All Chapters of 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました: Chapter 11 - Chapter 20

54 Chapters

11話 苛立つ義母

 オリビアは自分の部屋に戻ると机に向かい、カバンから書類を取り出した。この書類はアデリーナから教えてもらった物で、大学院入学届の申請書だった。優秀な学生は無償で大学院に進学することができ、さらに寮に入れば生活の面倒も見てくれるという素晴らしい内容が記されている。アデリーナと別れた後、学務課に寄って貰ってきたのだ。「父も兄も、女の高学歴を良く思っていないわ。当然大学院の進学なんて反対するに決まっている。大体卒業後はギスランと結婚させて進学もさせないつもりなのだから」……いや、そもそもギスランは自分と結婚する気があるのだろうか? 異母妹のシャロンと親密な仲である状況で……。そんな事を考えながら、オリビエは書類の記入を始めた――****一方その頃……。「聞いて下さい、あなた!」ゾフィーはノックもせずに乱暴に扉を開けると、夫――ランドルフの書斎にズカズカと入ってきた。その非常識な振る舞いにランドルフは眉をひそめる。「何だ、ゾフィー。随分と騒がしくしおって。見ての通り、仕事の書類がたまっていて今忙しいのだ。話なら後にしてくれ」「いいえ! 聞いていただきます。オリビアが私に歯向かったのですよ! 生意気にもあのオリビアが私に挨拶もせずに無視したたのですよ!」悔しさをにじませながら机を叩くゾフィー。「だが、お前の方こそ今までオリビアを無視してきただろう? いつもお前に声をかけても無視されるから、オリビアも挨拶するのを諦めたのだろう。別にいいではないか。あんな娘など、気にする価値もない」あまりにも呆気ないランドルフの態度にゾフィーは苛立ちを募らせた。「何を言っているのです! それだけではありません! 何故挨拶をしなかったのか問い詰めたら謝るどころか、生意気にも私に言い換えしてきたのですよ!」「何? オリビアがお前に言い返してきたのか? 確かにそれは由々しき事態だな……」「ええ。だから今すぐオリビアの部屋に行って、あなたから、お説教を……」「イヤ、それは無理だな」「……は? あなた。何をおっしゃってるの?」「だから今は忙しいのだと言ったばかりだろう? お前にはこの書類の山が見えないのか?」「ですが、こういうことは早めに説教するべきです! また憎たらしい態度をとられる前に!」「いいかげんにしろ! ここ最近目の回るような忙しさなんだ! 説教な
last updateLast Updated : 2025-01-01
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12話 意地悪メイドの企み

 18時半を少し過ぎた頃のこと。ゾフィー付きのメイドが厨房で、料理長と話をしていた。「え? 今、何と言ったんだ?」料理長が怪訝そうな表情を浮かべる。「だから今夜の食事、オリビアにはスープとパンだけを出すようにって言ってるのよ」仮にも伯爵令嬢であるオリビアを呼び捨てにするこのメイドはゾフィーから格別に可愛がられている。先程オリビアを睨みつけていたのも、このメイドだ。彼女はゾフィーに気に入られているのをいいことに、使用人の中で尤もオリビアを軽視していたのだ。「これでも俺は、この屋敷の厨房を任されているんだぞ? その俺に使用人以下の料理をオリビア様に出せって言うのか?」料理長としてプライドが高い彼は、この提案が面白くないので不満げな顔を浮かべる。「そうよ、これは奥様からの命令なの。今日、オリビアは生意気な態度を奥様にとったのよ。その罰として、今夜の料理はスープとパンだけにするようにって命じられのよ」本当はそんなことは言われてなどいない。けれど、このメイドは点数稼ぎの為に嘘をついた。1人だけ貧しい食事を与えて、身の程を分からせようと企んだのだ。「奥様の命令なら仕方ないか。分かった、スープとパンだけをオリビア様に提供すればいいんだな?」「ええ、そうよ。分かった?」「何処までも横柄な態度を取るメイドに、料理長は素直に従うことにしたのだった。そして、その様子を物陰で見つめていたのは専属メイドのトレーシー。(た、大変だわ……! オリビア様のお食事が……!)トレーシーはメイドと料理長が交わしたやりとりの一部始終を目撃すると、踵を返してオリビアの元へ向かった――****「大変です! オリビア様!」トレーシーはオリビアの部屋へ駈け込んできた。「トレーシー、そんなに慌ててどうしたの?」「それが……」トレーシーは自分が厨房で見てきたこと全てを説明した。「ふ~ん……そう。義母は、自分のお気に入りのメイドを使ってそんな真似をしたのね?」「どうなさるおつもりですか? オリビア様」まだ年若いトレーシーはオロオロしている。「そうね……」今迄のオリビアなら家族に嫌われたくない為に、どんな処遇も受け入れただろう。けれど憧れのアデリーナに指摘されて目が覚めたのだ。『何故、我慢しなければならないの? 家族に媚を売って生きるのはもう、おやめなさいよ』
last updateLast Updated : 2025-01-01
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13話 思っていたのと違う

