翌朝、藤堂沢が目を覚ますと、九条薫の姿はなかった。ウォークインクローゼットにいるだろうと思い、身軽に起き上がり、歩いて行った。ハンガーには、彼が今日着るスーツとシャツがかかっていて、それに合わせた腕時計とカフスボタンもきちんと選んであった......しかし、九条薫の姿はない。藤堂沢は、彼女が1階で朝食の準備をしているのだろうと思った。身支度を整え、彼は軽快な足取りで1階へ降りた。1階のダイニングルームでは、使用人が食器を並べていた。焼きたてのクロワッサンが二つと、彼がいつも飲むブラックコーヒー。英字新聞は左側に置くように、と九条薫からいつも言われている。藤堂沢が降りてくると、使用人は「おはようございます、社長」と丁寧に挨拶した。藤堂沢は椅子に座り、新聞に目を通しながら、「薫は?」と尋ねた。使用人は一瞬たじろぎ。しばらくして、「社長は奥様のことをお尋ねですか?奥様は朝早くお出かけになりました。ご実家のお母様のお宅にお泊りになるそうです」と答えた。藤堂沢は穏やかな口調で「そうか」と言った。それからコーヒーカップを手に取り、一口飲むと、口元に笑みが浮かんだ。彼は、九条薫が恥ずかしがっているのだろうと思った。昨夜、彼女に気持ちを伝えた後、彼女は特に何も言わなかったが、キスをした時は......反応があった。藤堂沢は、彼女の潤んだ瞳と震える体を覚えていた。藤堂沢は朝食を終え、会社へ行く準備をした。車に乗り込み、シートベルトを締めると、スマートフォンを取り出し、九条薫からメッセージが来ていないか確認した。もちろん、九条薫は何も送ってこなかった。藤堂沢は電話をかけることにした............九条家。九条大輝は既に退院し、これからは週に一度、リハビリセンターに通院すればいいそうだ。彼の容体は順調に回復していて、不幸中の幸いだった。ただ、彼はいつも自室に閉じこもっていた。九条薫は佐藤清と一緒に餃子を作っていた。佐藤清は優しく、「そのうち、お父様もきっと分かってくれるわ」と慰めた。九条薫は頷いた。佐藤清は餃子を包みながら九条薫の様子を窺い、顔色が良さそうなのを見て、藤堂沢は最近、彼女をあまり怒らせていないのだろうと思った。それから彼女は少し考えてから尋ねた。「この前噂になった、小林という
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