悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

54 チャプター

21話 オリビアの反撃 1

 いきなり手首を掴まれたメイドは、ギョッとした。今迄何を言われても言い返しもせず俯いて通り過ぎていた相手だけに、受けた衝撃は計り知れないものだった。「な、何をするのですか、オリビア様! 離して下さい!」「それは、こちらの台詞よ。今、あなた達はここの使用人にも関わらず私の悪口を言ったのよ? 一体どういうつもりなの!?」強い口調でオリビアは2人のメイドを交互に睨みつける。「ど、どういうつもりって……」 「それは……」メイド達は口を閉ざす。どういうつもりだと言われても答えようが無い。単にオリビアに嫌がらせしたいだけなのだから。「……もしかして、シャロンから私に嫌がらせをするように命令されているのかしら?」「いいえ!」 「それだけは違います!」オリビアの言葉に必死に首を振る2人のメイド。シャロンはオリビアに嫌がらせをするようにメイド達に指示したことは無い。そのことを知っていたオリビアはあえて、シャロンの名前を口にしたのだ。「そう。なら私に対する暴言は自分たちの意思だったということなのね?」「そ、そう……です……」 「私達の意思です……」観念したかのように俯くメイド。オリビアは未だにメイドの手首を掴んだまま、続ける。「使用人の立場でありながら、貴族である私にそんな態度を取っていいと思っているの? 確かこの屋敷で働いているメイド達は全員、協会からの紹介状を貰って雇用されているわよね。そこに訴えてもいいのよ? 雇い主の家人に暴言を吐いているって。フォード家の名を出せば、あなた達の立場はどうなると思う?」「ええ!? そ、そんな!」 「どうか、それだけはお許しください!」増々メイド達は青ざめる。「そう。どうしても許して欲しいのなら今すぐ私に謝って、二度と罵詈雑言を吐かないと約束してもらおうかしら?」オリビアは掴んでいたメイドの手首を放した。「大変、申し訳ございませんでした!」 「もう二度とこのような真似は致しません! どうかお許しください!」震えながら、頭を垂れる2人のメイド。「本当に反省しているのね? 絶対に二度と言わないと誓える?」「はい! 反省しています!」 「二度と言わないと誓います! だ、だからどうかお許しを……」協会に目をつけられてしまえば、二度と彼女たちはメイドとして雇用して貰えない可能性がある。
last update最終更新日 : 2025-01-06
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22話 オリビアの反撃 2

「あ……シャロン様」「わ、私たちは……」ベッキーとバーサは震えながらシャロンを見つめる。その様子に異変を感じたシャロンは、オリビアを睨みつけると指を差してきた。「ちょっと! 私のメイド達に何をしたのよ!?」「……」けれどオリビアは返事をせずに、踵を返すとダイニングルームへ歩いていく。「え?」まさか無視するとは思わずにシャロンは一瞬目を疑い……すぐに我に返った。「ちょっと! 何無視してるのよ! あんたに言ってるのが分からないの!?」必死で叫ぶもオリビアは足を止めない。「待ちなさいよ! オリビアッ!」名前を呼ぶと、そこでようやくオリビアは足を止めて振り返った。「オリビアじゃないでしょう?」「……え?」「あなたは私の妹よね? それなのにオリビアと呼ぶのはおかしいでしょう?」「はぁ!? 一体何を言ってるのよ!? この家の厄介者のくせに!」愛らしい外見とは裏腹に、シャロンは目を吊り上げてオリビアを怒鳴りつける。シャロンは世間ではまるで天使の様だ等ともてはやされてはいたが、実は裏表の激しい性格だったのだ。この事実を知る者は極わずかで、義母とオリビア。そして一部の使用人達のみだった。当然、兄も父も知るはずもない。シャロンは我儘に育てられたせいもあり、一度怒らせると手の付けようがない娘に成長してしまったのだった。人々の前でいい子ぶり、ストレスの反動がくるとオリビアに当たり散らす……それがシャロンの本性だ。そこでオリビアはシャロンのご機嫌を取って、今まで怒りを鎮めてきたのだが……。(本当に今までの私は何をしていたのかしら。何故こんな我儘妹のご機嫌を取っていたのか自分でも謎だわ)アデリーナによって目が覚めたオリビア。もう、媚を売る彼女はここには存在しない。オリビアはシャロンに向き直った。「あら、久しぶりに怖い顔ねぇ……でもいいの? こんなところで大きな声をあげていると父や兄に聞かれてしまかもしれないわよ?」オリビアはチラリと視線を動かし、ダイニングルームの扉を見つめた。「くっ……! お、お姉さま? 私のメイド達に一体何をしていたのでしょうか?」怒りを抑え、作り笑いを浮かべてシャロンは尋ねてくるが……口元がピクピク痙攣している。「それは、ここのメイド達が私に暴言を吐いたからほんの少し注意していただけよ。そうよね?」その言葉に
last update最終更新日 : 2025-01-06
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23話 綻びる家族 1