「それではトレイシー、行ってくるわね」自転車にまたがったオリビアが、外まで見送りに出てきたトレイシーに笑顔を向ける。「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ。必ずオリビア様に言われた通り、実行したしますのご安心下さい」「ありがとう、よろしくね」オリビアは黄昏の空の下、自転車に乗って町へと向かった。「お気をつけてー!」トレイシーは姿が見えなくなるまで手を振り続けた――**** オリビアが町へ到着した頃には、すっかり夜になっていた。ガス灯が照らされ、オレンジ色に明るく照らされた町並みは、いつも見慣れた光景とは違い、新鮮味を感じられる。それでもまだ時刻は19時になったばかりなので、多くの老若男女が行き交っている。「すごい……夜の町って、こんなに賑わっていたのね」自転車を押しながら、オリビアは目当ての店を探して歩く。彼女が探している店は、最近学生たちの間で話題になっている店だった。「女性一人でも気軽に入れる店」を謳い文句に、まだ若い女性オーナーが経営している店だと言う。『内装もお洒落で、女性向きのメニューが豊富』と、女子学生たちが騒いでいたのを耳にしたことがある。その時から機会があれば一度、行ってみたいと思っていたのだ。「確かお店の外観は、レンガ造りの建物に紺色の屋根って言ってたわね。そして店の名前は……」すると、前方に赤レンガに紺色屋根の建物を発見した。入り口には立て看板もある。「あれかもしれないわ!」オリビアは自転車のハンドルを握りしめると、急ぎ足で向かった。「この店だわ……『ボヌール』。間違いないわ」店の名前も事前情報で知っていた。窓から店内を覗き込んでみると20人程の客がいいて、全員オリビアと同年代に思えた。客層が若いと言う事に後押しされたオリビア。早速店脇に邪魔にならないように自転車を止めると、緊張する面持ちでドアノブを回した。――カランカランドアベルが鳴り響くと中にいた何人かの客がこちらを振り向き、緊張するオリビア。けれどすぐに視線が離れたので、ゆっくり店内に足を踏み入れた。店内にいた客は男女合わせて半々というところだった。けれど、店に1人で来たのはオリビアだけのようだった。(え? 女性一人でも気軽に入れるお店と聞いていたけど……何だか思っているのと違うわ)しかし、今更店を出ることも出来ない。オリビアは覚
last updateLast Updated : 2025-01-02
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14話 出会い

