一時間後、医師は弥生に診断書を手渡した。「重度の胃病を抱えているそうです。意識を失って倒れた主な原因は胃病の発作ですが、これに加えて栄養不足と過度のストレスも影響していると思います」弥生は医師から診断書を受け取り、それを暫く見つめていた。栄養不足や過度のストレスといったことが瑛介にあったなんて、想像もできなかった。彼女のイメージでは、瑛介はいつも何でもやり抜ける完璧な存在だった。それに、彼が病気になることや苦しむ姿など、一度も見たことがなかった。病室のほうを一瞥して、弥生は医師に尋ねた。「これからはどうすればいいのでしょうか?入院が必要なのでしょうか?」「患者さんの状態では、しばらく入院して休養することをお勧めします。さもなければ、このままではより悪化するでしょう」「そうですか。なぜここまで重い病気になってしまったのでしょうかね?」「不規則な食生活や過度な飲酒などが原因で胃に負担がかかることがあるでしょう。ところで、彼氏さんはお酒を飲まれますかね?」「彼氏さん」という言葉に一瞬眉をひそめたが、弥生は説明するのも面倒だと思い直し、頷いた。「ええ、かなり飲んでいます」実際に彼が飲んでいる姿を見たことはなかったが、友人の千恵の話では、彼女が瑛介と知り合ったのはバーだった。そして、千恵は彼のためにお酒を飲むことを鍛えようとした結果、胃を壊してしまったらしい。酒豪の千恵でさえ胃病になったのだから、瑛介の状態は推して知るべしだった。「それなら、これからは必ずお酒を控えさせるよう注意してくださいね」「はい、彼に伝えます」「では、入院手続きを済ませてください。お願いします」「ありがとうございました」弥生は瑛介の入院手続きをするために受付へ向かった。しかし、手続き中に弥生は財布を忘れたことに気づいた。電子マネーだけでは、入院費用をまかなえなかった。仕方なく、彼が昏倒した際に自分のバッグに入れておいた私物と財布を取り出した。そして、中から見覚えのあるキャッシュカードを選び取った。以前、ホテルで彼の財布を見た時、カードの配置が昔と全く変わっていないことに気づいていた弥生は、パスワードもおそらく変わっていないと推測した。もし変更されていたら......「こちらに、暗証番号を」弥生は少し身をか
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