「あ……! お、お兄様……!」まさかミハエルに見られていたとは気づかず、真っ青になるシャロン。「シャロン……一体、どうしたんだ? さっきの姿は、まるでお前らしくないじゃないか」ミハエルが尋ねると、オリビアは大げさな素振りで否定した。「いいえ? 今の姿がシャロンの本当の姿ですけど? もしやお兄様は何も御存知無かったのですか? 同じ家族なのに?」「何だって? それは本当の話か?」オリビアの話にミハエルは目を見張ると……。「はぁ!? オリビア! いい加減なこと言うんじゃないわよ!」再び噛みつくように叫ぶシャロン。既に頭に血が上っているシャロンは、まともな思考能力を失っていた。ミハエルの眼前で、本性を現してしまったのだ。「あら? いいの、シャロン。大好きなお兄様の前でそんな態度を取って……ほら、御覧なさい。お兄様ったら……あんなに驚いているじゃないの」「え……あ!!」シャロンは振り向き。呆然とした顔で自分を見つめるミハエルとまともに視線が合ってしまった。その瞬間、一気に冷静さを取り戻す。「あ、あの違うんです! お兄様! こ、これは……そ、そう! 全てお姉さまがいけないんです! 悪いのは私では無く、目の前にいるお姉さまなんです!」シャロンはオリビアを指さし、必死で訴える。「シャロン……」ミハエルには先程のシャロンの激高した姿が頭から離れずにいた。佇んでいるとオリビアが追い打ちをかける。「人を指さし、姉である私を呼び捨てする段階でどちらが悪いか……賢明なお兄様ならお分かりになりますよね?」(賢明……? 俺が賢明だと?)オリビエの言葉に、ミハエルの心が大きく揺さぶられる。ミハエルはオリビアを嫌悪し、無視してきた。オリビアは大好きだった母の命と引き換えに生まれてきたからであった。だが、それは建前に過ぎない。本当の理由は、オリビアに対する劣等感だ。ミハエルはフォード家の長男であり、いずれは家督を継ぐ存在。それゆえ父からの期待は厚く、ミハエルはその期待に応えるために勉強も剣術も必死で努力を積み重ねてきた。剣術の腕前は確かなものになったが、いくら努力してもオリビアに敵わなかったのが勉強だった。優秀な貴族だけが通える難関大学に入学する為、ミハエルは寝る間も惜しんで勉強したが不合格だった。けれど、オリビアは違った。左程勉強する素振りも無
last update最終更新日 : 2025-01-07
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24話 綻びる家族 2