「あ、あの……?」見覚えが無く、首を捻ると青年は笑顔になると向かい側の席に座って来た。「君、1人でこの店に来たのかい? 1人で食事なんて味気ないだろう? 俺も1人なんだよ。良かったら一緒に食事しよ?」「い、いえ。結構です」身の危険を感じたオリビアは首を振る。「まぁ、そう言わずにさ。食事なら俺が御馳走してあげるから」そして男性客は突然、左手首を掴んできた。「え!? ちょ、ちょっとやめてください!」手を振り解こうとしても、力が強すぎて敵わない。周囲にいた客は騒ぎに気付いていも、誰も助けようとはしない。その時――「お待たせいたしました」ウェイターが突然大きな声をかけてきた。「お、おい! いきなり驚かすなよ!」男性客が非難すると、ウェイターは鋭い眼差しで男性客を睨みつける。「俺はこの店のオーナーで、彼女の知り合いだ。出入り禁止にされたくなければ、勝手な真似をしないでもらおうか?」「う……わ、分かったよ!」その目つきがあまりにも鋭かったので、男性客はたじろぎ……周囲の冷たい視線に気づいた。「く、くそっ!」バツが悪いと感じた男は逃げるように店を飛び出して行ってしまった。「ふん。所詮、いいとこの貴族だな。あれくらいのことで逃げ出すとは」扉を見つめ、ため息をつくウェイターにオリビアは礼を述べた。「あ、あの……ありがとうございます。おかげで助かりました」「こんな目立たない席で、1人でいると今みたいなことになるかもしれない。カウンター席に来た方がいいな。こっちに来いよ」それはおよそ客に使うとは思えない、乱暴な口調だった。「はい……分かりました」青年に言われるままにカウンターに連れられてきたオリビアは席に着いた。「それで、何にするんだ?」「え? ええと……ディナープレートをお願いします」「分かった」ウェイターは頷くと、カウンターの奥に消え……少し経つと再び戻ってきた。「すぐに作るように注文入れてきた。だから食べ終えたらさっさと帰れよ。大体、何で女1人で来るんだよ」「え? で、でもこのお店は女性1人でも気軽に入れるお店って聞いていたんですけど? しかも女性オーナーだって……それなのに、あなたがオーナーってどういうことですか?」「……あぁ、それでか」何処か納得した様子で青年は頷き、続けた。「それは、あくまで朝から夕方までの
last updateLast Updated : 2025-01-02
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15話 騒がしい食卓 1

 一方その頃―― フォード家ではオリビアを除く全員がダイニングルームに集まり、席に着いていた。そして給仕たちにより料理が運ばれ、それぞれの前に置かれていく。そのどれもが見事な物だった。「ふむ。今夜の料理も素晴らしいな」ランドルフが満足そうに頷く。彼は美食家であり、料理に一切の妥協を許さないことで貴族の仲間同士に知れ渡っているほどだったのだ。「ええ、そうね」「今夜も美味しそうだ」「楽しみだわ~」家族3人も嬉しそうに料理を見つめていたその時。「……おい、何だ? その粗末な料理は」ランドルフがまだ空席のオリビアのテーブル前に置かれた料理を見て、眉をひそめる。置かれているのは具材の無いスープに、パンのみだった。「フォード家で、このような貧しい料理を出すとは……一体どういうことだ!?」例え冷遇されている娘とはいえ、美食家のランドルフにとって目の前で粗末な料理が出されることは許し難いことだったのだ。ランドルフの怒声に給仕のフットマンは震えあがった。「あ、あの……そ、それは……料理長の指示でして……」「何だと!? では、その料理長を今すぐ呼んで来い!」「はいぃっ! た、直ちに!」フットマンは駆け足で厨房へ向かった。「……全く、いったいどういことだ? 私の前であのような料理出すとは不快い極まりない」苦虫を潰したような顔になるランドルフ。「ええ、そうね。一体料理長は何を考えているのかしら?」まさか自分のメイドの仕業とは思いもしないゾフィーは首を傾げる。「不愉快な料理だな」長男のミハエルは顔をしかめ、シャロンは無言で自分の髪の毛をいじっている。「お待たせいたしました!!」そこへ先程のフットマンが、料理長を連れて戻って来た。「あ、あの……旦那様。私に何か御用があると伺ったのですが……」ここへ来るまでに、ある程度のことは聞いて来たのだろう。青ざめた顔の料理長が恐る恐る尋ねてきた。「お前が、あの料理を出すように命じたのか?」鋭い口調でランドルフが尋ねる。「はい、そうですが……」「何故、私の前であのような粗末な料理を出したのだ!」「そ、それは奥様付きのメイドが言ってきたのです! 本日、オリビア様が奥様に失礼な態度を取ったので、罰として夕食はパンとスープのみにするようにと! 奥様がそのように命じられたそうです!」火の粉が飛ん
last updateLast Updated : 2025-01-03
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16話 騒がしい食卓 2

