花は車を走らせ、若子を乗せて病院へ向かっていた。 若子は何度も時間を確認し、焦りを募らせる。 「花、もう少しスピード出せない?」 「若子、気持ちは分かるけど、落ち着いて。ここ、制限速度があるの。もしスピード違反で警察に止められたら、もっと時間がかかるわよ?」 若子は深く息を吸い、無理やり気持ちを落ち着かせようとした。 もうすぐ修に会える。 それなのに、心がざわついて仕方ない。 そのとき― 「また雨が降ってきたわね」 花はフロントガラスに落ちる雨粒を見て、ワイパーを作動させた。 若子も窓の外を眺める。 雨粒が窓を伝う様子を見ていると、なぜか胸が締めつけられるような気分になった。 ―嫌な予感がする。 不安が、静かに胸を締めつける。 「若子、彼に会ったら、何を話すつもり?」 花がふと尋ねた。 若子は小さく首を振る。 「......分からない。ただ、今はとにかく彼に会いたいの。そのあとで、まず謝ろうと思う」 「でも、もし彼が許してくれなかったら?それどころか、会うことすら拒否されたら?」 「......」 若子は少しだけ考え込み、ぽつりと答えた。 「......それなら、扉の外からでも話すわ」 何があっても、彼に伝えなければならない。 彼女は妊娠していることを― どんな形でもいい。 修にこの事実を伝えるのは、彼女自身でなければならない。 もし誰か他の人から聞かされたら、修はどんな気持ちになるだろう? 怒り?失望?絶望? それなら、怒りをぶつける相手が目の前にいたほうがいい。 彼女が直接伝え、直接その怒りを受け止めるべきだ。 花はそれ以上何も言わず、車を走らせ続けた。 目的地までは、あと少し。 ナビの表示では、あと10分ほどで到着するはずだった。 ―だが、次の瞬間。 雨の中、突然人影が横切る。 「っ......!」 花はすぐさまブレーキを踏み込んだ。 キィィィィッ― 急ブレーキの衝撃で、若子の体がぐらりと揺れる。 だが、シートベルトのおかげで大事には至らなかった。 「何があったの?」 考え事をしていた若子は、状況が分からず花に尋ねる。 「若子、ここで待ってて。絶対に動かないで」 花はそう言うと、シートベルト
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