「え!? ち、父上!? いつの間にこちらにいらしたのですか? てっきりまだ寝室にいたのだとばかり思っていましたが?」「そんな話はどうでもいい! ミハエル! シャロンの言ったことは本当か!? お前は、賄賂を払って騎士団試験に合格させてもらったのか!?」父、ランドルフはズカズカとミハエルに近付くと眼前で足を止めた。「どうなのだ! 答えろ!」「そ、それは……」冷や汗を流すミハエルの側で、シャロンが大きな声で頷く。「はい! そうです、お父様! お兄様は先月、屋敷を訪ねてきたフードをかぶった男性にお金を渡していました。私はたまたま近くでその様子を見ていたのでよーく分かっています。『ここに金貨100枚入っている。必ず俺を騎士団試験に合格させてくれ』と、はっきりおっしゃってました!」「何! 金貨100枚だと!?」「まぁ! 金貨100枚!?」ランドルフとオリビアが同時に驚く。何しろ、金貨100枚と言えば大金だ。領地の税収1年分にあたる。「シャロンッ! こ、このバカ!」ミハエルは真っ青になって怒鳴りつけ、シャロンも負けじと言い返す。「バカはどっちよ! 才能も無い癖に騎士団試験を受けようとするからでしょう!」一方、高みの見物をしているのはオリビアだった。本当はシャロンとミハエルの口喧嘩が始まった段階で、退散しようとしたのだが父親の登場で話は変った。(これは何だか面白いことになってきたわね)ワクワクしながら様子を見守るオリビアの前で、今度はランドルフの怒りが爆発する。「ミハエル! その金は一体何処から工面した! いくらお前でも、それほどの貯金があるとは思えぬぞ! もしや……金庫の金に手を出したか!?」「た、確かに少し拝借しましたが……いいではありませんか! その賄賂のお陰で俺は、あの競争率の高い騎士団に入団出来たのですよ!? あそこはとても給料が高いです! すぐに元を取り戻せますよ!」「何だと! 我が家の金庫の金に手を付け、尚且つ卑怯な手を使って騎士団に入団したくせに、開き直るな! このクズ息子め! こんなことなら、オリビアの方がお前よりもまだずっとずっとマシだ!!」(あら、お父様がついに私のことを認めたのかしら?)けれど、今更父親に認められてもオリビアの心には何も響かない。彼女はいつまでも自分を顧みない家族に見切りをつけ、アデリーナを崇拝してい
last update最終更新日 : 2025-01-07
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25話 綻びる家族 3

 4人の視線が一斉にゾフィーに向けられる。ついに家族全員が揃ったのだ。(まぁ、今度はお義母様まで出てくるなんて……これはますます騒ぎになりそうね)オリビアは一歩下がると、騒ぎの行方を見守ることにした。「あなた! 今ミハエルが言っていたことは本当なの!?」ゾフィーは険しい顔で、ヒールをならしながら近づくとランドルフの前で足を止めた。「ち、違う! 彼女はただのウェイトレスで、私は単なる客だ! それだけの関係だ! 断じてお前が考えるようないかがわしい関係では無いからな!」ランドルフは早口でまくし立てる。「何ですって!? いかがわしい関係ですって!!」ゾフィーの顔が増々険しくなる。「そんな! 汚らわしいわ! お父様!」自分のことを差し置いて、父親に文句を言うシャロン。傍観者を決め込んでいたオリビアであったが、さすがに今の台詞には一言物申したくなった。「あら、シャロン。人の婚約者に手を出しておいて、どの口が言うのかしら?」「うるさいわね! オリビアのくせに口を出すんじゃないわよ! 大体あんたに魅力が無いから、ギスランに捨てられたんでしょう! あの男も単純よ。ちょっと笑顔と甘い声ですり寄っただけで、簡単に落ちるんだから!」「シャロン! オリビアに何て口を利くんだ! 大体、ギスランはオリビアの婚約者だ。それなのに手を出すとは……このあばずれめ!」ミハエルは先程オリビアから『賢明なお兄様』と言われたことで、オリビアの肩を持つ。「誰がアバズレよ! こっちだってねぇ、好き好んでギスランに声をかけたわけじゃないのよ! お母様に陰気なオリビアから奪ってやりなさいって言われたからよ! そうでなければあんな男、私が相手にするはずないでしょう!!」噛みつくように叫ぶシャロンに、ギョッとするランドルフ。「シャロン……今の態度は一体何だ? いつもの可愛らしいお前はどこにいったのだ? 仮にもギスランはオリビアの婚約者なのだぞ! まだ15歳の子供が男を略奪など、もってのほかだ!」そして、ついでにゾフィーにも怒鳴りつけた。「大体ゾフィー、そもそもお前が悪い! 自分の娘になんて真似をさせるのだ!」「何ですって!? 自分のことを棚に上げて、どの口で言っているのよ! あなたこそ、年若いウェイトレスの愛人を囲っているくせに! 非の打ちどころの無い妻であるこの私がいながら!
last update最終更新日 : 2025-01-08
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26話 父と娘の心変わり その1

