから」 初めて言葉を交わしたあの夜、彼が「自分を婿候補に入れてほしい」と言った時点で、もう候補には入れていた。それが半年経ったその時点では、他の候補がいなかったということもあって彼が婿候補のトップになっていたのだ。「わたし、本気だよ」 その言葉に嘘いつわりがないことを証明するため、わたしは初めて自分から彼にキスをした。それまでのわたしはただ受け身でいるだけだったけれど、そろそろ自分からそういう行動に出るべき段階に来ていると思ったのだ。「……これで分かってもらえた? わたしが本気だってこと」「はい。ですが…………」 彼はそこで言葉を切り、そして――。「ん……っ」 わたしにキスを返してきた。何度も何度も繰り返し唇を重ねてきた。「……貢って、キス上手いよね」「そんなことないですよ」 彼は謙遜するけれど、やっぱり八年の年の差と、それなりに恋愛経験もあるからだとわたしは思った。「僕も絢乃さんのことが大好きで、すごく大事な人だとは思ってますけど。すぐには結婚とか考えられないんで、少し考える時間を下さい」「…………うん、分かった」 彼がすぐに結婚に踏み切れない理由は、わたしの年齢や家柄の違いだけじゃない。もしかしたら彼自身にもあるのかもしれない、とわたしは思った。 やっぱり悠さんがおっしゃっていたとおり、彼はまだ過去の恋愛で起きた何かをまだ引きずっているんだろうか、と。
last updateLast Updated : 2025-02-26
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過去なんて関係ない! PAGE1

 ――貢に「考える時間がほしい」と言われてから一ヶ月が経過した。 六月に入り、学校の制服も衣更えをした。。夏服は少しピンクがかった半袖のブラウスに白地に赤のタータンチェック模様が入ったプリーツスカート、それに冬服と同じ赤いリボン。名門女子校らしく、洗練されたデザインだ。 わたしの学校生活では最後の夏服シーズン突入で、貢は初めて見るわたしの夏の制服姿も「可愛いですね。よくお似合いです」と言ってくれた。それは嬉しかったのだけれど、わたしの気持ちは梅雨(つゆ)時のジメジメと、彼に一ヶ月も待たされ続けていたモヤモヤであまりスッキリしなかった。「だからって、こればっかりは返事を急かすわけにもいかないしなぁ……。どうしたもんかな」 彼が給湯室へコーヒーの準備をしに行っていて一人になったのをいいことに、わたしはデスクに頬杖をついて盛大なため息をついた。 結婚というものは、わたしだけの意思で決められるわけじゃない。彼の気持ちを無視しては進められない。だから、彼がそこのところをどう考えているか、キチンと話をして確かめたかった。でも、彼が「考えさせてほしい」と言っている以上、なかなかそのタイミングがつかめずにいたのだ。 もちろん交際そのものは順調で、彼と別に気まずい空気になっていたわけでもないのだけれど。今ひとつ前に進めないというか、ちょっとした引っかかりがあるというか、何だかもどかしい気持ちになっていたことは確かだ。「貢、一体何が引っかかってるんだろ? やっぱり過去に何かあって、それを未だに引きずってるのかな……」 いくら気になるからといって、彼に正面切って「過去に何があったの?」とは聞きづらかった。彼のプライバシーにズカズカと土足で踏み込むようなことはしたくなかったので、彼の方から話してくれるのをひたすら待つしかなかった。「もしくは外堀から攻めるか……。悠さんに訊いたら教えてくれるかな?」 わたしは勢い込んでスカートのポケットからスマホを取り出し、悠さんにLINEで訊ねてみようと思い立ったけれど、「ダメダメ!」と正気に戻った。よそ様の兄弟ゲンカの種を作り出してどうするの!? ともう一人のわたしに叱られた。「……やっぱりやめた」 もう一度ため息をついてスマホをポケットに戻し、PCに視線を戻した。「――お待たせしました、会長。今日は蒸し暑いので、アイスカフェ
last updateLast Updated : 2025-02-26
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過去なんて関係ない! PAGE2