「あ、あ、あの……わ、私に何か御用でしょうか……?」全身をガタガタと震わせ、青ざめたメイドが怯えた様子で現れた。「お前か! 私の前にくだらない料理を出させたのは!」「ドナッ! よくも私の名前を使って、勝手な振舞をしてくれたわね! いったいどういうつもりなの!?」ランドルフとゾフィーの怒声がメイドのドナに降り注ぐ。「あ……そ、それは……」すっかり涙目になっているドナ。皆に喜ばれると思っての行動が裏目に出てしまうとは思わず恐怖で震える。特に可愛がってもらえていたゾフィーからの叱責はあり得ないものだった。「さっさと答えろ!」「答えなさい!!」2人の怒りの声は、しんと静まり返ったダイニングルームに反響した。「も、申し訳ございません……ゾフィー様に失礼な態度を取った……オリビア様に嫌がらせをして……ご自分の態度を改めて貰おうかと思って……」ガタガタ震えながら答えるドナ。すると、フッとミハエルが笑った。「まぁ……目の付け所は悪くなかったかもしれないが……それにしては、やり方を間違えたな。我々の前で、こんな粗悪な料理を出させたのだから」ミハエルもまた、ランドルフの美食家の血を色濃く引いていたのだ。「全くだ……よくも、我等美食家として名高いフォード家の泥を塗ってくれたな!」「そう言えば、オリビエはどうしたのかしら?」自分に火の粉が飛んでくることを恐れたゾフィーがオリビアの話題を口にした。「お取込み中、申し訳ございません!」そこへメイドのトレイシーが現れた。彼女は今まで様子を伺い、現れるタイミングを見計らっていたのだ。「何だ、この騒々しい時に!」舌打ちするランドルフ。「はい、私はオリビア様の専属メイドです。実はオリビア様は、今夜の夕食で御自身にはパンとスープのみしか与えられないことを偶然知ってしまいました。まさか美食一族として名高いフォード家でそのような料理しか出されないことにショックを受けられたオリビア様は、町の外に外食に行かれてしまったのです。粗悪な料理を口にするくらいなら、外の食事の方がずっとまともだからとお話されておりました」「な、何だと!? フォード家よりまともだと!? あのオリビアがそんなことを言ったのか!?」「そんな! 下町の料理よりも私の腕前の方が優れているはずなのに!」この話に美食家のランドルフ、自分の腕に自信
last updateLast Updated : 2025-01-03
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17話 マックス

 フォード家でメイドがメイドがクビにされる騒動が起こっている一方、オリビアは店の料理を堪能していた。「……美味しい! このお店の料理……家の料理と同じくらい……いえ、それ以上に美味しい!」オリビアは美味しそうな表情で、スパイスの効いた肉料理を口に入れた。「そうか、気に入ってくれたか。フォード家の令嬢にそう言ってもらえるのは光栄だな」カウンター越しからマックスが笑顔になる。「私が料理を気にいると、何かあるのですか?」「ああ、大ありだ。何しろフォード家といえば、美食貴族ということで有名じゃないか。それに現当主は、たまに食に関するコラムを書いて新聞に掲載されたりしているぞ?」「え!? 何ですか? その話」「自分の家のことなのに知らないのか?」「い、いえ。父が料理のことに関しては、中々こだわりがあるのは知っていましたが……」だからこそ、今夜粗末な料理が自分に出されることを知ったオリビアは外食をすることにしたのだ。料理に関してプライドの高い父親が、パンとスープのみの食事を見過すはずが無いと思ったからである。だが、まさかコラムまで書いていたとは思いもしていなかった。「特に今の当主が訪れる店は、味に間違いはない。必ず儲かる店になると言われているくらいだ。実際その通りだし」「そんな話……少しも知りませんでした。驚きです」「驚くのは、むしろこっちだ。オリビアはフォード家の娘なのに、そんなことも知らなかったのか?」マックスは肩をすくめた。いつの間にか、彼は「オリビア」と呼んでいる。「私……家族とは、うまくいってなくて疎外されているんです。会話に入ることもできません。顔を合わせるのは食事のときくらいなんです。それでも居心地が悪いので1人遅れて食卓について、一番早く席を立っています。だから家族のことを良く知らなくて……」「ふ〜ん。それで居心地が悪すぎて、今夜とうとう1人でバーに来たってわけか?」「いえ。そういう理由ではありませんが……ただ、何となく今夜は外で食事をしてみたかったんです」まさか義母に従順な態度を取らなかった罰として、夕食はパンとスープしか出してもらえないから……とは口に出せなかったのだ。(私自身、夜1人で外食するほど自分が行動的だったとは思わなかったわ。でも、これもきっとアデリーナ様のおかげね)笑顔のアデリーナの姿がオリビアの脳裏を
last updateLast Updated : 2025-01-04
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18話 食事の後