 廊下に2人きりになると、ランドルフがオリビアに笑顔を向けてきた。当然、オリビアの身体に鳥肌が立つ。「オリビア……」「はい、何でしょうか。お父様」背中に悪寒を感じながら返事をする。「他の家族は皆、行ってしまったが2人だけで朝食に行こうか。丁度お前に話したいことがあるしな」「いいえ、結構です」「そうか、結構か……何っ!? け、結構だと!? 今、結構だと言ったのか!? 何故だ!?」「そんなに身体をよろめかせて大袈裟に驚かないで下さい。今の騒ぎで朝食を取る時間が無くなってしまったのです。大学に遅刻する訳にはいきませんし、それに今日は馬車をお願いしないとなりませんので」「そうか……確かに大学に遅刻するわけにはいかんな。何しろ、お前は子供たちの仲で一番優秀な存在だからな」どの口が言うのか、ランドルフは頷きながら納得した素振りを見せる。(全く、どの口が言うのかしら。いきなり豹変して呆れて物も言えないわ)「よし、では大学へ行ってしっかり学んでおいで。お前には期待しているからな」「はい。では馬車を出す許可証を下さい」オリビアは右手を差し出した。「許可証? そんなもの、別に必要無いだろう?」首を傾げるランドルフに、オリビアは大げさにため息をついた。「お父様は、本当に私に無関心なのですね。この屋敷の人達が今まで私にどんな仕打ちをしてきたか御存知無いのですか?」「そ、それは……」心当たりがあるランドルフは俯く。「皆私を馬鹿にしてきたし、御者も馬車を出してはくれないのですよ?」「何と! 馬車すら出してはもらえなかったのか!?」余程驚いたのか、ランドルフは身体をのけぞらせる。「はい、そうです。だから私は自転車通学をしていました。ですが、本日は御覧の通り、雨です。自転車では行けません。という訳で許可証を下さい」「よし分かった、許可証と言わず、オリビアには私の名刺を授ける。さらにサインをしておこう。お前を必ず馬車に乗せるようにとな!」ランドルフはポケットから名詞と万年筆を取り出すと、サラサラとサインをしてメモ書きした。「さぁオリビア! ありがたく受け取るが良い! これで今日からお前は自由自在に馬車に乗れるぞ!」妙に恩着せがましい態度で名刺を差し出してくる父、ランドルフ。「はい、ありがとうございます」オリビアは無表情で名刺を受け取る。以
last update最終更新日 : 2025-01-09
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27話 オリビアの反撃 3

 オリビアはエントランスに向かって廊下を歩いていた。ふと窓を見れば、外は先ほどよりも雨足が強くなっている。(これは酷い降り方ね。服が濡れてしまわないように正面口まで馬車で迎えに来て貰いましょう)そんなことを考えながら廊下を進んでいると、使用人達が大勢集まって騒いでいる姿が目に入った。誰もが話に夢中になっている為、オリビアこもってしまったそうよ」「ミハエル様と口論されたらしいな。珍しいこともあるものだ」「原因はオリビア様らしいわ」「奥様と旦那様も激しい言い争いをしていたみたいだが、結局はオリビア様のせいだって話だ」「え!? あの厄介者のオリビア様が原因なのか?」その言葉に、オリビアは足を止めた。確かにシャロンとのトラブルは自分が発端になったものだが、もとはと言えば彼女の専属メイド2人が吹っ掛けてきたものだ。飛んできた火の粉を振り払っただけで、オリビアは何もしていない。彼らが勝手に自滅していっただけの話だ。オリビアは両手をグッと握りしめ……真っすぐ使用人達を見つめた。周囲に嫌われたくない為に自分を押し殺し、言われっぱなしだった弱いオリビアはもう、何処にもいない。『何故、我慢しなければならないのかしら?』尊敬するアデリーナの声が再び頭の中に蘇る。(そう……私はフォード家の家人。使用人達に言われっぱなしで我慢する私は、もう終わりよ)決意を固めたその時。「お、おい。あそこにいるのはオリビア様じゃないか」フットマンがオリビアの姿に気付き、周囲の使用人達に伝えた。すると1人のフットマンがニヤニヤしながら進み出て来た。「おやぁ? 本当だ。影が薄いんで、全く気づかなかった」そのフットマンはミハエル専属のフットマンで、やはり先ほどのメイド達のようにオリビアに散々嫌がらせをしてきた人物である。「あなたも相変わらず影が薄いわね。話しかけられるまで私も全く存在に気付かなかったわ」オリビアの発した言葉に、その場にいた使用人達が騒めいたのは言うまでもない。「え……? 今、反論した?」 「まさか言い返してきたのか?」 「あのオリビア様が?」 「使用人の顔すら伺っていたくせに……」「な、な、なんだと……!」一方、怒りで肩を震わせているのは影が薄いと言われたミハエルのフットマンだ。「オリビア様、今……俺のこと、影が薄いって言いましたね? 
last update最終更新日 : 2025-01-10
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28話 オリビアの反撃 4

