高峯は、表面上は柔らかい笑顔を浮かべながら言った。「特に深い考えはありませんよ。お会いしたいと思っていただけで、それ以上のことはないです。そんなに悪く見ないでください。全てに目的があるわけではありませんから」光莉は冷たい笑みを浮かべ、相手の言葉を一刀両断した。「自分の息子を使って、私の元嫁を脅した挙句、目的なんてないと言えるとはね。遠藤さん、私たちは子供でも馬鹿でもありませんよ。そんな見え透いた言い訳はやめたらどうです?」その言葉にはトゲがあり、火薬のようにピリピリとした雰囲気を纏っていた。若子も思わず目を見張る。まさか光莉がここまで率直に話すとは思わなかったのだ。「若子」光莉は後ろに控えていた彼女に向き直った。「海鮮を見てきてちょうだい。一番新鮮なものを選んでね」「わかりました」若子は立ち上がり、軽く頷く。「では、お先に失礼します」そう言ってその場を離れた。二人が何か話すのだろうと察し、深く聞かずに済ませる。「こちらへどうぞ」サービススタッフが若子を海鮮コーナーに案内していく。そこには生きた海鮮が並び、好みに合わせて調理される仕組みだった。若子が離れると、高峯の顔から笑みが消えた。光莉の表情もさらに冷たくなる。「遠藤さん、今度は何の遊びですか?」光莉の声には一切の感情がない。 「こんな小細工、楽しいですか?」高峯はにやりと笑い、椅子に肘をついて前に身を乗り出した。 「ええ、楽しいですよ。特に―君の怒った顔を見るのがね。昔と変わらないその顔が、たまらないんだ」年月というものが、彼女には特別に優しかったのだろう。その顔にはほとんど痕跡が残っておらず、皺一つ見当たらない。むしろ、歳月は彼女に一層の女性らしさと色気を与えていた。その洗練された魅力は、若い女性には到底及ばないものだ。彼女の冷たささえも、致命的なほど人を惹きつける毒があった。光莉は冷たく鼻で笑う。 「そうですか。よほど退屈な人生をお過ごしなんでしょうね。そんな暇つぶししか思いつかないなんて」「そうかもしれません」 高峯は長いため息をついてみせた。 「夜は長いものですからね。伊藤さん、どうやったらもう少し楽しめるか、教えていただけませんか?」そう言うと、テーブルの下で光莉の足にわずかに触れる。光莉は動じず、表情も変えない。心の中では水をぶっかけ
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