――20時半 食事を終えたオリビアは見送りするマックスと一緒に店を出た。「それで自転車はどこに止めてあるんだ?」マックスが周囲を見渡す。「ここに止めてあるわ」オリビアは店の路地脇をに置かれた自転車を指さした。「へ〜これがオリビアの自転車か。女で乗っているのは本当に珍しいよな。すごいじゃないか」「そう? ありがとう」いつの間にか、2人は砕けた口調で話をするまでになっていた。「もう遅い時間だが、家は近いのか?」「近いわよ。せいぜい自転車で10分程の距離だから。でも歩きだと20分はかかるけど」「へ〜それは便利だな。だったら、ちょくちょく来店出来るよな?」「え?」その話に、オリビアはマックスの顔を見上げる。「美食家のフォード家の御令嬢が足繁く来店してくれれば店の評判も上がるからな。その分サービスはするし、店にいる間は悪い男が絡んでこないように俺が見張っているから」「あ……ひょっとして私をカウンター席に移動させたのも、食事の間ずっと傍にいたのも、そのためだったの?」「ああ、そうさ。何だよ、今頃気づいたのか?」マックスが肩をすくめる。「ええ、……ごめんなさい。気づかなくて」「そんな謝ることはないって。でも、本当冗談抜きでたまに来店してくれるか? 新メニューを考えておくからさ」「まさか、この店の料理ってマックスが考えたの!?」「当然だろう? 俺はこの店のオーナーなんだぞ? 自分で考案して、レシピを雇った料理人に作らせている。それで俺はウェイターをして、悪い客がいないか見張ってるんだ。何しろ、昼間の時間帯は姉の店だから評判を落とすわけにはいかなくてね」「そうだったの……」(この人、口調も態度もどこか乱暴だけど……いい人みたい)「おい、心の声が漏れているぞ」「あ、ご、ごめんなさい!」まさか口に出していたとは思わず、オリビアは顔を真っ赤にさせた。「ハハ、別に謝らなくていいって。自分でも貴族らしくないと思ってるんだ。それじゃ気をつけて帰れよ。今度は婚約者も連れてくればいいんじゃないか? そうすれば安心だろうし、売上にも貢献してもらえそうだ」「え? 婚約者がいること、知っているの?」「あぁ、まあな。2年の女子学生の中で一番の才女だということで、試験結果が張り出される度、ギスランが自慢していたからな」「ギスランが私を自慢……?」
last updateLast Updated : 2025-01-04
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19話 トレーシーの報告