 オリビアがニールに馬車をまわしてくるように命令したことで、使用人達は一斉に騒めいた。「う、嘘でしょう……?」「あのオリビア様が……」「俺たちの顔色ばかり伺っていたのに……」「命令した……?」一方、命令されたニールは信じられないとばかりに目を見開いていた。だが、徐々に怒りが込み上げてきたのだろう。顔を真っ赤にさせて身体を震わせ……。「はぁあああっ!? ふざけないで下さいよ!! 何っで、この俺がオリビア様の為に土砂降りの雨の中、御者に連絡しに行かなくちゃならないんですか!!」「土砂降りだから、行くように命じているのでしょう? だってこの中で一番あなたが適任者だから」「何で俺が適任者なのですか! 冗談じゃない、馬車に乗りたいなら御自分で馬繋場へ行って来れば良いでしょう!? 俺はオリビア様のフットマンじゃない。ミハエル様に忠誠を誓ったフットマンなのですからね! ミハエル様だって俺に絶大な信頼を寄せて下さっているのですから!」日頃から、自分は次期後継者になる人物の専属フットマンなのだと偉ぶっていたニール。家族に無視されているオリビアなど、彼には鼻にもかけない相手だったのだ。「あら、そうなの……」オリビアは何がおかしいのか、クスクスと笑う。その様子に周囲で見ていた使用人達の間に困惑が広がる。「おい、一体オリビア様はどうしてしまったんだ?」「さ、さぁ……?」「あまりに蔑ろにされ過ぎて、どうにかなってしまったのだろうか?」けれど当事者であるニールは不愉快でならなかった。オリビアの態度は自分を馬鹿にしているとしか思えない。「何がおかしいのですか!」もはや、相手が子爵家令嬢だと言う事もお構いなしに怒声を浴びせるニール。「だって、お兄様に忠誠を誓っているって言い切ることがおかしすぎるのだもの。一体どの口が言うのかしらって思えるわ」「はぁ!?」「よくも平気で嘘を言えるわね。兄の信頼を裏切って、部屋から金目になりそうなものを物色して盗んでいるくせに」「……え?」その言葉にニールの顔が青ざめ、周囲にいた使用人達は驚いた様子でニールを見つめる。「何を言ってるのですか! いいかげんなことを言わないで下さい!」「そう。認めないのね。だったら別に構わないわ。兄に報告するだけだから」「ほ、報告ですって!?」「ええ、そうよ。あなたの部屋をくまなく探
last update最終更新日 : 2025-01-11
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29話 オリビアの反撃 5