「……美味しい。市販品とは薫りが違うね」「畏れ入ります。――ところで絢乃さん、ひとつお願いしたいことがあるんですが」「ん? なぁに?」 ……来た。この切り出し方は会長秘書・桐島さんではなく彼氏モードになっているということだ。「ここでは何なので、応接スペースで。……プライベートな話なので」「うん、分かった。じゃあ移動しよう」 応接スペースのソファーセットに向かい合わせて腰を下ろすと、わたしは彼に話を促した。「――で? わたしにお願いって?」「ええとですね……。そろそろ、ウチの両親に絢乃さんのことを紹介したいんですけど。大丈夫でしょうか?」「えっ? それは別に構わないけど……。もしかして、結婚考えてくれる気になった?」「それはあの……、まだ追い追いということで」「……なぁんだ」 わたしは期待を込めて彼に確かめたけれど、期待外れな返事が返ってきたのでガックリと肩を落とした。「あの、それは別としてですね。絢乃さんには僕の〝彼女〟として両親に一度会ってほしいんです。……このごろ、週末は絢乃さんが食事を作りに来て下さるようになったので、両親が淋しがっているというか。僕はここ数年恋愛そのものから遠ざかっていたので、親が心配しているようなんです。それで、一度顔合わせしてもらって、安心させたくて」「はぁ、なるほどね。つまり、ご両親に『こんな自分にもちゃんと彼女ができたんだよ』って、わたしをご両親に見てほしいわけだ」「そういうことです。……お願いできますか? ウチの両親はいつでも構わないそうなので、日程は絢乃さんのご都合に合わせますから」 心優しくてご両親思いな彼の気持ちも分かるし、何よりわたしも彼のご両親には一度お会いしたいと思っていた。母には交際を始めた時に報告できたけれど、彼のご両親にはまだご挨拶すらしていなかったのでそれは不公平だと感じていたし。「いいよ。わたしも、貴方のご両親には一度お目にかかりたいなって思ってたから」「本当ですか!? ありがとうございます!」「じゃあ、いつがいいかな? 早い方がいいよね。今月は……四週目に修学旅行があるから、その期間以外ならいつでも大丈夫だよ」 わたしはスマホでスケジュール帳アプリを開き、予定を確認した。「今週末、土曜日あたりでどうかな?」「はい、それで大丈夫だと思います。両親にもそう伝えておきま
last updateLast Updated : 2025-02-26
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過去なんて関係ない! PAGE3

「でもね、わたし、冗談抜きに貴方とはいい夫婦になれそうな気がしてるの。貴方の部屋のキッチンに二人で立ってお料理してるところなんか、まるで新婚カップルみたいだなぁっていつも思ってるもん」「…………」「あくまでわたしの勝手な妄想だから、気にしないで?」 リアクションに困っていた彼にそうフォローを入れることで、あまり真剣に悩まないでねというニュアンスを言葉の端に込めた。「……あの、先ほどのお話なんですが。両親は多分、僕が絢乃会長とお付き合いさせて頂いていることを知っていると思うんです。兄がバラしていると思うんで」「そうなの? ……うん、まぁ、あのお兄さまならあり得るね」「ああ見えて案外口は堅い方なんで、他の人たちにペラペラ喋りまわっていることはないはずですけど。両親になら話しているかな……と」「なるほどね。じゃあサプライズなんてやってもあんまり効果がないわけか」「そういうことです」 もし仮に悠さんがご両親にわたしの人となりを話していたら、ご両親もわたしがどういう人間かをよくご理解されたうえで会って下さるということだ。もちろんサプライズなんて何の意味もなくなる。「よぉーく分かりました。……ところで貢、貴方が恋愛はできても結婚に踏み切れない理由って何なの?」「……えっ?」「わたしがまだ高校生だからとか、喪が明けてないからとか以外にも何かあるんじゃない? たとえば貴方自身に」「……あの、それは」「もしかして、貴方の過去と何か関係ある?」「……!」 思いっきり単刀直入な訊き方に、図星を衝かれた彼は大きく目を見開いた。それはこの問題の核心に触れたということであり、わたしは無意識に彼の心の傷を抉(えぐ)ってしまったらしい。「…………ごめん、貢。わたし、訊いちゃいけないことを訊いちゃったみたい。答えにくいことなら、無理に答えなくていいよ。貴方が話したくなったタイミングでいい。ちゃんと話を聞かせてほしいな。それまでは、わたしもこれ以上突っ込んで訊かないようにするから」「……はい。お気遣い、ありがとうございます。――アイスカフェオレ、氷が溶けて薄まってしまってますね。淹れ替えてきましょうか」 気まずくなった空気を変えようとしてか、彼は水滴だらけになったグラスに視線を移した。「うん。ありがと。じゃあお願いしようかな」 わたしは薄まったグラスの中身を
last updateLast Updated : 2025-02-26
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