 自転車に乗って、僅か10分ほどで屋敷に戻ってきたオリビア。扉は案の定閉まっていたので、鍵を開けて中に入ると自室へ向かった。「お帰りなさいませ、オリビア様!」部屋に戻ると、室内で待っていたトレーシーが駆け寄ってきた。「ただいま、トレーシー。私が出かけた後、何も変わりなかったわよね?」「いいえ、ありました。事件発生です!」オリビアの質問に、トレーシーは大きく頷く。「え! 事件? 何があったの!?」「はい。夕食時に不在のオリビア様の席にパンとスープが置かれたことで旦那様が激怒し、ついでにニコラス様と奥様も怒って、主犯格のメイドが1人クビになりました」トレーシーは余程興奮しているのか、一気にまくしたてる。「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて頂戴。状況がよく分からないから順を追って説明してくれる」「あ……申し訳ございません。ではもう一度説明させていただきますね」そこで、トレーシーは今夜の食事会で起こった出来事を細かく説明した――****「……そう。そんなことがあったのね? 確かにちょっとした事件ね」オリビアはトレーシーが淹れてくれたお茶を一口飲むと、口元に笑みを浮かべた。「はい、それはすごい光景でした。まさか旦那様がオリビア様に出された食事の件で、あれほど激怒されるとは思いもしませんでした。でもオリビア様が仰った通りになりましたね」「そうでしょう? 父は食に関してうるさいから子供の頃はしょっちゅう料理長が入れ替わっていたの。どうも料理が気に入らなくてクビにしていたみたい。そのことを思い出したのよ。何しろ食事に関して父は、とてもプライドが高いから」「確かに使用人である私達の料理も豪華ですね」納得したかのようにトレーシーが頷く。「だけど、まさかあのメイドがクビになるまで追い込められるとは思わなかったわ」「彼女、旦那様の前に連れてこられたとき真っ青な顔色でガタガタ震えていましたよ。奥様にまで怒鳴られていい気味でした。大体前からオリビア様に嫌がらせをしていて気に入らなかったんですよ」「そうね。今までの私なら、あのまま食事の席に着いて、ことを荒げないようにしていたでしょうけど……もう媚を売らないことにしたの。いくら私が皆に好かれるように愛想を振りまいても、何も変わらなかったわ。だからこれからは自分の思うように生きることに決めたのよ」そう言
last updateLast Updated : 2025-01-05
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20話 生まれ変わったオリビア

—―翌朝いつものように6時半にセットした目覚まし時計でオリビアは目が覚めた。「う~ん、良く寝たわ」伸びをして起き上がると、部屋の中がいつもより薄暗いことに気付く。「あら? もしかして……」ベッドから降りて、カーテンを開けてみると外は生憎の雨だった。「雨……困ったわ。自転車で行けないわ」いつものオリビアなら、遠慮して馬車を出すのを躊躇っていた。けれど、憧れの女性、アデリーナを思い出す。「そうよ、私だって立派なフォード家の人間。遠慮する必要は無いわ。堂々と馬車を出して貰えばいいのよ」オリビエは完全に割り切ると、朝の支度を始めた。7時になり、専属メイドのトレーシーが部屋に現れた。「おはようございます、オリビア様。あ……また、お一人で朝のお支度をなさったのですか?」「ええ、自分の支度位、1人で出来るわよ。あなたはまず自分の仕事を優先してちょうだい」義母や異母妹には専属メイドが複数人いたが、オリビアにはトレーシー1人のみだった。当然、トレーシーは忙しい。なので出来るだけ負担をかけないようにオリビアは出来るものは自分でやってきたのである。「ありがとうございます。お仕えする方がオリビア様のような方で、本当に良かったです」大袈裟にお礼を述べるトレーシーにオリビアは笑みを浮かべる。「大げさね、トレーシーは」「あ、そう言えば仕事仲間に聞いたのですが、昨夜は深夜になっても旦那様の書斎から明かりが洩れていたそうです。珍しいこともあるものだと仲間内で話題になっていましたよ」「まぁ、そうなの? いつもお父様は22時過ぎには就寝しているのに……何かあったのかしら? でも、どうでもいいことだけどね」割り切ることに決めたオリビアは潔かった。「何だか、オリビア様。たった1日で変わりましたね。まるで魔法にかかったみたいです」「ううん。魔法にかかったのではなくて、多分魔法が解けたのかもしれないわ」勿論、魔法を解いてくれたのは……アデリーナであることは言うまでも無い。その時。—―ボーンボーンボーン7時半を告げる時計の音が鳴り響いた。「あ、朝食の時間だわ。行ってくるわね」「はい、行ってらっしゃいませ」オリビアはトレーシーに見送られ、ダイニングルームへ向かった。長い廊下を歩きながら、窓の外にめをやると外は本降りの雨になっている。「酷く降って来たわね…
last updateLast Updated : 2025-01-05
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