 オリビアは使用人達と共に、エントランス前でニールが戻って来るのを談笑しながら待っていた。「いや~それにしてもオリビア様、お見事でした。あいつは前から態度がでかくて、気に入らなかったんです」「そう言って貰えると嬉しいわ」フットマンの言葉に、オリビアはまんざらでもない笑みを浮かべる。「あいつ、いつも偉ぶっていたんですよ。オリビア様にやりこめられたときのニールの顔ったらないですよ」「本当に爽快でした!」「私もすっきりしました。ニールは本当に嫌な男でしたから」今や、すっかりオリビエに対する使用人達の態度は変わっていた。「オリビア様、ミハエル様への報告は俺たちに任せて下さい!」万年筆を奪った大柄な男が自分の胸をドンと叩く。「確か、あなたはトビーだったわよね?」「え? 俺の名前も御存知だったのですか?」トビーは首を傾げる。「ええ、この屋敷で働く使用人の名前を家人が覚えるのは当然のことでしょう?」何しろオリビアは抜群の記憶力を持っており、人の顔と名前を覚えるのは得意だったのだ。「すごいです! オリビア様!」「こんなに優秀な方だったなんて……!」使用人達は感動の目をオリビアに向けてくる。「トビー。私は兄の次の専属フットマンとして、あなたが適任だと思うわ」「ええ!? お、俺がですか!?」「ええ。だって真っ先に動いてニールから万年筆を奪ったでしょう? だからよ」「オリビア様……」トビーがオリビアに感動の目を向けた時。――バンッ!目の前の扉が突然開かれ、雨具を身に着けたニールがエントランスの中に飛び込んできた。彼の背後には不満げな顔つきの御者もいる。「オリビア様! どうですか!? ちゃんと御者を連れてきましたよ! これでミハエル様へ告げ口はしないでもらえますよね!?」ポタポタ雫を垂らしながら、訴えるニール。「ええ、そうね。私からは告げ口しないから安心してちょうだい?」そしてニコリと笑みを浮かべる。「あ、ありがとうございます……! オリビア様には感謝いたします! 今後は心を入れ替えると誓います!!」すると、背後にいた男性御者が不満そうに口を開いた。「全く……勘弁してくださいよ。こんな土砂降りの日に馬車を出せなんて。少しは遠慮ってものを知らないんですかね」するとその場に居合わせた使用人達が一斉に御者を責め始めた。「何だとぉ
last update最終更新日 : 2025-01-13
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30話 勝者の? 微笑

 土砂降りの雨の中にも関わらず、使用人達は大学に行くオリビアを見送る為に集まっていた。「それじゃ、みんな行ってくるわね」オリビアは使用人達の顔を見渡す。「はい、行ってらっしゃいませ。ニールのことは、我々にお任せ下さい」トビーが自信たっぷりに頷く。勿論ニールも少し離れた場所に立っているが、あいにくの雨音で彼の耳には届いていない。「私が屋敷に帰って来る頃には、願わくばニールの姿がこの屋敷から消えていることを願っているわ」何しろ、オリビアは散々ニールに馬鹿にされてきたのだ。挙句に彼は盗みも働き、オリビアがミハエルにプレゼントした万年筆迄自分の物にしていたのだから。「ええ、どうぞ我々にお任せください。必ず奴の息の根を止めてさしあげますよ」何とも物騒な台詞を吐くトビーに、周りにいた使用人達は笑顔で頷く。「頼もしい台詞ね。期待しているわ」オリビアは満足げに笑顔を見せると、馬車に乗り込んだ――ガラガラと音を立てて走る馬車の中で、オリビアは外を眺めていた。窓の外は土砂降りの雨で、時折ゴロゴロと雷の音が鳴り響いている。「くそーっ!! 何で、こんな土砂降りの日に馬車を出させるんだよーっ!!」手綱を握りしめて馬車を走らせている御者の叫び声も雷の音にかき消され、当然オリビアの耳には届いていない。「フフフ……今日は荒れた1日になりそうね」オリビアは愉快でたまらなかった。あれ程家族に蔑ろにされ、使用人達から馬鹿にされていた日々が、たったの1日……しかもほんの僅かな時間で全てがひっくり返ったのだから。オリビアを除け者にして、仲良さげな家族はうわべだけの関係だった。家庭内は崩壊し、誰もが抱えていた秘密の暴露。オリビアを無視し、馬鹿にしてきた使用人達からは一目置かれるようになった。「自分の置かれた環境を覆すことが、こんなに簡単なことだったなんて思わなかったわ。これも全てアデリーナ様の助言のお陰ね」早く会って、今朝の出来事を報告したい……。オリビアはアデリーナの顔を思い浮かべるのだった――**** 馬車が大学内の馬繋場に到着し、オリビアは馬車から降りた。この場所は屋根があるので、濡れずに乗り降りできるのだ。「御苦労様。授業が終わる頃、またここに迎えに来てね。16時頃を目安に来てもらえればいいから」「はぁ!? 帰りもこの土砂降りの中、迎えに来いっておっ
last update最終更新日 : 2025-01-13
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